77 エルフは子供が生まれにくいそうだけど、まったくいない訳じゃないらしい
クラフティに壊された門と結界。それによって、この里も安全ではなくなったみたい。
「大人は問題ないのです。この里の近くに住む魔物程度なら戦士たちが狩れますし、もし里に侵入されたとしても助けが来るまでくらいなら他の者たちでも耐えることができます。ですが、子供たちが」
エルフは人間に比べて子供はあまり生まれないらしい。でも、まったくいないって訳じゃないのよ。
そりゃそうだよね。もしほとんど生まれないなら、いくら長命種でもその内絶滅してしまうもの。
だからこの里にも私が思っている以上に子供がいるみたいなのよね。
それにこの世界のエルフって、生まれてから大人になるまで160年もかかるそうな。
「生まれてから120年ほどたった子たちならば、大人がかばっている間に逃げることができます。でも、それ以下となると」
「小さな子では、逃げ遅れる心配があるのね」
子供は体力がないし、足が小さいからよく転ぶ。それにもし魔物が襲ってきたりしたらすごく慌てるだろうから、体が硬直して動けないなんてこともありそうだもの。
そんな子供たちを里に置いておくのは、かなり危険だと長老は言うんだ。
「ですので、できるのであればアイリス様と眷属様が住む地でかくまってはもらえないかと」
「私たちのところで?」
長老によると、幼い子供たちは80人くらいいるらしい。それに親がいないと不安になるだろうから、できれば母親だけでも一緒に避難させてほしいとのこと。
「お父さんはいいの? まだ幼い子だと、今離れ離れにしたら顔を忘れてしまうなんてこともあるんじゃない?」
「ですが、そこまで甘える訳には」
「アイリス様。それ以前に一度ミルフィーユと話し合うべきではありませんか?」
長老と話していると、そこでオランシェットからの横やりが。
でも、そっか。この話は私の独断で返事をしていいものではないよね。
「ありがとう、オランシェット。長老、私の城を任せている眷属に相談してからでもいいですか?」
「はい。こちらは無理を申している側ですから」
ってことで、ミルフィーユと話し合うことになったんだけど、
「ご返事はいつごろ頂けるのでしょうか?」
長老からこんなことを言われたので、一瞬ぽかんとすることに。
「ああ、そうか。普通はそう思うよね。大丈夫、眷属との話はこの場からでもできるから」
「なんと! 流石上位神様ですな」
相変わらず勘違いしてるけど、今のところはその方が都合がいいから放置。
私はミルフィーユに向かってクランチャットを飛ばしたのよ。
「ミルフィーユ。今いい?」
「アイリス様ですか? はい大丈夫ですが、何か問題が起こりましたか?」
私は今までの経緯と、エルフの長老から持ち掛けられた相談をミルフィーユに話したのよ。
すると軽い感じでこのような返答が帰ってきた。
「避難が必要なら、城に連れてくればよろしいではないですか」
「えっ、いいの?」
私もそれが一番いいとは思っていたけど、それ相応の人数が移動することになるもの。
だからもう少し詳しい話をしてから判断することになるんじゃないかと思っていたのよね。
「えっと、解ってる? かなりの人数が移動することになるのよ」
「はい、問題ありません。住む家はトレードボックスから調達できますし、城の周りの整地もかなり進んでおりますから」
整地に関しては見ていないから私では判断できない。
ってことで当事者のオランシェットに聞いたところ、木の除去というだけで見ればすでにかなりの広さがすんでいるそうな。
「それなら家を建てることはできるのね?」
「はい。城壁を構えろと言われましたら無理ですけど、それくらいなら今の状態でも大丈夫かと」
そう言えば自販機から買える家って、例えそこに木が生えていたとしても平気で建てることができるからなぁ。
そりゃあ森の中にいきなり建てると家から出ることも難しいなんてことになりかねないけど、ある程度の木の除去が終わっているのならその心配もない。
それなら確かに、エルフの子供たちやその親たちを移住させても問題はないかも。
「あっ、でもちょっと待って。ここの魔物とうちの城周辺の魔物だと、実力が違いすぎない?」
この集落のエルフたちって、うちの警備兵でもケガをさせないように軽くあしらえる程度の実力よね。
そのエルフたちが撃退できるってことは、もしかしてこの近くの魔物ってうちで小動物扱いしてるキラーラビットより弱いんじゃない?
そんな所で生活していたのに、うちの城の周りに家を建てて住むことができるのだろうか?
「魔物に対する警備はどうするの? ここでさえ危ないと言ってるのに、うちの城の周りなんてもっと強い魔物だらけでしょ」
「アイリス様。魔物は相手の強さを感じ取ります。道具であるゴーレムはともかく、土の上位精霊であるベヒモスが闊歩し、NPCであるエクレアとオランシェットが共に行動している城に近づこうとする魔物などおりませんよ」
クランチャットの向こうでころころと笑うミルフィーユさん。
そっか。そう言えば初めて城から出た時も、私を見た瞬間ジャイアントボアが一目散に逃げて行ったっけ。
それにガレット・デロワたちが警備兵を鍛えるために、皮や肉なんかの素材が余るくらい近くの魔物を狩りまくってるって言ってたからなぁ。
命の危険が危ない(過剰表現)うち城の近くになんて、魔物からしたら間違っても迷い込みたくない場所だろう。
ってことで、エルフの子供たち&その親たちはうちの城の周りに住んでもらうことに大決定!
「解ったわ。エルフたちを連れて戻ることになるから、受け入れ準備をお願いね」
「ご依頼承りました、アイリス様」
そんな訳でうちの城、というかうちの国か。50年ほどの期間限定だけど、人口が一気に増えることになってしまったんだ。




