6 フライングソード
「さて、これからどうするかなぁ」
移動はしたものの、痕跡を残さないようにするなんてできるはずないから、ちょっと調べれば私がここを通ったことはすぐに解ると思う。
だからこのまま逃げ続けても、森の中を移動するのに慣れた人がいれば追いつかれてしまうかもしれないのよねぇ。
そう思った私は、何かいい方法はないかしらと考えたのよ。
そうしたらある意味天啓ともいえるような、ある可能性が降ってきたんだ。
「あっ、そうだ! 魔法やステータス画面が使えたのなら、あれも使えるかも?」
私が思いついたのは、ゲーム内の移動に使われていた乗り物であるフライングソード。
これは文字通り宙に浮かぶ幅広の大剣で、ゲーム内ではサーフボードのようにそれに乗って移動できたんだ。
宙に浮いているっていうことは、移動しても足跡が残らないでしょ?
それに移動速度も走るよりもはるかに早かったから、あれさえ使えれば無事に逃げ切れると思ったってわけ。
「えっと、確かゲームの時はコントローラーの……わっ!」
ということで早速使い方を思い出していたんだけど、そしたらなぜかさっきまではいなかったはずの大きな馬の背に乗せられているという状態に。
だから一瞬焦ったんだけど……。
「びっくりしたぁ。って、そうか。今はこのタイプを使ってたんだっけ」
フライングソードってデフォルトは大剣の形をしているんだけど、ゲーム内で手に入れたり課金をすることによって見た目を変えられたんだ。
それでこの馬はというと、昨日寝落ちするまで私が使っていたフライングソードのカスタム形態ってわけ。
う~ん、ならステータス画面と同じでフライングソードにも考えるだけで乗れるってことか。
「これで移動が楽にはなったけど、でも流石にこのままじゃダメよね」
念願のフライングソードではあるんだけど、この馬ってすっごく大きいから森の中を進むのには向いてないのよ。
そして何より、当初の目的である足跡を残さない移動ができない。
という訳で私は一度フライングソード(馬)を引っ込めると、ステータス画面を開いてゲーム設定の中にあるフライングソードの画面に切り替えたんだ。
するとそこにはゲーム時代と同様にいくつものカスタム形態が並んでいたから、その一番上にあった初期型を選択。
そしてもう一度フライングソードを起動させると最初に望んでいた通り、私は無事大きな空飛ぶ大剣の上に乗ることができたのよ。
「よし、これで無事逃げ切ることができるぞ……ってこんなのに私、ほんとに乗れるの?」
だから一瞬喜んだんだけど、そこでまた別の不安が。
これ、サーフボードみたいに乗って移動する道具なんだけど、陰キャのオタク代表のような現実の私は当然サーフィンなんてやったことが無いのよね。
それだけに本当に乗りこなせるのかな? なんて思ったんだけど、それはどうやら考えすぎだったみたい。
実際に動き出してみたら、自転車に乗るのと同じくらい簡単に動かすことができたんだ。
それに木なんかの障害物も自動でよけてくれるみたいで、そのおかげで私はすいすい森の中を進むことができたんだけど……。
「でもこれ、ちょっと早すぎじゃない? 森の中でこの速さは、流石にちょっと怖いんだけど」
モニターで遊ぶゲームだったから早さに関してはそれほど考えたこと無かったけど、実際に乗ってみるとこれ、かなりの速さなのよね。
間違いなく自転車よりも早いし、多分4~50キロは出てるんじゃないかなぁ?
私は自動車の免許を持ってるから、これが普通の道や草原を走るのならこれくらいの速さで移動したってどうということも無いのよ?
でも立ち並ぶ木々の間をこの速さで駆け抜けるのは、いくら自動で障害物をよけてくれるとは言っても流石にすごく怖かったんだ。
それからフライングソードで駆け抜ける事、約30分ほど。
森の中に小さな池があってその周りが少し開けていたから、私はそこで小休止することに。
フライングソードを消した私は、その池のほとりに座って一息ついたんだけど、
「う~ん、移動中にも何度か見かけたけど、あれってやっぱり、ゲームでもあった”あれ”よねぇ?」
私の視線の先にある木の根っこのあたり、そこにはぼおっと青く光っている所があったの。
そして私からするとそれは、ゲーム内でよく見かけた”あれ”にしか見えなかったんだよね。
「あの光、移動中も所々で見かけたんだけど……どう考えても採取ポイントにしか見えないわよねぇ」
そう、私が見つめているのはゲームのフィールドマップでよく見かけた、いろいろなものを拾うことができる採取ポイントそっくりな光。
もしかして、あそこでもなんか採れるのかなぁ?
そう思って近寄ってみると特徴的な形をした草が生えていたから、早速調べてみるとその用途と採取方法が出て来たんだ。
それによるとどうやらこれ、下級ポーションを作るのに使える薬草みたいね。
「ゲーム内ではただ薬草とだけ書かれて売っていたけど、そうか、あれってこんな形をしていたのか」
と、そこまで考えたところで、私は自分の馬鹿さ加減にちょっとあきれてしまう。
「ゲームの世界に転生したわけじゃないんだから、この薬草とゲームに出てきた薬草が同じ物のはずないじゃない」
でも、それと同時にある驚くべき事実に気が付いたんだ。
この薬草でポーションが作れるのなら、同じようにこの世界の素材を使って錬金術のレシピに載っているものを作れるってことじゃないの。
「そして当然、他の生産スキルもこの世界で使えるってことか」
これは私にとって、かなり有益な情報よね。
だって、生産系スキルが使えるなら、この世界でも物を作って売る生活ができるってことだもの。
正直悪の組織に呼び出されたからって犯罪者になるつもりはさらさらないから、生きていくためには何かしらの職には着かないといけないなぁと思っていたのよ。
でもゲームでの生産スキルが使えるというのなら、それは簡単よね。
だって私、小金稼ぎのためにすべての生産系ギルド日課をこなしていたから、そのスキルが有効ならばどんなものでも作れるってことだもの。
そりゃあ地域によって必要なものは違うだろうけど、どんなものでもある程度の完成度で作ることができるというのは多分、現実世界ではとんでもなく有利な状況なんじゃないかな。