68 なんかミルフィーユからクランチャットが来た
61話から67話まで登場したメイヴィスちゃんの母親の名前が途中から間違っていたので、本来のデリアに修正しました。
家に帰った私は、ミラベルさんと約束したフルーツサンドを作ることに。
「今から作れば、ギリ昼食に間に合いそうだからね」
誰に聞かれたわけでもないのにそんなことをつぶやきながら、ストレージからさっき焼いた全粒粉パンの残りを取り出すとそれをスライス。
これまたストレージから取り出した生クリームをたっぷりと載せた所で、はたと考える。
「入れる果物は何にしようかなぁ?」
メイヴィスちゃんの家で作ったフルーツサンドはビタミンBが豊富と言う理由で柑橘系を選んだけど、今回はそんな縛りはない。
それならやっぱり華やかな方がいいよねってことで、私が冷蔵庫から取り出したのはみんな大好き真っ赤なイチゴだ。
「マンゴとかキウイなんかを挟んだものもあるけど、やっぱりフルーツサンドの王道と言えばこれよね」
ももとかマスカットも人気じゃね? とか言う幻聴も聞こえてきそうだけど、異論は認めない。
ってことでイチゴを厚めにスライスすると、それを何枚も生クリームの上に載せてから更に追い生クリーム。そしてその上にパンを載せたらイチゴのフルーツサンドの完成だ。
売りものならカットされた時の見た目を考えないといけないけど、これは個人で楽しむものでしょ。
だから丸ごとより、どこをかじってもイチゴが出てくるスライスの方がいいと思うのよね。
と、そんなことを考えながら同じ作業を何度か繰り返していたんだけど、
「アイリス様。少々お時間を頂いても宜しいでしょうか」
そこで急に、城にいるミルフィーユからクランチャットが飛んで来たのよ。
なんだろう? さっき簡易調理ユニットを取りに城へ行った時のことを確認でもしたいのかな?
そんなことを考えながら、作業の手を止めて返事をする。
「いいけど、なんかあった?」
「少々厄介な問題が起こりまして、キャッスル・オブ・フェアリーガーデンまでお帰り頂きたいのです」
これにはちょっとびっくり。だって、帰ってきてほしいってことはミルフィーユたちだけじゃ判断ができない事態が起きたってことだもの。
「大丈夫なの?」
「はい。この城内での問題ではありませんから。ただアイリス様のご判断を仰がねばならない事態ではあるので、お帰り頂きたいと考えた次第です」
城のことじゃないってことは、この間言ってた樹液採取のために置いた家に現れたドラゴン関係かな?
でもガレット・デロワが簡単にあしらえることができる程度の相手だって言ってたから、私が帰らないといけないような話にはならないような?
まぁ、いろいろと考えた所で答えは出ないよね。ってことで、ここは一旦、城に帰ることにする。
「解ったわ。ちょっとシャルロットにお使いを頼むから、それが済んだら城に向かうわね」
「解りました。お帰りをお待ちしております」
はて、急かされなかったってことは、それほど緊急な用件じゃないってことかなぁ?
そんなことを考えながら、できあがったフルーツサンドをかごバッグの中へ。
そこへ冷蔵庫から出したオレンジジュースとリンゴジュースの500ml紙パックを入れると、大きな声で部屋の掃除をしてくれているシャルロットを呼んだのよ。
「お呼びですか?」
「うん。なんかミルフィーユから用事があるってクランチャットが飛んできたから、ちょっと城に帰らないといけなくなったの。だからこのフルーツサンドを、私の代わりにお隣のミラベルさんの家に届けてほしいのよ」
「解りました。その後、私も城へ赴いた方がよろしいですか?」
「う~ん、それは大丈夫なんじゃないかな。緊急事態が起きているって感じでもなかったし、届け終わったら留守番をしてて」
「畏まりました」、
そう言ってきれいなおじぎをするシャルロットにかごバッグを渡すと、私はそのまま家の地下へ。毎度おなじみ転移ポートを起動させて、城に飛んだのよ。
するとそこにミルフィーユが立っていてびっくり。いや、よくよく考えたらここがこの子本来の定位置なのか。
ゲーム時代によく見た光景を懐かしみながら、帰還のあいさつ。
「ただいま」
「お帰りなさいませ。アイリス様」
深々と頭を下げるミルフィーユを、立ち話もなんだからと言って城の中へと誘導。
これまた深々と頭を下げるいつものメイドさんに軽く手を振ってあいさつしながら、執務室へと移動したんだ。
「それで、何があったの?」
据付のソファーに腰を下ろすと、さっそく私を呼んだ理由を聞いてみたのよ。
「また、この間のドラゴンが出たとか?」
「いえ、今回は樹液採取の館ではなく、先日設置した養蜂箱の館で少々騒ぎがありまして」
「養蜂箱を設置した家で?」
あれを設置してと頼んだのは、まだ数日前のことよね。そこでもう問題が起こったの?
そのあまりに速い展開に少し驚きながらも、何が起こったのかを聞いてみることに。
「お花畑の近くに設置すると言う話だったけど、そこにも変わった魔物が居たの? 例えばエルダートレントとか」
「いえ。今回は魔物が出たわけではありません」
魔物じゃないのか。まぁ、少し強い程度の魔物が出たくらいじゃ私を呼んだりしないよね。
だって、多分この世界最強クラスのエンシェントドラゴンが出た時でさえ事後報告だったんだし。
「それじゃあ、何があったの? もしかしてあのお花畑の花が、どこかの国が管理している麻薬の材料だったとか?」
そう考えた私は、ちょっと冗談交じりに聞いてみたのよ。
するとミルフィーユから、驚きの返答が帰ってきた。
「麻薬の材料になる様な草花であれば、養蜂箱を設置する場所にしたりは致しません。ですが、その地域を占有しているものが居たようでして」
「ええっ、本当にどこかの国の管理地だったの?」
この城の周りとまではいわないけど、あそこもそこそこ強い魔物がいるはずの土地よね。
そんな土地を管理できる国が近くにあったのかと驚いたのだけど、どうやらそれは私の早とちりだった模様。
「いえ、人の国ではありません」
「人じゃなければ何なのよ」
「どうやらあの花畑を含む一帯の森は、エルフが住まう土地であったようなのです」
「エルフ? エルフって、あれよね。耳が長くて魔法と弓が得意な耽美種族」
急に出てきたファンタジー要素に、私は思わず目が点になるのだった。




