63 ご近所付き合いをちゃんとしていると、もしもの時は助けてくれるんだよ
「効果はっと……よし、ちゃんと治るみたいね」
しらべるコマンドで脚気が治るかどうか確認したところ、これで問題ないみたい。
ってことで材料を増やして、先ほどの工程を何度か繰り返す。薬が持っていた小さな蓋付きのかめ一杯になるほどできた所で作業は終了だ。
「リーファちゃん、メイヴィスちゃん。お薬ができたから、デリアさんのところに戻るわよ」
作業していたテーブルが高くてよく見えなかったのか、途中で飽きて少し離れた所で遊んでいたリーファちゃんたちに声を掛ける。
すると二人は私のところに大慌てで、でもまだ小さいからよちよちとやってきた。
「おくちゅり、できた?」
「まま、なおう?」
「うん。だから一緒にお薬を届けに行きましょ」
「「あい!」」
満点笑顔のふたりを引き連れて、私は隣の部屋で寝ているデリアさんのところへ。
「デリアさん。さっき話したお薬ができたから、飲んでください」
「もうできたんですか!?」
びっくりしているデリアさんに、蒸留水が入ったコップと作ったばかりの錠剤を一粒渡す。
「一回一錠ずつ朝晩の2回飲んでください。それ以上飲んでもあまり意味がないので。あと溶けだすと苦いみたいだから、飲む時は水と一緒に一気にね」
「えっ、ええ、解ったわ」
小さな子が連れてきた錬金術師が作った薬なのに、デリアさんは少し混乱しているのか何の疑いもなく飲んでくれた。
まぁ、お金を取っている訳でも無いのでだます意味自体が無いんだけど。
「えっと、これで治るのでしょうか?」
「治るよ。この病気はね、野菜やお肉に含まれているある栄養が不足した時になる病気なの。だからその栄養をたっぷり入れて、それに少しだけマジックポーションの効果を付与した薬を飲めば症状は緩和するし、傷んだ体も回復するってわけ」
私はそう言うと、使った薬草と野菜の名前を羅列していったんだ。でも、ここでひとつ問題が。
私の使った野菜、ぜんぶストレージに入っていたウィンザリア時代のものでしょ。
だからデリアさんはそのすべてを知らなかったし、使った薬草はこの世界のものだけど錬金術師でも薬師でもないのだから知っているはずないのよね。
結果、デリアさんは今一歩理解ができていないご様子。
「そう言えば、この国じゃあまり見かけない野菜ばかりだっけ。使ったのは私の国の野菜だから聞き覚えが無いかもしれないけど、効果は間違いないから安心して」
「はぁ。ありがとうございます。それでお題はいかほどでしょうか?」
「ん? いらないけど?」
これを聞いたデリアさんは、またもびっくりして固まってしまった。
でも今回、病気を治してって頼んできたのはデリアさんじゃなくリーファちゃんでしょ。
それなのにデリアさんからもお金をもらうのも、やっぱりなんか違うと思うのよねぇ。
「そんな訳には……」
「いいの、いいの。デリアさんに依頼されてきたわけじゃないんだから」
依頼者からお金をもらうとなるとリーファちゃんてことになるからと言うと、デリアさんは不本意ながらも納得してくれたみたい。
「ありがとうございます。正直助かります」
そこからの流れで聞くことになったんだけど、デリアさんの旦那さんは少し前に流行った病気で亡くなってしまったそうな。
だからお金はあまりなく、私が請求したとしても薬代を払えるような状態ではなかったらしい。
「それじゃあ、今までどうしてたの? デリアさんは寝込んでいたんだから、メイヴィスちゃんの食事とかを作ることもできなかったんでしょ?」
「ああ、それは……」
デリアさんが話をしようとした瞬間、玄関の方から声が聞こえてきた。
「デリアさん。お加減はどう?」
「あれ?、この声って」
そう思って部屋の入口に目を向けると、リーファちゃんのお母さんであるミラベルさんが入って来た。
「あれ、アイリスちゃん。どうしてここにいるの?」
「リーファちゃんにデリアさんのお薬を作ってって頼まれて」
ここにいる理由を話すと、ミラベルさんは困ったような笑顔に。
それはそうだよね。薬は安いものじゃないんだから、小さな子に頼まれたからって普通は作りになんて来ないはずだもの。
リーファちゃんが無理を言ったのだろうと考えたのだろうなぁ。
「ごめんなさいね、無理を言ってしまって」
「いや、いいんですよ」
「でも、困ったでしょ。治せない病人のところに連れてこられて」
あっ、違った。そっちの理由だったか。
私は苦笑しながら、ことの顛末を説明したのよ。
「えっと、それじゃあアイリスちゃんは、デリアさんの病気は治すことができるっていうの?」
「うん、治るよ。さっきデリアさんにも言ったけど、私の国じゃかなり昔に特効薬が開発されてるもん」
どうやら脚気って、この世界じゃ本当に不治の病みたいね。だってミラベルさんも治せるって聞いてびっくりしてるもの。
でも、ビタミンとか栄養素って言う概念がなければ、確かに不治の病になってしまうのかもしれないなぁ。
「これって、ほんとは食事を変えるだけでも治る病気なのよ。でもデリアさんはちょっと症状が進みすぎてるから、薬が必要なんだけどね」
「食べる物によって病気になるのか。そんなこと、考えたことも無かったわ」
そう、しみじみと言うミラベルさん。と、その姿を見て私はあるいやな考えが浮かんだのよ。
「そうだ! メイヴィスちゃんの食事も考えないと、同じ病気になっちゃうかも」
「ああ、それなら多分大丈夫よ。デリアさんがこうなってからは、私の家で一緒に食事をとってるから」
「なるほど、さっきデリアさんが言おうとしてのはそれか」
どうやらデリアさんが倒れてからは、ミラベルさんがメイヴィスちゃんを自分の家に連れて行ってご飯を食べさせてくれていたみたい。
それにデリアさんの分も迎えに来た時に置いて行ってくれたから、寝たきりでも飢えずにすんでいたみたいね。
「薬と一緒に食事のことも考えないとと思っていたけど、それならとりあえずは大丈夫かな?」
「私の家の食事で、問題は無いの?」
「ミラベルさんのうちはちゃんとパンとかお肉は食べてるんでしょ? それなら大丈夫」
私がそう言うと、ミラベルさんはちょっと不思議そうな顔をして聞いてきたのよ。
「えっと、お肉は確かに食べているわよ。でも、パンっていうのは何? 聞いたことないけど、アイリスちゃんの国の料理なのかな?」
「はあっ?」
今日は終始周りの人たちをびっくりさせていたけど、どうやら今度は私がびっくりさせられえる番だったようです。




