61 リーファちゃんのお友達のぴんち!
城から帰ってから数日、森へ行ったり街をぶらぶらしたりして過ごしていたある日のこと。
「アイちゃ、いた!」
「あれ? リーファちゃん」
お隣さんの仲良し姉妹の妹、リーファちゃんが私を見つけてよちよちと寄って来てくれたのよ。
「何か私にご用事かな?」
だからその場で座って目線を合わせると、そう聞いてみたのよ。
だってリーファちゃん、私を見つけた途端、いた! って言っていたからね。
「アイちゃ、おくちゅりやちゃん?」
おくちゅりやちゃん? ああ、お薬屋さんかって聞いてるのね。
「うん、そうだよ」
頭をこてんって倒すリーファちゃんを見てかわいいなぁと思いながら答えると、私を探していた理由らしきことを教えてくれた。
「あのね、メーちゃのおかあちゃ、いたいいたいなの」
「えっと、どういうこと?」
メーちゃんって誰? それに痛い痛いって?
一瞬言われたことが解らなくて不思議そうな顔をしてたら、リーファちゃんが怒り出しちゃったのよ。
「いたいいたいなのっ!」
「ああ、そっか。リーファちゃんのお友達のお母さんに何かがあって痛い思いしてるのね」
「あい!」
伝わってうれしそうなリーファちゃん。
「アイちゃ、おくちゅりやちゃん!」
「うん、そうだよ」
また最初に戻っちゃったなぁと思いながらお返事すると、なぜかリーファちゃんが不機嫌に。
あれ? なにか間違ったかな? そう思って次の言葉を待っていたら、
「おくちゅりやちゃんでしょ!」
と、また同じ言葉が帰ってきた。
ああ、なるほど。そういうことか。
「ああ、メーちゃんって子のお母さんのお薬が欲しいのね」
「あい!」
よかった。合っていたみたいね。
そう思ってほっとしていると、リーファちゃんが私の袖を引っ張ったのよ。
これは多分、そのメーちゃんと言う子のところに連れて行こうっていうことなんだろうなぁ。
「解ったわ。それじゃあ、そのメーちゃんって子のお家に案内してくれるかな?」
「あい!」
元気よくよちよち歩くリーファちゃんと、それに付き従う様にニコニコしながら歩く私。
姫、忠実な家臣であるこの私が付いておりますぞ! そんな気分でぺスパを練り歩く。
よちよち歩いていると言っても、そこは田舎の子。リーファちゃんは大人よりは遅いものの結構早く歩いているし、疲れたから抱っこなんてことも言いださないのよね。
そのまま私をお供に、友達のメーちゃんの家に無事到着した。
「メーちゃ! おくちゅりやちゃん、きたよぉ」
なれたもので、ノックもせずにドアを開けて飛び込んでいくリーファちゃん。
私はその後を追って、お邪魔しますと小さな声で言いながらその家に入っていったのよ。
「ちょっと小さめだけど、ザ・農家って感じの家ね」
クワやスキなどが置いてある玄関を通って奥へと進むと、ドアの無い部屋の入口でリーファちゃんが同じくらいの歳の女の子と話をしていた。
あれがメーちゃんかな? そう思いながら近づくと、リーファちゃんが私に気が付いてよちよちと寄って来たのよ。
「おばちゃ、おくちゅりやちゃん!」
「おばちゃ?」
何の音もしないからてっきりこの家にはメーちゃんて子しかいないと思っていたんだけど、私の位置から見えていなかっただけでその奥にはベッドが。
そしてそこには女の人が寝ていたのよ。
これにはちょっとびっくりしたけど、それは相手も同じこと。慌てて体を起こそうとしたんだけど、
「痛っ!」
そう言って倒れ込んでしまったから、私は大慌てだ。だって、もしかしたら大きなケガをしているのかもしれないもの。
「大丈夫ですか?」
そう言って駆け寄ったんだけど、見た感じケガをしている様子はない。
ということは、何かの病気かな?
「ああ、大丈夫です。急に動いたから少し痛みが走っただけですから」
そう言ってゆっくりと体を起こしながら、私に笑いかけるメーちゃんのお母さん。
頬がこけているってことは、あまり食べることができてないのかな?
「リーファちゃんのお友達? いや、大きさからするとフローラちゃんのかしら」
「その両方ですね。つい先日、リーファちゃんの家の隣に引っ越してきたんですよ」
こう見えてもう14歳なんですよと言うと、メーちゃんのお母さんは目を見開いて驚いてた。
こうしてみると私、この世界の人たちからは本当に8歳くらいに見えるんだなぁ。
そんなことを考えていたら、メーちゃんのお母さんが申し訳なさそうに聞いてきたのよ。
「ということは、もしかして本当に薬師の卵さんなのですか?」
「正確に言うと錬金術師ですね。これでもウォルトン商会と契約してるんですよ」
さすがにその答えは予想していなかったのか、メーちゃんのお母さんはすごく驚いていたのよ。
でもすぐに申し訳なさそうな顔になって、私に軽く頭を下げてきた。
「ということは。本当にお薬を持ってきていただけたのですか? ですが、この病気はお薬では治らないのです」
それにお薬を買うお金もありませんしと、弱々しく笑うメーちゃんのお母さん。
「薬では治らない病気、ですか?」
「ええ。自然に治ることもあるそうなのですが、その多くはそのまま……」
なんと、不治の病系なのか!
私が驚いていると、リーファちゃんがそれに気が付いたみたい。
「アイちゃ、おくちゅりは?」
「まま、いたいいたいなの。おくちゅりちょおだい」
心配そうに聞いてきたものだから、メーちゃんまで涙目になりながらそう言って来たのよね。
こうなったら治せないなんて言えるはずがない。大丈夫、最悪死んでいたとしても魔法で治る!
「大丈夫だよ。ちゃんと治すから」
そう答えると安心したのか、二人ともにっこり。向かい合ってよかったねって喜んでるのよ。
この笑顔を消さないように、さっさと治してしまおう!
そう考えたのだけど、でもその不治の病がどんなものなのかが解らなければどうしようもないでしょ。
だからとりあえず診察をさせてもらうことにした。
「ちょと見せてもらっていいですか?」
「いいですけど……」
メーちゃんのお母さんは薬が効かないと思っているので、噓をつかせてしまったと申し訳なさそうな顔をしてる。
まさか死んでも生き返らせるくらいの魔法が使えるなんて想像もしてないないだろうからなぁ。
そんなことを考えながら、一番傷むと言う膝関節のあたりに触ってみたんだ。すると、かなり細いのになんかむくんでる気がする。
ずっとベットに寝てるからかなぁ? なんて思いながら色々と観察してみたんだけど、医者でもない私に原因など当然解るはずも無し。
そんな訳でメーちゃんのお母さんにしらべるコマンドをかけてみると、ちょっと驚いた病名が出て来たのよね。
「えっ、脚気?」
どうやらビタミン系が決定的に足りていないらしく、それにより脚気やそれに伴う関節痛などの合併症がずらっと並んでいたのよね。
でもさ、それって変じゃない? 確か脚気ってビタミンB1が足りないと起こる病気よね。
昔の戦争で日本の兵隊さんが玄米から白米に変えたことで広く発生したことで有名な病気なんだけど……。
「確か小麦の全粒粉にも含まれてる栄養素だったよね、これ。まさか日本の食パン並みに外皮を取り除いた、真っ白な小麦粉を食べているなんて言わないわよね」
本来なら発症するはずのない病名。それを見た私は、ちょっと途方に暮れてしまったんだ。




