5 ああ、失敗した
「ああ、下手こいた。何で気が付かないかなぁ」
眠ってしまった白ローブたちを前に、私は床に両手をついて絶賛後悔中。
しまったなぁ、この世界のことを聞いてから眠らせるべきだった。
ステータスがかけ離れているんだから、スリープが効くのは当たり前でしょ?
ならちょっとの間話を聞いて、今の状況やこの世界のことを把握してから眠らせるべきだったのよねぇ。
でもまぁ、やってしまったものは仕方がない。
「ラノベの定番だと召喚されてすぐは大体、お金が無くて苦労するのよね」
アイリスのキャラと装備ならもしかすると、どこかにゲーム内通貨が入ってるかもしれない。
でも今はそれを探してる時間は無さそうだし、何よりそれがこの世界でも使えるかどうか解らないでしょ?
だからとりあえずの活動資金を調達する必要がある訳で。
「あなたたちが呼んだんだから、生活費くらいはもらっていくわよ」
ってことで寝てる白ローブたちを物色。
それで解ったんだけど、この人たちってみんなお爺ちゃんだったのよ。
「なるほど、だからステータスにあんな幅があったのか」
この人たちって知力やMPの数値は高いのに、なぜか体力や力、それにHPの数値が低かったのよね。
それに個人個人のステータスにも結構差があったんだけど、お年寄りならば経験や年齢差によって大きな差が出るのも解る。
だって勉強を頑張った人が高い知力を持っているのは当たり前だし、60歳と80歳では力や体力が大きく違うのも当たり前だもの。
「なるほど、年齢から来る差だったのか」
ステータスに差がある謎が無事解決してスッキリしたということで、私は白ローブたちの持ち物あさりを再開する。
「う~ん、指輪とかも持ってるけど、これはやめておいた方がいいよね。これが今どこにあるのか、その場所を調べることができる魔法とかかかっていたら困るし」
寝ているお爺ちゃんたちを起こさないように気を付けながら、装飾品などには手をつけずにお金だけを回収してポケットに入れておく。
そしてこの場所から逃げ出そうと周りを見渡したんだけど……。
「そう言えばここって、どこなんだろう?」
今いるところはぱっと見どこかの神殿の中っぽいんだけど、窓が無いから外の様子がまるで解らない。
だから街の中なのか、それともどこかの大きな施設の中なのか、それすらも解らないのよねぇ。
まぁ、この部屋自体が転移魔法か何かでしか出られないような特殊な作りではなく、普通に出入り口があったのでそこから外へ。
すると、遠くに日の光らしきものが見えたからそちらに向かって歩いて行ったんだけど、
「何か、声が聞こえる」
その光が見える先から、人の声が聞こえてきたのよね。
だからそこからは慎重に進み、曲がり角があったからそーっとその先を見てみると出口付近で複数の鎧を着た人たちが談笑をしていたんだ。
「あれは……多分、さっきのお爺ちゃんたちの護衛か部下だよねぇ」
こっちはダメだ。あの人たちに見つかったら間違いなく騒ぎになる。
一応ステータスを調べて、彼らがそれほど強くないのは確認したよ。
でも、もしかしたら私の位置からは見えないところに強い人が控えているかもしれないもの。
だからここは戦略的撤退、他の出口を探すことにしたんだ。
「そうだ! せっかくこの神殿? の奥に行くんだから、何か金目のも……ゲフンゲフン、この地を知る手掛かりになるものも探してみよっと」
私は召喚? 顕現? とにかくそれをされたばかりだから、この場所のことを何も知らないのよね。
だから別の出口を探しがてら、この神殿? の中をたんけ……調査したんだ。
そしたらさ、なんとなく重要そうな本や、羊皮紙の束が置いてある部屋を発見。
「今は詳しく調べている時間が無いから、とりあえず袋にでも入れて置いて、中を調べるのは後にした方がいいよね」
一瞬これらにも所在を見つけるための魔法がかかってるかも? とは思ったけど、それらしい魔法陣も魔力がこめられそうな宝石もついていなかったので無いものと判断。
部屋の中を探して見つけた登山家が使っているようなかなり大きい背負い袋の中に、見つけた本や羊皮紙の束の中を片っ端から投入していく。
そのせいで結構な重さになってしまったけど、そこはゲームキャラクターの体。
見た目は小柄な女の子なのに軽々と背負ってその部屋を後にする。
そしてその後も各部屋のぶっしょ……探索を行った結果、先ほど見張りの兵士らしき人たちが居た入口のある方角、その反対側の一室で外へとつながる小さな扉を発見したのよ。
「これは、使用人が使う勝手口ってところかな」
その扉なんだけど、神殿の奥にあった調理場のような所の隅に付けられていたの。
だから多分これは、外から食材や井戸水なんかと運び込むための扉なんじゃないかな?
「まぁ、なんにしても今の私にとっては好都合よね」
もしどこにも出口が無ければ、どうしても入り口にいる兵士と事を構えなきゃいけなかったでしょ。
でもこの扉から出れば、気付かれずにここから逃げられるかもしれないもの。
「ただ、ここを誰も見張っていないっていうのが前提だけどね」
てなわけで、そーっと扉を開けると素早く周りを確認。
するとそこには井戸が鎮座しているだけで誰もいなかったから、私はほっと胸をなでおろした。
「見張りはいないみたいね。それじゃあ、誰かが来る前にっと」
井戸がある場所の向こうには特に壁や柵は無く、森らしきものが広がっていたから大きな音をたてないように気を付けてそこまで移動。
そしてその森の中に入った私は、とにかく神殿が見えなくなるまで急いで移動することにしたんだ。
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