58 何やらミルフィーユからお話があるそうな
バーベキューパーティーの次の日、私はシャルロットと共に家の地下にある転移ポートの前にいた。
と言うのも、昨日城までお酒やら何やらを取りに行ったシャルロットが帰ってきた時に、私との間でこんなやり取りがあったから。
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「一度城に帰ってきてほしい?」
「はい。特に急ぎではないそうなのですが、ミルフィーユが何やらお話したいことがあると言っていました」
はて、なにかしらの問題でも出て来たかな? でも、私がいないとどうにもならないようなことなんて起こりそうもない気がするんだけど。
「あっ、もしかして前に取りに行くと言っていた甘い樹液、それの精製が終わってシロップができたのかな?」
「それなら私が帰る時にサンプルを渡してくれたと思いますが?」
言われてみれば確かに、わざわざ私を城まで呼びつける必要もないわよね。
「それじゃあ、何があったのかな?」
「緊急のお話しではないとのことでしたけど、気になるのでしたら明日お帰りになられたらどうですか?」
ふむ、クラリッサさんのお店に行くまでにポーションをいくつか作っておきたいけど、まだこの辺りの森を詳しく調べていないからなぁ。
ぺスパでポーション作りを続けるとなると薬草が生えている場所やきれいな水が沸いている場所を把握しないといけないもの。
ぼぉっと採取場所が光って見える薬草はともかく、湧水は足を使って探さないといけないからすぐに見つかる訳じゃないのよねぇ。
となると、ミルフィーユの話を先にかたずけた方がいいかな。何の話なのかも気になるし
「そうね。別に急いでやることがある訳じゃないし、一度帰ることにしますか」
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とまぁそんな訳で、私たちは城に帰ることになったわけだ。
「それじゃあ行くわよ」
そう言って転移ポートを起動するといつものように周りの景色がゆがみ、それが終わると見慣れた城の大きな扉が。
そしてその横、ゲーム時代の定位置にミルフィーユが立って私たちを出迎えてくれた。
「お帰りなさいませ、アイリス様」
「わざわざこんな所で待っていてくれなくてよかったのに」
「いえ。クランチャットで連絡を頂いたのですから、出迎えるのは当然です」
そんなことを話しながら城の中へ。そのままミルフィーユの執務室に向かうのかと思ったら、通されたのは城の応接室だったのよ。
城にいたころもここにはほとんど入ったことが無いからちょっと新鮮なんて思いながらぼーっと部屋の中を見ていたら、何をやっているんですかという目をしたミルフィーユに椅子をすすめられてしまった。
「それで、わざわざ呼び出すなんてどうしたの? なにかあった?」
「いえ。問題が生じたわけではありません。ただ、こちらで調べ上げたことのご報告と、少々承認をして頂かなければならないことがございまして」
「承認?」
はて、何のことだろう? と思ったのだけど、ミルフィーユは先に現在解っていることの報告をしたいと言って来た。
「それが承認してほしいことにつながるのね?」
「関連しているかいないかと言われれば、関連しております」
それなら先に聞いた方がいいだろうと、ミルフィーユの報告を聞いたのよ。
ところがそこで私はかなり驚くこととなる。
「ちょっと待って。なぜこんなに情報が集まってるの? 私が前回ここに来てからぺスパに行っていた時間なんてほんの数日じゃない」
私が少し城を開けただけの時間で、ミルフィーユはこの世界のことをかなりのスピードで調べ上げていたの。
いや、風の精霊を使って情報収集をしているのは知っているわよ。でもいくら精霊を使えると言っても、この情報収集能力は明らかにおかしい。
そう思った私はミルフィーユを問いただしたのだけど、
「すべてはアイリス様のおかげです」
と言う、想像もしていない返事が返ってきた。
「どういうこと?」
「前にアイリス様が、わたくしに城にいる者のジョブチェンジをお任せいただけたでしょう。ですから精霊召喚士だけでなく、旅商人や神官、それに忍者などの斥候職にジョブチェンジさせて、各地にはなっているのです」
これを聞いて、私の頭には無数のはてなマークが飛び交う。
だって私のNPCは城に6人、ぺスパの家に1人しかいないもの。それなのにミルフィーユは各地に人員を配置して情報を集めていると言う。
どういうこと? そう思って頭を傾けていると、私の様子がおかしいと思ったのかミルフィーユが訪ねてきた。
「どうかなさいました?」
「いやね、あなたたちは6人しかいないのに、どうやってそんな色々なことをやることができたのかと思って」
私のこの発言に、ミルフィーユは認識の齟齬があると気が付いたみたい。
「いえ、違います。先ほど城の者のジョブチェンジと申し上げましたでしょう。私たちの配下の者たちをジョブチェンジさせて各地に送っているのです」
なんと、ミルフィーユたちを呼びだした時に付き従っていたメイドや料理人たち、それをジョブチェンジさせて他の職種につけているというんだ。
「ジョブを変えてしまうため、皆初期状態の30レベルになってしまいます。ですが、それでもこの世界の基準ではかなり高い能力のようでしたので」
「そう言えばクラリッサさんも、うちの警備兵は呼び出した時点で冒険者で言うとAランクくらいの強さがあると言ってたなぁ」
城の周りの魔物をパーティーを組んで倒せるのならそれくらいなんだそうな。
うん、それならば能力的には問題ないだろう。
「その際、出身を訊ねられることがあると解りました。ですので、アイリス様の意見を採用しようかと考えまして」
「私の意見?」
なんか言ったっけ? そんなことを考えていたら、ミルフィーユから爆弾を落とされた。
「はい。街に行かれた際、存在しない他国から来たと仰られたそうですね。ですから、この城を持って都市国家を建国しようかと考えております」
なんと、ミルフィーユはこの城を一つの国家にしようと考えているみたい。
その名も都市国家フェアリーガーデン。
この城がキャッスル・オブ・フェアリーガーデンと言う名であり、この城だけしか領地がないことからそのまま都市国家名としたらどうかと考えているそうな。
「なるほど、承認してほしいと言うのはその話か。でも、大丈夫なの? この城だけで都市国家なんて名乗っても」
「調べたところ、都市国家の中には人口が100人にも満たない小さな集落のような所もあるようでしたので、そこは問題ないかと」
今現在、この城で働いている人数だけでもそれ以上いるそうな。それならまぁ、都市国家を名乗ってもいいか。
と、ここで私は一つ引っ掛かりを覚えたのよ。
「待って。仮に100人以上いたとしてもだよ。城にいたその子たちを周りに派遣して、ここの業務は大丈夫なの?」
「はい。新たに呼び出しましたので」
「ほえ? 新たに呼び出した?」
聞こえてはいるものの、その意味が今一歩理解できなかった私は聞き返したのよ。
するとミルフィーユはよい笑顔でハイとお返事。
「アイリス様の家、今は城でしたね。ここのサイズでしたら、わたくしたちはそれぞれ配下を100人まで召喚できますので」
何よそれ、聞いてないんですけど!




