57 平和な場所では異世界でも孤児は少ないらしい
ミラベルさんとシャルロット、それにフローラちゃんたちにもちょっと手伝ってもらって、みんなで楽しくバーベキューの準備。
それが終わって少しの間のんびりした後、私はバーベキュー会場になるフローラちゃんの家の庭に移動したんだ。
するとなぜか周りには、ご近所さんたちに交じって小さな子たちが多数。
「何これ? 私へのご褒美ハーレム?」
イヤイヤそんなことは無く、この子たちもどうやらご近所さんらしい。
「勝手に呼んでしまったけど、孤児院の子たちも参加させて良かったよね?」
「いいですよ。お肉は配るほどあるし」
ミラベルさんが言うには、この子たちは近くにある孤児院の子たちらしい。
そう言えば私の家を買う時、近くに学校らしきものがあったっけ。そうか、あれは孤児院だったのか。
庭にいる子たちを見ると、上は10歳くらいから下はよちよち歩きの1~2歳の子まで様々。
ただ、思ったより人数が少ないのよ。大体10人ちょっとかな?
イメージとして孤児院と言うと結構な人数がいるように思っていたんだけど、ここはそうでもないのかな?
「ぺスパでは、そもそも孤児院に入る子自体が少ないからね」
ミラベルさんに聞いたところ、そんな答えが返ってきた。
大きな街とかだと子供を育てられなくなって孤児院の門の前に置いておくなんてこともあるそうだけど、ここは農業都市でしょ。
小さな子でも労働力だから、そんなもったいないことはしないらしい。
それにお隣のガイゼルは冒険者が多いから孤児院に入る子も多いそうだけど、ここでは親が亡くなることなんてほとんどないもの。
ぺスパにいる限り、野盗に襲われるなんてこともないしね。それでは孤児も増えようがない。
「少し前に疫病が流行ったから、これでも普段よりは多いくらいなのよ」
「そうなんですか」
少ない時は2~3人しかいないなんてこともあるらしい。まぁ、孤児院なんて入る人はいない方がいいんだけど。
「それにしても、思ったよりも人が集まりましたね」
「基本、この辺りは娯楽が少ないからね」
庭に入り切れずに道にまで椅子を持って来て座ってる人がいるくらいだもん。
私もまさか、軽く言ったバーベキューをやりましょうという言葉がここまで大事になるとは思わなかったわ。
「でもこの人数だと肉はともかく、他のものが絶対的に足りないわよね」
野菜もそうだけど、特に主食になるものやお酒がぜんぜん足りない。
そのことを指摘すると、ミラベルさんは野菜なら大丈夫よって。
「ここに集まってるのはみんな農家だからね、何かしらを持ち寄ってくれるわよ」
「なるほど。でも、孤児院の子たちが食べる主食はいるんじゃないかな?」
本当に小さな子もいるし、お肉ばかりでは食べられない子もいるだろう。
それにバーベキューと言えばお酒! 私はシャルロットが付いているから飲ませてもらえないけど、せっかくいいお肉を焼くのだから、飲める人なのに素面のままなのはちょっとかわいそう。
「とりあえず、シャルロットに取りに行かせるかな」
幸い、ここはうちの近所だ。一度戻って転移ポートから城に向かえば、必要な物くらい簡単に揃うだろう。
ってことでシャルロットと二人、周りの人たちからちょっと離れて作戦会議。とは言っても考えるのは私一人だけど。
「とりあえず、小さな子でも食べられる柔らかいパンは絶対いるわね。それとお酒だけど、流石にビールやワインはまずいか」
異世界あるあるでワインやエールはあると思う。でもうちの城にあるのは、安物でも味にうるさい日本人が日ごろから飲んでいるものばかりだ。
温度管理? 何それ、おいしいの? って世界にそんなものを持ち込んだら、まず間違いなく大変なことになるだろう。
「そうだ、我々貧乏酒飲みの味方、4リットル入り25パーセント焼酎があるじゃないか」
全国展開している大型ショッピングセンターが出している4リットル入り焼酎。私はそれに少し前に流行ったフルーツ酢を混ぜて炭酸で割ったものを良く飲んでいたのよね。
だから当然、城のバーカウンターには20パーセントと25パーセントの両方が鎮座していた。
あれならばここでふるまっても問題ないだろう。
「あと小さな子たちがいるんだから、割材として置いてあるジュース類もいるわね」
ぺスパは農業都市だから、周りの人たちが採れた作物を寄付してくれるおかげで食べるものには困っていないみたい。
でもジュースとかはぜいたく品だから、多分口にする機会は無いと思うのよね。
今日はある意味お祭りみたいなものでしょ。ならば思う存分飲んでもらおうじゃないの。
「そうと決まれば、連絡連絡」
その場でクランチャットを使ってミルフィーユにシャルロットが今から取りに行くからと、欲しいものを伝えた。
「これでよしっと。それじゃあ、シャルロット。悪いけど受け取りに行ってもらえるかな?」
「解りました。アイリス様」
周りに気付かれないよう急がず騒がず、しずしずと我が家に向かうシャルロットを見送ると、私はさっきよりもさらに喧騒が増した庭へと戻ることにした。
「あ~、アイちゃん。どこに行ってたの? 探したんだよ」
するとすぐにフローラちゃんに捕まっちゃったんだ。
「探してたって、何かあったの?」
「うん。アイちゃんのお肉、すっごくおっきいでしょ。だからお友達に見せてあげようと思ったの」
焼き場になってるバーベキューコンロの横にはお肉が山積みになっている。でもそれは食べやすいように薄切りになっていたり、串に刺せる程度の塊になってしまっているでしょ。
だからフローラちゃんはまだ小さく切る前の、まるで大型のトマホークのようなブレイヴシープの骨付き肉をお友達に見せたいんだって。
「だめ?」
「いいよ」
小首をかしげながら聞いてくるフローラちゃん。そんなことされたら、私が断れるはずがない。
でも、一つ問題があるのよね。
「ストレージのことはナイショにするって決めてんだよなぁ」
あれだけ大きなものを隠し持つなんてことはできないでしょ。だから当然何もないところから取り出すしかない訳で。
ってことでフローラちゃんにはお肉を取りに行くからバーベキューコンロのところで待っていてと頼んで、私はまた一人で人がいないところへ移動。
周りをキョロキョロと見渡し、それだけではまだ安心できないと言わんばかりにマップでの検索まで使って人が近くにいないことを確認。
じゃじゃーんとその場で青い狸型? ロボットが不思議なポケットから秘密道具を取り出すかのように大きな骨付きをストレージから出すと、それを持って焼き場へと向かったんだけど……。
「なんで子供よりも大人の方が盛り上がってるのよ」
フローラちゃんと一緒にまっていた子供たちより、焼き場近くにいた大人たちが私の持つ大きな塊肉に大興奮。
すぐさま近くにいたおばさんに取り上げられると、バーベキューコンロで焼かれていたものをわきによけて、中央へドーン!
「すげぇ、あの骨って足じゃなくあばらだろ」
「どれだけ大きな動物の肉だよ」
それを見た大人たちは、その大きさに驚くとともに大喜び。
まさにお祭り騒ぎになってしまったことで、リーファちゃんとそのお友達にゆっくりと大きなお肉を見せてあげることができなかったんだ。




