55 ぺスパの家でも消耗品扱いのものなら自動補給されるのね
今晩はフローラちゃんたちとバーベキュー。
ハニーベアのお肉は塊のままド~ンと出すことが決まっているんだけど、流石に味見くらいはしなきゃダメよね。
そんな訳で、ストレージの中のクマ肉を確認。するとそこは高性能なストレージさん、部位ごとに切り分けられた肉の名前がずらっと並んでいた。
本当なら体全体の巨大肉を見せてあげたかったけど、そこまで細かい設定はできないから仕方がない。
ハニーベア自体がかなり大きかったから肩とか背中の肉だけでも結構大きいし、今回はそれで我慢するとしよう。
「どれどれ? へぇ、部位の名前は牛とあんまり変わらないのね」
ロースとかバラとか、ずらずらと並んでいるものの中からとりあえずあまり大きくないであろうヒレを選択。
それをキッチンのまな板の上に出してみたんだけど……。
「うん、まだまだクマの大きさを侮っていたわ」
普通サイズのまな板から見事にはみ出したヒレ肉がドーン。
まぁ、出してしまったものは仕方がない。とりあえずしらべるコマンドで肉質をチェック。
すると寄生虫も危険な細菌も無く、生食も可能なおいしい肉と出て来たからびっくりした。
「これって、ストレージで解体したからなのかなぁ?」
ストレージで解体すると、血などの余分なものは初めから排除してくれるのよね。
だからそのおかげなのかもしれないし、元々が牛のように生で食べられるものなのかもしれない。
それが解らない以上、生食で出すのはやめておいた方がいいだろう。
「でも、今は私一人だから問題なし!」
ヒレの端の方に包丁を入れ、それを更に薄くスライス。
「何をかけようかなぁ」
生肉を食べる気満々でキッチンの調味料棚に目を向けたんだけど、私はそこで驚きの光景を目にすることとなる。
「えっ!? なんでこんなにあるのよ」
そこにあったのは日本ではどこの家にもある各種調味料だけじゃない。普通のスーパーに売っているものから専門店に行かないと買えないものまで、有名どころのミックススパイスたちがずらっと並んでいたからびっくりよね。
「これってもしかして、城のバーカウンターと同じシステム?」
私はテレビなどによく感化されて、おいしいと紹介されたものにはすぐに飛びついていたの。
でも一人暮らしだから余らせて最後には捨てることになるんだけど、それでも懲りずに新しいものが紹介されるとすぐに買ってしまっていたのよね。
多分これは、私が今までに食べてきた各種調味料たちが並んでいるのだと思う。
「こうしてみると、ほんと節操なしに買いあさっていたんだなぁ」
有名店のものから有名人がプロデュースしたものまで、見慣れたサイズのビンに入ったミックズスパイスが所狭しと並ぶ調味料棚。
でも、ここでふと疑問が。
「あれ? 食糧庫やバーカウンターはダメだったけど、調味料は大丈夫ってこと?」
ここに並んでるってことは、トイレットペーパーや各種洗剤と同様自動補充されるってことだと思う。
ってことはもしかして、一度に使う量が少ないものは食料品でも消耗品としてカウントされるということなんだろうか。
「まぁ、そこは深く考えても仕方がないか。私としてはこの方が助かるんだし」
そう思った私は、調味料棚から色々な芸能人が進めていたからすぐにぽちったという記憶のあるバーベキュースパイスをチョイス。
それを小皿に取ると、さっき切ったヒレ肉のスライスに少し付けてパクリ。
「クマ肉だし、狩ったばかりだから硬いのかと思ったけどすっごく柔らかい。それに変な臭みも無いのね」
なるほど、しらべるコマンドでおいしいと出るわけだ。正直調理スキルで少し熟成させないとダメかと思ったけど、これなら問題なくそのまま今夜のバーベキューに使えると思う。
「あっ、でも念のため焼いたものも味見しないとね」
そんな訳でさっきよりも少し厚めにヒレ肉をスライスすると、それにバーベキュースパイスを軽く振ってフライパンへ。
「生でも食べられるんだから、軽くあぶるだけでいいよね」
表面に焼き目が付いたところで、すかさずパクリ。
生で食べた時と違って、熱で溶けだした脂と肉汁が口の中に広がる。
「脂が甘いし、生で食べるよりやっぱり火を通した方がおいしいかな」
まぁ、今回は私のストレージで解体したから生で食べられるだけなのかもしれないし、どのみち今日はバーベキューだから焼くことになるんだけどね。
と、そこまで考えた所でふとあることが頭をよぎる。
「そう言えば他のお肉ってどんな味がするんだろう?」
私のストレージの中には前に自分で狩ったブレイヴシープはもちろん、城の子たちが狩って来たジャイアントボアやクレイジーブルのお肉も入ってるのよね。
でも自分で調理する機会が無かったから、どれも食べたことが無かったんだ。
「どうせバーベキューをするなら、いろんなお肉があった方がいいよね」
ってことで他のお肉も試食。とりあえず適当な大きさに切り分けられているクレイジーブルとジャイアントボアのロース肉を出してみる。
「見た目はただの牛肉と豚肉って感じね」
ただ、クレイジーブルのお肉にはしっかりとサシが入っている上に薄いピンク色で、ジャイアントボアのお肉は見るからにきめが細かそう。
日本でいう所の高級ブランド肉って感じの風貌に期待が高まる。
それをそれぞれスライスすると、今度はバーベキュースパイスではなく普通のスーパーでよく見かける味塩コショウを振ってから軽くあぶる。
「おっ、これはかなりいいお肉ね。スーパーではなく専門店のお高いお肉の味がするわ」
日本時代では家族の誕生日くらいしか食べられなかった高級肉、それに匹敵するほどの味に私は大満足。
でも、ここでまたふと思ったのよね。
「そう言えばウィンザリア時代のお肉って、どんな味なんだろう?」
こちらも当然私のストレージに入っている。ってことで、高級霜降り牛肉と言う名前の肉を取り出すと何かの葉っぱに包まれた3キロ以上はあるであろう肉の塊がドーン。
相変わらず大きいなぁと思いながら葉っぱをめくり、ふちの方にナイフを入れると見事な霜降りが現れた。
「看板に偽り無しね」
そんなことを考えながらスライスし、塩コショウしたものを軽くあぶってパクリ。すると思わず目を見開いてしまった。
「なによこれ! 脂が甘いなんてもんじゃない。こんなお肉、初めて食べたわ」
もしかして前にテレビで見た120グラムのステーキが10万円以上する松阪牛のA5ランク、それも熟成させたお肉ってこんな感じなんだろうか?
私自身そんな高級肉を食べたことないから比べることなんかできないけど、間違いなく私が食べたことがあるお高い物なんかよりも数段上の味がするお肉だった。
「やばい。これは世に出しちゃダメな奴だ」
おいしかったら夜のバーベキューに出そうかなぁなんて軽く考えていたけど、おまえはダメだ。
クレイジーブルだってお高いお肉の味がするけど、あれは出所が解ってるもの。でもこっちは違う。
ミラベルさんは農家だから、もしかするとこれが丹精込めて育てられた牛のお肉だと見破られるかもしれないもん。
その時言い訳ができないのだから、間違ってもこのお肉の存在を知られるわけにはいかないわ。
「しかし、流石わざわざ”高級”霜降り肉と書かれているだけのことはあるわね。ウィンザリア、恐ろしい子」
そんなことを考えながら、私はウィンザリアと日本の精肉技術に恐怖を覚えるのだった。




