53 残念ながらゲーム由来の能力は万能ではなかった模様
何が起こったのか解らなかった私はしばらく考えた後、ステータス画面を開くことにした。
と言うのも、ウィンザリアでは採取ポイントの表示非表示を選択できたから。
今目の前に起こっている現象から、その選択画面に変化が起こっているのかもと考えたのよね。
そしてそれが大当たり。
「なるほど。新たな採取ポイントは、食材の位置を示してるのね」
どうやら今まで見えていたのはウィンザリアで売られていた木材や石材、薬草などの代用品として使えるものがある場所を示していたみたい。
それに対して、新しく見えるようになった採取ポイントは食用の野菜や果物がある場所なんだそうな。
「なんか現実世界に来たことで、システムがいろいろと辻褄合わせに来てる気がする」
今まで見えていた採取ポイントって、ゲーム時代のアイテムを作るのに必要なものだけでしょ。
でも現実世界では、それだけが有用な素材という訳じゃない。
この変化は私に備わっている機能をよりこの世界に即したものに変えているように感じるのよね。
「でも、誰が? まさか神様が本当にいて、私を見ながら調整しているなんてことは無いわよね?」
もし本当にそんなことがあるとしたら、本物の生物ではないのは私だけじゃなくこの世界の人たちすべてってことじゃない!
そんな恐ろしい考えに行きついたものの、私はそれを否定する。
「ただ、いくら神様がいたとしてもそこまで万能とは思えないのよね」
すべてを見通せる存在がいたとしても、すべてを完璧に管理することはできないと思う。
だってこの世界には人間種だけに限ったとしても、とんでもない数が存在してるもん。
いくら神様でも、そのすべてに目を配るなんてことはできないんじゃないかな?
「ならば私以外のすべての人までが、神が作った操り人形と言うのはさすがに無理があるか」
ただ、私一人だけが神にとっての監視対象であると言う仮説までは否定できないけど。
その辺りに関しては、実際に神様が現れてネタ晴らしでもしてくれなければ立証はできない。
ならばこれ以上考えたところで仕方がないだろう。
「その時不思議なことが起こった。それでいいじゃない」
どこぞの黒いヒーローのナレーションを流用したような考えだけど、これが一番こころの安寧にはいいだろう。
そんな訳で、この件に関して考えるのはこれでおしまい。単純に採取ポイントを見つけやすくなってうれしいなぁ、それだけでいいじゃない。
そう思い込むことにして、私は授かった能力を享受することにした。
「でもなぁ。どうせなら、どこに何があるかもわかるようになってたらよかったのに」
相変わらず色違いで見える採取ポイント。でも解るのはゲーム由来のアイテム関係か食べ物関係かの違いくらい。
そこに何があるのかまでは解らないのよね。
まぁこれに関してはウィンザリア時代でもそうだったのだから、これ以上便利になることはないだろう。
少なくともおいしい果物がなっている場所が遠くからでも解るようになっただけでもいいじゃないか。
そう思いながら、しらべるコマンドも併用してどうやったら一番おいしく食べられるのかを調べながら見慣れぬ果物を採取していく。
これがまた楽しいのよ。だっておいしいと私が感じるであろうものばかりが見つかるのだから。
フラフラと歩きまわり、そのまま食べてもおいしいものを見つけては味見と称するつまみ食い。それがまるで観光地の果物狩りのようで、私はとても楽しんだ。
そう、楽しみすぎちゃったのよ。果物や野草の採取に夢中になりすぎて周りの警戒がおろそかになってしまうほどに。
「っ!?」
ブォーン
不意に気配を察知して体が勝手に回避行動をとる。するとさっきまで私が居た場所を、大きな手が風切り音を立てながら通り過ぎて行った。
「なにごと!?」
びっくりしてその手の持ち主を見ると、そこに居たのは大きなクマのような動物。
あれ? 私を見ても逃げないってことは、もしかしてこいつかなり強い?
そう思って一瞬緊張したんだけど……。
「なんだ。城の近くの魔物どころか、銀色の狼よりはるかに弱いじゃない」
このクマもどき、すっごく弱かったのよ。それこそ前衛職でもない私が腹にワンパンくらわしたらそれだけで死んじゃうくらい。
だから不思議に思ってしらべるコマンドを使ってみたところ、どうやらこいつは魔物じゃなかったみたいね。
「普通の動物だったのか。ってことはもしかして、動物はこっちの強さが解らない?」
そう考えると辻褄が合うのよ。だってこいつと私との力の差が、あまりにもありすぎるもん。
ウィンザリアで言うと、最初の村から少し離れたあたりに出る魔物くらいかな?
正直前衛系のジョブなら、5レベルもあれば素手でも簡単に狩れると思う程度の強さ。
そんなのが私に襲い掛かったんだから、間違いなくこっちの力量は解ってなかったでしょうね。
「でもこれ、結構重要な情報かも」
怖がって寄って来ないと思ったら、いつの間にか一緒にいた人が襲われていたなんてこともあるってことでしょ。
この程度の動物でも、多分一般の人ならかなり苦戦すると思う。
「なるほど、こんなのがいるからぺスパの人たちはこの森に入ってこないのか」
おいしい果物がなぜか放置されている理由が解ってちょっとすっきり。
でも同時に森に入る時は、特に誰かと一緒の時は気を抜いてはいけないとこの一件で思い知らされた。
そこで、念のためこのクマ? と同種の動物が近くにいないか調べるために地図を開いたんだけど、そこで予想外なことが判明する。
「もしかして、地図に表示されるのは魔物と人間だけ?」
近くに魔物が存在しないのか、地図を開いても何の反応も無かったのよ。
この地図、魔物だけじゃなく自分に敵意のある人がいたりしたら色違うで表示されるほど高性能なのよね。
このクマのように動物だってこっちに危害を加えることがあるのだから、当然表示されるものと思い込んでいたんだけど……。
「よくよく考えると、ウィンザリアには普通の動物はいなかったっけ」
いや、いたかもしれない。事実背景では花の近くに蝶が舞っていたり、遠くに鳥が飛んでいるというグラフィックが表示されたりしていた。
それに釣り糸を垂らせば魚が釣れたもん。でも、よく考えたらそれらが地図上に表示されたことなんか一度も無かったような?
それに対して新たに果物を採取できる場所が表示されるようになったのは、もしかして畑で収穫できる果物があったからなのかしらん?
「そう言えば食べられる野草や果物の採取ポイントの光、庭の畑ユニットに植えたものが収穫できるようになった時の色に似てる気が。う~ん、これもゲーム時代の再現から来る現象ってとこなのかなぁ?」
便利なようで少しだけ不便な私に備わってる機能。過信しすぎると思わぬところで足をすくわれることになるかも。
そんなことを考えながら、足元に転がるクマに目を向ける。
「とりあえずストレージの放り込んで解体を……いや、このまま持って行った方がいいかな?」
ミラベルさんに言われて反省はしているだろうけど、一度森に入りたいと思ってしまったのだからつい出来心でなんてことが起こらないとも限らない。
でもこのクマを見せれば、フローラちゃんやリーファちゃんも森がとても危ない所だと解ってくれるんじゃないかなぁ。
それにミラベルさんだって、これだけおっきなクマを狩ったよって見せてあげれば本当に森に入っても大丈夫なんだと解ってくれると思うし。
「うん。これはこのまま持って帰ろう」
思い立ったが吉日? なんて思いながら目の前に転がる巨大なクマと収穫した果物をイベントリーに突っ込む私。
そのまま軽い足取りで、ぺスパにあるわが家へと向かうのだった。




