52 無責任発言はいけません
「私も森について行きたい」
これで森に行けると喜んでいたところにフローラちゃんから特大の爆弾が落とされた。
おまけにフローラちゃんのこの一言で、リーファちゃんまで私も私もって言いだしちゃったんだよね。
でも、流石に連れて行けないよなぁ。森はまだ浅い所でも危険がないわけじゃないし。
「危ないからダメ」
そう思っているのはミラベルさんも同じですぐにそう言ったんだけど、
「アイちゃんだけ行けるなんてずるい」
フローラちゃんはそう言ってぐずるのよ。
私の見た目、クラリッサさんが言うには8歳くらいらしいからなぁ。
そんな私が森に入ってもいいのなら、5歳のフローラちゃんが私もって言いだす気持ちも解らないでもない。
だから困ってしまうのだけど、でも私には腹案があるのよね。
「私は蛇に噛まれても大丈夫なブーツがあるけど、フローラちゃんとリーファちゃんは持ってないじゃない」
私は自分のブーツをポンと叩きながらそう言ったのよ。
さっきミラベルさんが言った通り、森の草むらには毒蛇とかがいる可能性があるでしょ。
だから装備が無いと大人でも入っちゃダメなんだよって教えてあげたんだ。
正直これを言えばあきらめてくれると思ったんだけど、でも小さな子のパワーはそんなものじゃ押さえられなかったみたい。
「お母さん、アイちゃんと同じの、買って」
「かって、かって」
まさかの買って買って攻撃に困り果てるミラベルさん。
実際、この装備をこの世界で買おうと思ったら金貨が何枚いるんだろう?
それ以前に素材が手に入らないから、作ることさえできないだろうけど。
それほどのものでなくても、ある程度の強度を持つ装備をミラベルさんが買えるはずもなく。
「わがまま言うんじゃありません」
フローラちゃんたちの買って買って攻撃を、たった一言でぶった切る。
でも、そんなことしたら……。
「ふえぇーん」
「わぁーん」
あ~あ、やっぱりフローラちゃんたちが泣き出しちゃった。
こうなると弱いのが私。
「えっと、今日はさすがに無理だけど、今度……」
「ダメよ、アイリスさん」
作ってきてあげるよって言おうとしたところで、ミラベルさんに怒られてしまった。
「ミラベルさん?」
「アイリスさん。本当ならあなたが森に入るのも反対なのです。でもお仕事のためだし、何より自分の身は守れるようだからいいと言いました」
ミラベルさんはそう言うと、フローラちゃんたちを見ながらこう言ったの。
「でも、この子たちは何の力もない小さな子たちです。たとえ装備があったとしても、あなたが森に入るよりもはるかに危険だとは思いませんか?」
「思います」
私が浅はかだった。
いくら入ってはダメと言い聞かせていても、装備を貰ったらこっそり森に向かってしまうかもしれない。
そんなことが起こらないようにと、ミラベルさんは怒っているんだ。
「ごめんなさい」
「解ってくれたらいいわ。フローラたちも、わがままを言ってはダメよ。あなたたちがぐずったから、アイリスさんが怒られることになってしまったのは解るでしょ」
「うん。ごめんね、アイちゃん」
「ごめんなしゃい」
しょんぼりしながら私に謝るフローラちゃんとリーファちゃん。
それを見たミラベルさんは二人の頭をなでながら、ちゃんと謝れて偉いわねって。
「もう森に入りたいって言って、アイリスさんを困らせちゃダメよ」
「うん」
二人が小さく頷いたことで、フローラちゃんたちを森に連れて行くという話はなくなったんだ。
「さて、それじゃあ入りますか」
フローラちゃんたちと別れて、いざ森の中へ。
とは言っても今日は試しに入るだけだし、遠出をするつもりはない。
だからフライングソードは出さないで、膝くらいの草をかき分けながらずんずんと進んで行く。
「こうしてみると、この森には本当に誰も入っていないみたいね」
ぺスパが農業都市だからか、それとも魔物が恐ろしいからか。
まだ浅い所なのに、人が入った形跡がまるでないのよね。
そのせいなのか採取ポイントが全くの手付かずで、ところどころでぼぉっと光ってるのが見える。
ただ、それが私にとって幸運なことなのかと言うとそうでもない。
「魔素が薄いせいかな。品質があまり良く無いものばかりなのよねぇ」
ポーションを作れないことはないけど、必要な成分を得ようと思ったら数が必要みたい。
私の場合、こんなものを使わなくてもフライングソードがあるから良質のものを遠くまで採りに行けるでしょ。
だからそんなポイントは素通りして、他に何か森の恵みはないかとうろうろ。
「おっ、果物っぽいもの発見」
すると明るい紫色の実がなっている木を見つけたのよ。
そこでその実にしらべるコマンドを使ってみたところ、食用可との表示が。
「なになに。取ってすぐは青臭いけど、一定の温度下で追熟することで甘くなるのか」
見た目はナスみたいなんだけど、どうやら味はバナナっぽいねっとりした甘みのある果物の模様。
そこそこの大きさもあるし、一本の木にかなりの数がなっているのを見て私は首をかしげる。
「おいしいなら、なんでぺスパの人はなんでこれを食べないんだろう?」
ミラベルさんは、果物はとても高いからあまり食べられないって言っていたよね。
でもこんな森の浅い所になっているなら、採りに来るくらいできそうだけど。
そんな疑問を感じながら、他にもこの実がなっている木はないだろうかと周りを見渡す。
すると、私の視界にある変化が起こっていることに気が付いた。
「なによこれ。違う色の採取ポイントが増えてる?」
さっきまでところどころに見えていた薬草などが採取できるポイント、それとは明らかに違う色のポイントが何故か新たに見えるようになっていたんだ。




