51 やはりこの世界でもアイテムボックス持ちは貴重だった
うをぉぉぉぉぉぉ、やってもおたぁぁぁぁぁ。(心の中で絶叫)
ラノベでアイテムボックス系のスキルはチートの極みだから、クラリッサさんの前でも隠してたのにぃぃぃぃぃぃ。(血涙)
目先の利益のために、どんな大局でも頭から簡単にスコーンと抜けてしまうのが私の悪い癖。(遠い目)
と、いくら現実逃避したところでやらかした事実がなかったことになるなんて都合のいい話はない。
おまけに現実逃避をしていたせいで、フローラちゃんとリーファちゃんもミラベルさんが言ったアイテムボックスがすごいスキルだと気が付いてしまったみたいだし。
「アイちゃん。アイテムボックスってなに?」
「なに、なに?」
キラキラした目で私に聞いてくるフローラちゃんとリーファちゃん。
こうなると私に逃げ道などない訳で。
「私の国ではストレージって呼ばれてるんだけど、魔法で作りだした空間の中に色々なものを入れて置ける収納箱のような能力よ」
「こんな大きなものを入れることができるなんて、アイリスちゃんは大きなアイテムボックスを持ってるのね」
ミラベルさんの指摘に、より一層目を輝かせるフローラちゃんとリーファちゃん。
「いっぱい入るの? どれくらい?」
「どえくあい?」
「う~ん、どれくらいだろう?」
いや、ちゃんと把握はしてるわよ。でも本当のことなんて言えるはずないじゃない。
だからごまかしたんだけど、ここでミラベルさんから大きな爆弾が落とされた。
「そう言えばアイリスちゃんのお家って、いきなり建ったわよね? もしかしてあれもアイテムボックスに入ってたの?」
「え~、お家まで入るの? すごいすごい」
「すごいすごい」
「いや、あれは……確かにストレージに入れて持ってきたけどちょっと違うと言うか」
私は家のユニット化というものがあって、それによって小さなアイテムになっていた家を持ち歩いていただけだと説明する。
「これは引っ越してきた日に話したと思うけど、そういう技術が私の国にはあるの。どうやればそんなことができるのかまでは私も知らないんだけどね」
「なぁ~んだ。お家が入るわけじゃないんだ」
それを聞いたフローラちゃんはちょっとがっかり。
でも実を言うとうちより大きな魔物だって入るのだから、家をそのまま入れようと思ったら多分入るのよね。
さすがにその話はしないけど。
「ところで、ミラベルさんが知ってたったことは、アイテムボックス持ちってそれほど珍しく無いんですか?」
ラノベではチートスキル扱いだけど、ゲームではだれもが持っているストレージ。
もしかしたらこの世界だとそれほど珍しいスキルではないのかもと、一縷の望みにかけてアイテムボックス持ちがそれほど珍しくないかもしれないと言う細い糸にかけてみる。
でもその期待は、脆くも崩れ去るのだった。
「そんな訳ないじゃない。魔法が使える人が500人に1人と言われているのよ。そしてアイテムボックスを使えるのは、その中でも1000人に1人くらいと聞いたことがあるわ」
50万人に1人、いや実際は使える可能性がある人すべてが習得に挑むわけではないから、もっと確率は低いのか。
「アイリスちゃん、他の人にばれないようにするのよ。変なのが寄ってくるかもしれないから」
「はい、気を付けます」
私は神妙そうな顔でそう答えたんだけど、ミラベルさんは頬に手を当てながらため息。
「アイリスちゃんはちょっと抜けている所があるから心配だわ」
「うぐぅ」
返す言葉も無いとはこのことか。
実際、気を付けているつもりだったのに他ごとに気を取られてやらかしちゃったからなぁ。
ミラベルさんが心配するのも解る気がする。
「でもなぁ。ストレージ、この場合はアイテムボックスって言った方がいいのかな? こんなのあっても、普通の人にとってはそんなに便利だと思わないんだけど」
国単位の話なら、戦争などで物資を運べるという利点はあるわよ。
でも一般市民だったら、一度に多くの者を運ぶ機会なんてないじゃない。
私でも日本にいたころは、一人暮らしをするために引越しした時くらいしか多くの荷物を運ぶなんてことなかったもの。
貴族に転生したっていうのなら国がなにかを言ってくるかもしれないけど、私って地方都市にいる錬金術師、それも見た目8歳くらいに見える女の子なんだよね。
こんな能力を持っていたからって貴族や国単位の組織まで話が伝わるとは思えないから、それほど大きな騒ぎにはならないんじゃないかなって思うんだけど。
でもね、どうやらその考えはちょっと浅はかだったみたい。
「普通の生活だとそうだろうけど、商人とかは違うんじゃない? それに私から見ても、収穫時とかはあったら便利だなぁと思うくらいだし」
「なるほど。確かに畑で採れたものを運ぶのには便利かも?」
商人なんかにばれたら物を運んで欲しいとうるさく言われるかもしれないなぁくらいには思ってたけど、ぺスパだとご近所さんにもストレージの存在を知られたらまずいのか。
そこまで考えていなかった私は、これは気を付けないとと心にカツを入れる。
「頑張ってばれないようにします」
「その方がいいわね。フローラたちも、このことは誰にも言っちゃダメよ」
「「はーい!」」
うん、よいお返事。
まぁ心配しなくても、アイテムボックスの存在さえ知らなかったくらいだから少ししたらこの話自体を忘れそうだけどね。
「ところで、森に入ってもいいかどうかと言う話はどうなりました?」
「ああ、そんな話でここに来たんだっけ」
ミラベルさんは苦笑を浮かべながら、すっかり忘れていたわって。
「この骨って、どれくらいの魔物のものなの?」
「Cランク上位らしいですよ。確かシルバーウルフって言うらしいです」
魔物の名前を言えば知っているかな? と思ったけど、ミラベルさんはその手の話に詳しくないらしくてふーん、そうなのって言う軽い感じのお返事が。
「Cランクって強いの?」
「さぁ? 私も冒険者じゃないからあまり知らないんですよ。ただ、灰色の狼をたくさん引き連れていたから結構強いんじゃないかな?」
なにせいきなり登場、即撃破だったからステータスを見てないのよね。
おまけに周りにいた狼たちも、みんなすぐに逃げちゃったし。
クラリッサさんの護衛をしていた冒険者さんたちが苦戦していたけど、それだって数の暴力による苦戦って考えた方が良さそうな口ぶりだったしなぁ。
お隣のガイゼルは冒険者の街って言われてるくらいだから、そこの基準で言うとこれを倒せたら一人前の冒険者って言われる程度の魔物なのかもしれない。
なにせクラリッサさんが、城のメイドさんでも狩れるキラーラビットより弱いって言ってたくらいだからね。
「ただぺスパ辺りに出る魔物はこのシルバーウルフの取り巻きだった狼たちより弱いって、私が薬を下ろすことになってる商会のお嬢様が言ってましたよ」
「まぁ、こっちの森はガイゼルと違って弱いのしかいないしね」
だから安心して農業ができてるんだしと笑うミラベルさん。
「そこそこ強い魔物を狩れるんだったら、この近くの森ならそれほど危なくないわね。でも、何があるか解らないから気を付けるのよ。草むらには蛇とかもいるんだから」
「その点は大丈夫、ちゃんと対策してるんで」
私はそう言うと、今履いている革製のブーツをポンと叩く。
これはウィンザリア製だから、目の前にドンと鎮座してるシルバーウルフに嚙みつかれたとしても傷一つ付くことは無いだろう。
「結構強い魔物の革でできてるから、毒蛇に噛まれても大丈夫です」
「それなら安心ね」
それを聞いたミラベルさんは安心したみたい。
それでも危ないのには変わりがないのだから気を付けないとダメよと言いながらも、私が森に入るのを許してくれたんだ。




