48 動物さんシリーズはかわいいけど結構高性能
過去の話を読み返して、シャルロッテの名前が最初はシャルロットであったことを発見しました。
と言うか、初登場の題名がシャルロットだったorz
という訳で、名前を本来のシャルロット表記に変更しています。
制作数をしぼらせた結果、できあがった動物さんシリーズは全部で6体。
それぞれ、ネコ、イヌ、くま、ぶた、トラ、ゾウの子供を擬人化して2.5頭身にした可愛らしい姿をしている。
う~ん。どうやらシャルロットは、うちの庭をこども動物園にしたいようね。
「6体もいる?」
「草刈りなどの庭の管理もそうですが、ここでは実験的に畑も作るのですよね。それならばある程度の働き手は必要かと思いまして」
なるほど、確かに農業には人手が……。
「って、ゴーレムは昼間、オブジェに擬態するのよね? どうやって農作業をさせるつもりなのよ!」
「庭の開墾や収穫後の畑を再度耕すのは夜中でも出来ますし、害獣による作物への被害も防げますが?」
どや顔でそう答えるシャルロットに、私はぐうの音も出ない。
でもここは森に近いから、害獣対策としてゴーレムを使うというのは確かに悪くない考えかも。
「でも、畑を作るのは多分、もう少し先になると思うわよ」
ぺスパには家を構えたばかりだし、クラリッサさんの商会へのポーションの納品もある。
それに森に入って、この辺りにどんな植物があるのかも調べてみたいのよね。
なにより、畑を作ろうと考えたきっかけである城でのビタービートの実験栽培もまだ終わっていないもの。
いずれは小さい畑を作りたいとは思っているけど、正直言って今現在の優先度は低い。
「ですが畑を作る際、急にオブジェが増えたりしたらおかしくはないですか? どちらかと言うと畑の邪魔になるから撤去する方が自然ですし」
「ごもっとも」
確かに泥縄式にゴーレムを作ると、周りから変に思われるかもしれない。
そう考えたら最初からある程度の数を庭に置いた方がいいのかもしれないわね。
「解ったわ。どのみちもう作ってしまったのだから、この6体を庭に置くとしましょう」
ただ、明るい内にゴーレムたちを設置しようと思ったら、私たちの手で運ばないといけないでしょ。
だからそれは後にしましょうとシャルロットからの提案があった。
「折角ですし、この子たちのご挨拶と性能テストをしませんか?」
「ん? 性能テストは解るとして、ご挨拶って何?」
私が訪ねると、シャルロットはにっこり笑ってゴーレムたちに話しかけた。
「さぁみんな、アイリス様にご挨拶して」
すると私の前にずらっと並んで、体を少し傾けながらこっちに向かって可愛らしくあげた片手を元気に振る6体の動物さんたち。
何これ、もしかして私を殺しにかかってる?
自他ともに認めるかわいいもの好きの私に、この攻撃は『こうかはばつぐんだ!』
自分でもだらしない顔になっていると理解しながら、しばらくの間その光景を見続ける私。
でも、そんな至福な時間にも終わりは来るわけで。
「それではアイリス様。この子たちの性能テストをやりましょうか」
シャルロットのこの一言で動物たちは手を振るのをやめ、直立不動の体制になってしまった。
それをちょっと残念に思いながらも、性能テストは大事と気を取り直す。
「それで、どこでやるの?」
「外には出せませんから、地下の空いている部屋はどうでしょう?」
この家はウィンザリア製だから、そのすべてが破壊不能オブジェクトになっている。
だから多少暴れたところで壁が壊れたり、屋根が崩れ落ちてきたりする心配は無いのよね。
それに地下なら音が外に漏れることもないから、案外いい考えかも。
「じゃあ、そうしましょうか」
ってことで移動開始。
シャルロットの後ろをトテトテと歩く動物さんシリーズに癒されながら、私たちは地下にいくつかある空き部屋の一室へ。
「性能テストはいいけど、何をやるの?」
「とりあえず全力での機動テストと、軽い模擬戦でしょうか」
地下では草刈りや畑を耕すことができないから、それが無難なところね。
「それじゃあ、お願い」
「解りました。動きが一番早いネコちゃんとトラさん、全力でこの部屋の中を駆け回って」
シャルロットがそう命令すると、ネコとトラのゴーレムが一歩前に出て敬礼。
そして、その後がすごかった。
「なんてスピードで動き回るのよ」
「本来ははるかに重い体で行動するようにできているのですから、これくらいは当たり前じゃないですか?」
100レベル越えの私だから目で追えてるけど、2体のゴーレムは壁や天井も使って高速で飛び回るものだからとにかく目まぐるしい。
そして驚くことに、それほど素早く動き回っているというのに壁や天井を蹴る音がほとんど聞こえないのよ。
もし暗闇でこれをやられたら、私でもすべての攻撃をよけられる自信はないかな。
それを言うと、シャルロットは笑いながらこう返してきた。
「ネコ科の動物は狩りが得意ですからね。でも軽い上に力も20レベル程度の前衛くらいしかないから、アイリス様なら当たってもダメージは受けないと思いますよ」
「なるほど。いくら早くても防御力を貫通することはできないって訳か」
実際ネコ型ゴーレムに全力で突っ込んできてもらったんだけど、お腹で受け止めた感じ投げつけられたぬいぐるみが当たっただけのような印象を受けた。
よくよく考えたらミニバンくらいの大きさがあるブレイブシープの突進でさえ、私はノーダメージで受け止められたんだもん。
軽くて小さい、子猫ゴーレムの攻撃程度ではこうなるのも当たり前か。
「他の子たちは、ここまで早くは動けないのよね?」
「はい。くまさんとゾウさんは力に特化していますしイヌさんとぶたさんはにおいによる追跡に特化していますから」
これにはちょっと疑問が頭をもたげる。
「力は解るけど、においによる追跡ってこの家で必要になることある?」
「はい。作物を荒しに来た害獣がどこから来たのか、それを調べる時に必要ですから」
いやいや、このゴーレムたちがいれば追い払えるんでしょ。
ならそんなことまでする事態になるなんてことは、正直考えられないんだけど。
でも作ってしまったものは仕方がない。
「まぁ、いいわ。次は模擬戦ね」
「はい。それじゃあくまさんとゾウさん、前へ」
シャルロットの命令に、一歩前に出て敬礼するくまとゾウのゴーレム。
その後部屋の中央までトテトテと歩いて行くと、向かい合って構えを取った。
うん、確かに構えているのよ。でも何と言うかなぁ。
「ぬいぐるみが向かい合っているようにしか見えないのは私だけ?」
「私もそうですから、その感想は間違っていないと思いますよ」
そっか、やっぱり誰の目から見てもそう思えるのか。
そしてその後の模擬戦も、見た目はとてもほのぼのしていた。
アイアンゴーレムのはずなのに、なんとなく柔らかく見えてくる2体のゴーレム。
力は強いのだろうけど、衝撃吸収構造なのかぶつかり合っても大きな音がしないから迫力というものはまるでないのよね。
「これで本当に20レベルの前衛くらいの力があるの?」
「早さを犠牲にしている分、力だけなら25レベル相当になっています。ですからこの周辺にいる魔物ならあの一撃で吹き飛ばされると思いますよ」
シャルロットの言葉に、私はもう一度くまさんとゾウさんのぶつかり合いに目を向ける。
「う~ん、どう見てもぬいぐるみが戯れているようにしか見えないんだけどなぁ」
ぽふぽふと言う擬音が似合いそうなぶつかり合いを見ながら、私は思わずほっこりとした気分に包まれてしまうのだった。




