46 わたくしさま、NPCたちとその配下の仕様を知る
とりあえず庭の管理に関してはミニゴーレムに任すとして。
そう思いながら、私は我が家に目を向ける。
「でもこの広い家にある、多くの部屋の管理はどうするの? ゴーレムは細かい作業に向かないから掃除とかを任せようったって無理よ」
ラノベに出てくるゴーレムの中には、人と変わらないことができるものがよく出てくる。
でもゴーレム使いはウィンザリアのジョブだから、生み出すゴーレムはいくら現実になって汎用性が上がったと言ってもそこまで便利にはなっていないのよね。
頼みのゴーレムが使えない以上、これだけの部屋数を一人で管理するなんて流石にできるはずがないと思うのだけど。
ところが、そんな私の幻想をシャルロットはたった一言でぶち壊す。
「お忘れですか? この家はマジックアイテムなので使わない限り汚れることはありません。ですから人が少ない方が管理は楽なのです」
「あっ、そう言えばそうか」
ゲーム内ではベッドで寝たとしてもシーツにはしわ一つ付かなかったし、いくら木工作業で木くずを飛ばそうが部屋が汚れるようなことは一切無かった。
それが現実になったことでベッドを使ったり周りが汚れるような作業をしたりすれば、その場所だけは整えたり掃除をしたりしなければいけなくなったのよ。
ただ使わない設備や部屋に関してはゲーム時代同様、いくら放置しても汚れるどころか塵一つ落ちてない状態を維持されるようになっているのよね。
そのことを考えると、確かに人を増やした方がかえって手間が増えるのかも?
と、そう思ったところである一つの疑問が。
「料理はどうするの? さすがに料理人はいるわよね」
私は現実でも料理をしていたし、ゲームキャラとしても料理スキルを持っている。
だからやれと言われればやれるけど、立場的には一番上だからシャルロッテの分まで作るのは変よね。
それにシャルロットは戦闘用のNPCだから、生産系として呼び出された使用人と違って料理なんかできないだろう。
そう思ったからこその発言だったんだけど、またもや呆れた顔をされてしまった。
「なぜアイリス様に作られた私たち7人が、呼び出せる配下が持つスキルを使えないと思われたのですか?」
「えっ、どういうこと?」
言われたことが解らず聞き返すと、シャルロットは丁寧に説明してくれた。
城の子たちって、私が作ったNPCが呼び出しているよね。
この場合、呼び出された子たちはそれぞれ専門職として30レベルの力が与えられるでしょ。
それに対して、生み出す側であるNPCたちはそのすべての職を30レベルの力で扱うことができるそうな。
「アイリス様に紐付けされている我々がジョブチェンジによってすべて135レベルの力が出せるのと同様、私たちも生み出す配下たちと同様の力がすべて扱えるのです」
「なるほど。ジョブチェンジシステムの簡易版みたいな扱いなのか」
これは多分私がすべての生産系スキルを取っていたから、紐付けされているNPCたちも同じスキルを持っているという設定なんだろうなぁ。
それと生産スキルが30なのは、ゲーム開始当時の上限が30だったからなんじゃないかな?
ウィンザリアの生産スキルはどれか一つが30レベルに達すると、その中から一つだけしかそれよりあげることができなくなる。
そしてそのえらんだスキルのレベルが上がるとその都度上限解放クエが出されるんだけど、60レベル以上が解放される時に運営からこんなアナウンスがあったのよね。
『このクエストをクリアすると、他の職業もメイン職業の半分のレベルまで上げることができるようになります』
要するに私の場合は錬金術がメインだったから、62レベルまで上げたら他の職業も31まで自動で解放されるって訳。
これを見ると解るけど、レベル上限解放の仕様が普通のジョブと生産系とではまるで違うのよね。
だからNPCや呼び出される子たちの初期職業レベルが30になってるんだと思う。
そして呼び出された子たちはそれぞれをメインの職業と定めているでしょ。
この設定が適応されているから、経験を積めば30レベルよりも上にあげられるようになってるんじゃないかしら。
多分このまま仕事を続けて行けば、最終的には私が解放している100レベルまで使用人たちは到達できるんじゃないかな?
まぁこれはあくまで私の想像だから、当たってるとは限らないけどね。
閑話休題。
「それじゃあ、料理もシャルロットが担当するの?」
「はい。私はアイリス様を補佐するために存在するので」
確かにシャルロットはこの家を私一人では維持できないから作ったんだし、その言い分はあっている。
でもなぁ。
「間違ってはいないけど、どちらかと言うとお手伝いさん兼同居人くらいの気持ちでいてもらえると嬉しいんだけど」
だって、ずっとかしずかれていてもつかれちゃうもん。
「城じゃあミルフィーユが同じような立場だけど、私を叱ったりするでしょ。それにエクレアなんて私を友達くらいにしか思ってない気がするし。だからそこまで畏まらなくてもいいよ」
「でも、そのようなことは……」
「私がいいと言ってるんだから、いいんじゃない?」
城にいる6人はゲーム時代からの付き合いだからなのか、私の性格が解ってるのよね。
だからこそのあの行動なんだろうけど、シャルロットはまだ生まれたばかりだもの。
私との距離感がまだ解っていないのだから、その辺りははっきりさせた方がいいだろう。
「それにさっきから何度も呆れた顔で私を見てるじゃない。多分私が作ったから、その性格に合わせた仕様になってるのよきっと」
「そうでしょうか?」
「うん、間違いない」
根拠はないけど。
「まぁ付き合っていくうちになれるだろうから、気負わずにいこうよ。一緒に寝起きする仲なんだから」
私がニカッて笑いながらそう言うと、シャルロットはいまだ戸惑っているという表情だったけど、
「解りました。これからよろしくお願いします」
そう言ってぺこりと頭を下げたのだった。




