43 ゲームの家は水回りも規格外
キッチン系の魔道具を興奮気味に見ているミラベルさん。
しばらくの間、水を出したりお湯を出して本当に温かい水が出てくると驚いたり。
ひとしきり大騒ぎした後、何かに気が付いたかのような顔をして私に聞いてきたんだ。
「えっと、さっきから結構な量の水を出してしまったけど、ここって建てたばかりなんですよね。排水の手配は済んでいるんですか?」
言われて、私も初めて気が付いた。
そう言えばこの家だけじゃなく、城もお風呂や調理場、それにトイレなんかの汚水がかなり出てるはずよね?
その排水や汚水処理はどうしてるんだろう?
「シャルロット、排水って……」
考えたところで解るはずもないのでダメ元でと聞こうと思ったんだけど、目を向けるとそこにはなぜかぼぉっとした顔のシャルロットの姿が。
なぜにそんなあほ面を? を一瞬思ったけど、すぐに何をしているのかに気が付いた。
ああ、誰かとクランチャットしているのね。
「思い出したので、お答えしますね」
その考えは正しかったのかシャルロットはいつもの表情に戻ると、私たちに水回りについての説明をしてくれた。
「この家はそれそのものが魔道具になっているので、汚水などは魔力分解と言う技術によって処理されています。ですから、どこかに溜めたり流したりする必要はないのですよ」
「そうなんですか。私は聞いたことがないですが、そういう魔道具もあるんですね」
シャルロットの話を聞いて、感心するミラベルさん。
そして顔には出さないけど、ちょっと驚いている私。
魔力分解と言うと、狩った魔物をストレージ内で解体した時に出てくる必要のない部位を処理してくれるあれのことよね。
ってことはもしかして、排水するたびにGが少しずつ増えたりするの? いや、流石にそれは無いか。
誰に聞いたのかは解らないけど、城も同じシステムになっているからクランチャットでそんな答えが返ってきたんだよね?
城ではこの家の何倍もの汚水が出るのだから、もしGがもらえるならとんでもない量になってしまうもの。
そんな都合のいいことはないだろうし、むしろその処理には費用が必要で日々貯金箱の中のGが減っているんじゃないかって心配までしてしまうくらいだわ。
まぁ、本当に減っているのならミルフィーユが注意してくれるだろうけどね。
「この辺りはガイゼルのような下水は完備されていないから、うちでは水回りを一カ所にまとめてそこからスライムを飼っている場所に流れ込むようにしているの。その下水やスライムさえ要らないなんて、大都市の家は進んでるのね」
「ガイゼルには下水道があるの?」
「ええ。街にある家はスライムを飼う場所が取れないから。それに井戸も近くの大河から穴を掘って、地面の中を流している水を生み上げているそうよ」
なんと、ガイゼルって江戸の街みたいなことをやってるんだ。
いや、上水道だけじゃなく下水道まであるならもっと進んでるのか。
やっぱり魔法で掘ったりしたのかなぁ?
ガイゼルの街にあるという施設に思いをはせてると、また誰かが私の裾をくいくいっと引っ張った。
「あっ、ごめん。おやつを食べるんだったね」
「うん!」
引っ張ってたのは先ほどと同様リーファちゃん。
何度もおやつをお預けにされらいやだよね。
ってことで、今度こそおやつタイム。
「何が食べたい?」
「ん~、、わかんない」
そりゃそうか。おやつって文化が無いなら、お菓子を食べるっていう発想もないだろうし。
それならと、冷蔵庫へ移動して一番下にある野菜室をオープン。
「さすがミルフィーユ。ビタミン補給用に色々な果物を入れてくれてるね」
大型冷蔵庫だから野菜室の容量もたっぷり。
でも冷やす必要のない野菜は入れてないから、その分色々なフルーツが入っていた。
「どれがいい? これなんか、結構おいしいわよ」
そう言って見せたのは桃とイチゴ。どちらも子供が大好きなフルーツだ。
でも、それを見たリーファちゃんの反応はいまひとつなのよね。
「どうしたの? これはいや?」
「わかんない」
あっ、そうか。これは城から持ち出したものだから、当然ゲームや日本にあるフルーツでしょ。
初めて見るものを食べてみたいと思うかと聞かれたら、普通は躊躇するよね。
「そっか。じゃあ、この中で何か食べたいものはある?」
そんな訳で、リーファちゃんに野菜室の中を見せてあげたんだけど、やっぱりよく解らないってお顔。
「ミラベルさん。フローラちゃんやリーファちゃんって、嫌いなものある?」
「子供だから、やっぱり苦いものは嫌いね」
そりゃそうか。よく解らない食材を前にして食べられないものはあるかと聞かれたら、多分私でもそう返すと思う。
「聞き方が悪かったわね。甘いもので、嫌いなものはある?」
「あまいの、あるの!?」
私の質問に反応したのは、聞かれたミラベルさんじゃなくフローラちゃん。
どれが甘いの? って聞きながら、野菜室を覗き込んだ。
「そうねぇ、おすすめなのはさっきリーファちゃんに見せたこの二つ。こっちの丸っこい桃って言う果物はすごく甘くて、この赤いイチゴっていうのは甘酸っぱくておいしいよ」
「私、甘いのがいい!」
「わたちも!」
フローラちゃんが桃がいいって言ったものだから、リーファちゃんも真似してはいはいって手をあげてる。
それがかわいかったから、私はにっこりしながらリクエストに応えて桃をむいてあげることにした。
「じゃあ切ってあげるから、そこの椅子に座って待ってて」
「「はーい」」
私は大きな桃を3つ取り出すと、それを持ってシンクへ……向かおうと思ったらシャルロットに取り上げられてしまった。
「そのようなことは私がやりますから、アイリス様もテーブルの方へ」
「ありがとう。それじゃあ私は、飲み物を持って行くわ」
桃を切るのはシャルロットに任せて、私は冷蔵庫を開けてその蓋を見る。
するとそこには予想通り、前に娯楽室のバーカウンターで見かけた割材のジュース類がずらりと並んでいた。
「炭酸はびっくりするだろうから、オレンジジュース辺りが妥当かな?」
業務用紙パックの果汁100パーセントオレンジジュースを取り出すと、それを持ってフローラちゃんたちがいるテーブルの元へ。
するとシャルロットがカップを4つ持って来てくれた。
「それでは私は、桃をカットしてきます」
「うん、お願いね」
私はそう答えると、紙パックのオレンジジュースを興味深そうに見ているフローラちゃんたちに視線を向けてほくそ笑む。
ふふふっ。見せてやろう、現代技術の粋を集めてきわめて甘く品種改良されたオレンジジュースの性能とやらを!




