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41 ベットがあったら飛び跳ねるよね

 ソファーの柔らかさに、しばらくの間ぐでぇ~っとしていたフローラちゃんたち。


 でもそれに飽きたのか、また別のところが見たいって言いだしたんだ。


「あっちのお部屋に行ってもいい?」


「いい?」


「いいよぉ」


 私が返事をすると、ばびゅんって音がしそうなくらいの勢いで走っていくフローラちゃんたち。


 それを見てくすくす笑いながらミラベルさんと二人でその後を追うと、その先からおおって言う驚きの声が聞こえたんだ。


「えっと、あっちは寝室よね」


 他の部屋には特にめずらしいものが無かったからなのかな?


 軽くのぞくだけで素通りして、寝室に向かったみたい。


 でもそんなに驚くようなもの、あったかなぁ?


 そう思いながら向かうと、私の前を歩いていて先にその部屋の中を見たミラベルさんがすごく慌てたんだ。


「二人とも、何してるの!」


 一体何事? って思った私が部屋の中をのぞいてみると、そこにはびっくりした顔でこっちを見ているベッドにのったフローラちゃんたちの姿が。


 でも、別に変ったところはないわよね。


 そう思った私は、ミラベルさんに聞いてみたんだ。


「どうしたんですか? 二人とも、特に変わったことはしていないように見えるんだけど」


「二人とも今はやめてますけど、さっきまでベッドの上で飛び跳ねていたんですよ」


 ん? それって変なことかな。


 小さな子が大きくて柔らかいベッドに興奮してその上で飛び跳ねる、そんなの別に珍しい話でも無いと思うんだけど。


 私はそう思っていたんだけど、ミラベルさんはそうじゃなかったみたい。


「あんなことをしたら、下板が傷んでしまうじゃないですか」


「下板?」


 言ってる意味が解らず、頭をこてんと倒す私。


 それを見て、何かがおかしいと思ったのかな?


 ミラベルさんは、恐る恐ると言った感じで聞いてきたのよ。


「アイリスさんの家のベッドだから厚めのマットが敷いてあるでしょうけど、いくら小さいとはいえフローラたち二人があんなに飛び跳ねていたらその下の板が痛むと思って」


「下の板? ああ、そういうことか!」


 一瞬、何を言われたのか解らなかったけど理解したわ。


「大丈夫よ。あれは多重構造マットレスだから、大人が飛び跳ねても床板に衝撃がとどくことは無いから」


 ベットは裁縫とサブに木工があれば作れる家具で、私にそれを作れるスキルレベルがあるからかどんな構造だろうと考えるだけで頭に浮かんだのよ。


 それによるとスプリングだけじゃなく羊毛フェルトやキルト布、それとスポンジのような緩衝材になる魔物の素材をいくつか使ってマットレスが作られているみたい。


 その分マットレスは40センチとかなり厚いんだけど、おかげで子供が飛び跳ねたくらいじゃベッドフレームにまで衝撃がとどくなんてことは無いんだ。


「だから二人とも、思う存分飛び跳ねていいわよ」


「やったぁ!」


「わぁ~い」


 私のお許しが出たからと、ベッドの上でぴょんぴょん飛び跳ね始めるフローラちゃんたち。


 ミラベルさんはそれを見てまだハラハラしてるみたいなんだけど、そこまで心配する必要は無いんだけどなぁ。


 ベッドフレームに使われている木材もトレント系の魔物素材なんだから、多分大人の男の人が大きな両手持ちハンマーでたたいても割れるなんてことないだろうし。


 あっ、それともフローラちゃんたちがベッドから落っこちてしまうかもって心配してるのかな?


 そう思って見てみたんだけど、寝室に置いてあるのはウィンザリア時代から使っていた大型種族でも寝られる特別サイズ。


 俗にいうキングサイズよりも大きいくらいなんだから、まるで小さな子がトランポリンで遊んでいるかと思うくらい安全なんだよね。


「お母さん、見て! お空飛んでるみたいだよ」


「とんでうよぉ~」


 その証拠に、フローラちゃんたちはぴょんぴょん跳ねながらすごく楽しそう。


 だから余計に、ミランダさんがなんであんなに不安そうな顔をしているのか気になったのよね。


 そして気になるのなら即行動。


「えっと、どうかしました?」


 そう聞いてみると、ちょっと予想外の答えが返ってきたのよ。


「あの子たち、ここに連れてくる前は外で遊んでいたのよ。それなのにあんなきれいなベッドの上で飛び跳ねたりして」


 何のことは無い、砂とかが落ちてベッドを汚してしまうんじゃないかとハラハラしてたみたいなのよね。


 それなら何の問題もないわ。


「掛け布団にもマットレスにも、シーツがかけてあるから大丈夫ですよ」


「でも、あんな真っ白なシーツに泥でもついてしまったら落ちなくなってしまいますよ」


 なるほど、確かに泥汚れは落ちにくいよね。


 でもなぁ、うちのメイドの手にかかればどんな汚れでもきれいに落としそうな気がする。


 彼女たちは私なんかより、よっぽど優秀だからね。


「まぁ、その時はその時ですよ。ほら、フローラちゃんたちが呼んでいるみたいだし、ベッドの近くに行きましょう」


 心配したところで汚れる時は汚れるんだからと、ミランダさんの背中を押しながらフローラちゃんたちのところへ。


 すると、二人は飛び跳ねるのをやめてベッドのふちに来たんだ。


「お母さん。このベッドすごいんだよ。触ると干し草のベッドみたいにふわふわなのに、乗ってもぺこってならないもん」


 フローラちゃんはそう言うと、手でベットを押して見せたんだ。


「あら、本当にへこまないのね。それなのに柔らかいの?」


「そうだよ」


「おかあさん、みててぇ」


 ミランダさんにフローラちゃんが返事をすると、今度はリーファちゃんがハイハイッて手をあげた後、その場でジャンプ。


 そのままベッドに倒れ込むと、マットレスの反発でぽんぽんっと軽く跳ねたんだ。


 それが楽しかったのか、リーファちゃんはキャッキャと大笑い。


「私も、私も!」


 それを見たフローラちゃんも負けじとベッドの上に飛び込むように倒れ込んだもんだから、その反動でリーファちゃんがまたぽんぽんと飛び跳ねちゃったのよね。


 おかげで二人とこお腹を抱えて大笑い。


「お母さん、うちもこのベッドがいい」


「こえがいい!」


 寝ころんだままベットを叩いてそう言ったものだから、ミラベルさんは困ってしまったんだ。


「これがいいって。こんな上等なベッド、うちが買える訳ないでしょ」


「えぇ~」


「えー」


 不満そうな二人に、困った顔のミラベルさん。


「ミラベルさんの家のベッドはどんなものなんですか?」


「えっ、うちのですか? 木の下板の上におがくずを入れた薄いマットが敷いてあるごく普通のものですよ」


 どうやらぺスパでは、そのおがくずマットか干し草の上にシーツを乗せただけのベットが主流らしい。


 なるほど、そんなのを使っているのならこのベットなんか買えるはずがないって思うわよね。


「う~ん、ベッドフレームごとだと運ぶのが大変だけど、マットレスだけなら譲れますよ?」


「いやいや。これほどのものとなると、うちなんかじゃとても買えませんよ」


 悩むそぶりも見せず、そんな返事を返してくるミラベルさん。


 でもなぁ、フローラちゃんたちがあんなに気に入ってるんだし。


 確かに高そうに見えるけど、私が作るんだからかかる費用は原材料だけ。そしてその材料もゲーム時代からの物がストレージに入りっぱなしだもの。


 正直、あげてしまっても痛くもかゆくもないのよねぇ。


 でも、これをそのままあげると言っても受け取らないだろうし……。


 そう考えた私は、妥協案を出すことにした。


「それなら、引っ越しの挨拶として薄いマットレスを差し上げますよ。これほどの性能はないけど、多分おがくずのものよりは寝やすいだろうし」


「でも、薄いと言っても結構な値段がするんじゃないですか?」


「ああ、それは大丈夫。このベッドを買ったから今はもう使わなくなったものですから」


 まぁ、ウソなんだけどね。


「今から持って来るから、とりあえず見るだけ見ませんか?」


 私はそう言うと、3人をシャルロットに任せて一人で地下へ。


 そこで簡易裁縫ユニットを取り出すとメニューから薄いマットレスを選んで自動作成を発動! できあがったものかついで寝室へと戻ったのよ。


「ほら、これです。スプリングとキルト生地だけのマットレスだからこれよりかなり落ちるけど、寝心地はいいと思いますよ」


「あら、ほんと。でも、こんなのもらって、本当にいいの?」


「ええ。倉庫の隅に立てかけっぱなしにするよりは、使ってもらった方がいいですから」


 そう言って押し付ける私。


 ちょっと強引に渡したのが良かったのか、すまなそうな顔をしながらもミラベルさんはできたばかりのスプリングマットレスを受け取ってくれたんだ。


 読んで頂いてありがとうございます。


 ふたつのマットレスはお高めのシティーホテル用のものと、家の簡易ベットに使われているものとの違いくらいに考えてください。

挿絵(By みてみん)


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