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37 シロップのとれる木はここに植えても意味がないらしい

 ビタービートが見つかったおかげで、砂糖の目途はついた。


 ならば次はメープルシロップよね。


「甜菜の代わりは見つかったけど、サトウカエデのようなシロップを生成できる樹液を出す木もあるの?」


「少しお待ちを」


 質問すると、ドライアドは少しの間考えているようなそぶりをした。


 実際は検索をしているってところかな?


 そんなことを考えていると、質問からそれほど待たされることなく見つかりましたとの返答が帰ってきた。


「この近くにある山脈、その中腹辺りから上に該当する樹木が自生しているようです」


「なんという名前の木なの?」


「まだ人には知られていないようで、名前はないようです」


 この世界の人たちに認識されていて名前があるビタービートに対し、その木にはまだ名前が付いていないらしい。


 しかしその木の樹液は間違いなくサトウカエデに近い性質を持っているそうな。


「その木をこの城の周りに出すというか、生やすことはできるのかな?」


「できないことはありません。ですが、その木からは甘い樹液を取ることはできません」


 ドライアド曰く、その木の樹液は寒冷地でも凍らずに根から吸い上げた水分を行き渡らせるために高い糖度を含むようになるらしいの。


 でもこの城の周りでは木が凍るほど冷え込むことは無いから、植えたとしても樹液は甘くならないと教えられた。


「多少の糖分は含みますが、この木は根から大量の水分を吸収し蓄える性質を持つので、薄まりすぎてほとんど感じられないかと思われます」


 樹液が甘くなるのは寒さに対する自己防衛で行われていることだから、ビタービートの時のような品種改良ではどうにもならないらしい。


 確かに凍らないために糖分を出しているのなら、そこまで気温が落ちないところでは木もわざわざ養分を消費してまで糖を分泌するなんてことはしないだろう。


「そうか。ならその木が自生している所まで行かないといけないのね」


 そうなると自販機や食糧庫でメープルシロップを手に入れられる私にとって、そこまでする意味はあまり無いかもしれない。


 ただ同じ種類の木ではないから、風味はかなり違うみたいなのよね。


「花の蜜がそうであるように、樹液も木の種類によって味や香りが違います。実際に試してみますか?」


 なんと、少しでいいのであればその樹液を生み出すことが可能とのこと。


 未知の甘味なら、当然味わってみたくなるものよね。


「できるならお願い」


 玄関ホール担当のメイドさんに陶器のカップを持って来てもらうと、ドライアドに頼んでその中に樹液を出してもらった。


「精製前だからか、かなりさらさらしているわね」


 見た目は透明で、ほんの少しとろみの付いた水って感じ。


 でも甘い香りはするから、煮詰めれば間違いなくシロップにすることができるだろう。


 そんなことを考えながら、私は指先に樹液をつけてなめてみた。


「っ!?」


 するとこの時点ですでにかなり甘くてびっくり。


 それに香りもメープルシロップとはまるで違うものの、これもまた素晴らしいものだったのよ。


「これは! アイリス様、この味ならばわざわざ足を運ぶ価値は十分あるかと思われますわ」


 私に続いて樹液をなめたミルフィーユも、その味がとても気に入ったみたい。


 採取に人を出すべきだと私に提案してきたのよね。


「それには私も賛成だけど、担当できる人出はあるの?」


「ガレット・デロワとクラフティが城の警備兵を鍛えております。それを向かわせれば良いかと」


 この木が生えている山脈は、この近くよりも強い魔物がいるらしいの。


 だから訓練がてら、ガレット・デロワかクラフティが数人を率いて樹液採取に向かわせたらどうかとの提案があった。


「あの二人ならストレージを持ってるから、樽をいくつも持って行くことができるものね。いいわ。後でそう伝えて頂戴」


「承りました。それと提案なのですが、その樹液がとれる木のそばに建てる家を購入してはどうでしょう。トレードボックスから買った家でしたら侵入することも破壊することもできませんから」


 ミルフィーユが言うには、エクレアが呼び出したゴーレムが森の木を倒している時に誤ってこの城の城壁を攻撃してしまったことがあるらしいのよ。


 ゴーレムって作るのに素材がいるからなのか、この世界では武器と同じ扱いになっているみたい。


 一度作ってしまえば消えないから城の守りに使えると思って、ここにあった私の持つ最高の素材を使って作ったそうなの。


 だからそのレベルは135であるエクレアの強さに準拠していたものだから、その瞬間彼女も青くなったらしいわ。


 でも、その壁には傷一つ付いていなかったそうな。


「なるほど。破壊不可のオブジェクトだから、そのゴーレムでも傷をつけることができなかったのね」


「はい。ですからSサイズでもいいのでトレードボックスから家を購入し、それを設置すれば転移ポートを使うことでいつでも樹液を採取できるようになると思いまして」


「確かに家を設置しておけば、わざわざそこまで移動する手間は省けるわね」


 強い敵がいないと言っても、わざわざそこまで移動するのはやはり大変だろう。


 それに樹液を採取するにしても、樽などを設置してから溜まるまでに時間がかかるだろうから何度も足を運ばないといけないもの。


 転移ポートを設置するというのはいい考えだと思う。


「そうね。でもわざわざ買わなくても使わなかったSサイズの家があるから、これを設置しておいて。転移ポートはまだある?」


「はい。まだございます」


 前に渡した転移ポートがまだいくつかあるというので、Sサイズの家だけをトレードした。


「これは後でガレット・デロワに渡しておきます。また樹液の採取後、シロップへの精製が終わりましたらクランチャットで連絡いたしますね」


 そう言って微笑むミルフィーユ。


 この時の私は今でもこれほどおいしい樹液なのだから、どれくらい美味しいシロップができるのかと単純に楽しみにしていたのよ。


 まさかこの決断があんな事態を招くなんて、この時は夢にも思わなかったからね。


 読んで頂いてありがとうございます。


 2月14日にアース・スター・エンターテイメント様から私のもう一つの作品である転生したけど0レベルの3巻が発売になります。


 そちらもどうぞよろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

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