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36 甜菜もどき、あっさり見つかる

 画面で見るより実物を前にした方が美しく見えるわね。


 出現したドライアドを見ながらそんなことを考えていたら、シャルロットから声を掛けられた。


「アイリス様、ご希望のドライアドです」


 いけない、いけない。見惚れている場合じゃなかったわ。


 ゲーム時代と違って、この世界では呼び出した精霊を維持するのにMPは必要がない。


 だからと言って放っておいてもいいという訳じゃないから、早速質問してみることにした。


「この世界に甜菜やサトウカエデに類似した植物はあるの?」


 …………


 質問、ちゃんとしたわよね?


 なのにドライアドは何の返事もしてこない。


「もしかして、召喚主であるシャルロットから質問しないといけなかったのかな?」


「いえ、そんなはずはないのですが」


 ミルフィーユが言うには、召喚者の属する組織やパーティーのメンバーならいうことを聞いてくれるそうな。


 オランシェットが呼び出したベヒモスにエクレアが指示を出して整地作業をさせたり、ミルフィーユが預かったシルフに命令してこの国の探索をさせたりしているらしいし。


 それならば私が聞いた質問にも答えてくれるはずなんだけど?


 私が何故こんなことになっているのだろうかと途方に暮れていると、シャルロットからこんな言葉が。


「アイリス様。ドライアドはどうやら、甜菜やサトウカエデが何か解らなくて困惑しているようです」


 どうやらシャルロットには、ドライアドの困惑が伝わって来たらしい。


 そう言えばウィンザリアには甜菜もサトウカエデも無かったっけ。


 それならこのドライアドが知っているはずもないか。


「なるほど。それはちょっと困ったわね」


 現物があればそれを見せて探させることはできる。


 でもそれが無いから探したかったわけで。


「この世界には地球のものに似た作物も多いみたいだから簡単に見つかるかと思っていたけど、とんだ落とし穴ね」


 先ほどとは別の理由で途方に暮れていると、シャルロットがそぉっと手をあげながらちょっといいですかと聞いてきた。


「どうしたの? 何かいい案でも浮かんだ?」


「案と言いますか、ドライアドから伝えられたと言いますが。その植物には何か特徴的な部分はありませんか?」


 う~ん、そうは言われても現物を見たことが無いのよねぇ。


 名前はよく知られているけど、そのどちらも普段目にするものじゃない。


 だから特徴と言われても、答えようが……。


「ああ、それでしたら確か甜菜は砂糖の原料で、サトウカエデはその樹液がメープルシロップの原料でしたよね?」


 私が悩んでいたことを、ミルフィーユがあっさりと解決。


 ああそう言えば、それこそが最大の特徴だったわ。


「ええ、その通りよ。それで伝わる?」


「はい。両方とも私が知っているものなので、伝わると思います」


 さっきからドライアドの考えていることが伝わっていたのを見れば解る通り、どうやら召喚精霊と召喚者はある程度のつながりを持っているらしい。


 だから召喚者が知っているものなら、その特徴やニュアンスを伝えることができるそうな。


「それでしたら探せると思います」


 聞いたことのない優しげな声に目を向けると、そこには微笑むドライアドの姿が。


 こんな声なんだ、なんて考えながら見ていると、早速見つけることができた模様。


「甜菜に似た植物はビタービートというものがあります。根菜の一種ですが、そのままではえぐみが強すぎて食べることができません」


「ああ、そのあたりは甜菜と同じなのか」


 甜菜も根の部分は食べられなくて、葉の部分も多くは家畜のえさ扱いらしいからね。


「それで、そのビタービートとやらは手に入るの?」


「はい。自生しているものがこの近くにも存在しています」


 おお、それは朗報。早速誰かに採ってきてもらおうと思ったんだけど、そこでシャルロットからストップがかかる。


「それをここで生み出すことは可能よね?」


「はい。それそのものを出すこともできますし、土臭さやえぐみを減らして糖分を増やしたものも創造が可能です」


 さすが植物の上位精霊、なんとそんな品種改良まで可能みたいね。


 ただ、それには一つ問題があるらしい。


「えぐみなどの成分は動物や虫に食べられないようにするための物なので、人の手で生産する時は少し苦労することになるかもしれません」


「なるほど。いいことばかりじゃないって訳ね」


 動物はともかく、虫が付きやすくなるのはちょっとまずいかも。


 日本なら虫よけネットとか害の少ない農薬とかがあるけど、この世界には無いだろうからなぁ。


「逆に虫が付かないようにすることはできるの?」


「できますが、えぐみを減らすことができなくなります」


 元々がそのまま食べる野菜ではないし、えぐみも砂糖を作る際にはすべて取り除くからそれ程問題は無いと思う。


「虫が付かない方が利点が多いから、それでお願い。ところで、生み出したビタービートからは種は取れるのよね?」


「取れますし、種を生み出すこともできます」


 ああ、そうか。現物を生み出せるんだから、種くらい生み出せるよね。


「それじゃあ、その両方を生み出してもらえるかな。実際に砂糖を作ってみたり、種をまいて育てたりしてみたいし」


「解りました」


 ドライアドはそう答えると、玄関ホールの隅に置いてあった大きめのテーブルの元へ。


 その上に手をかざすと、何もない空間からゴロンゴロンと大きな野菜が出て来た。


「これがビタービート? 思ったより大きいのね」


 甜菜は別名サトウダイコンと言うくらいだから、よく知っている大根っぽいものを想像していたのよ。


 でもこれは聖護院大根みたいな丸い形なのね。大きさも前に京都で見たのと同じくらいだし。


 それに色も白じゃなくサツマイモのよう。いや、皮を向いたら白いのかな?


「種もその横に出してよろしいですか?」


「あっ、ちょっと待って」


 小さな種をテーブルの上にそのまま出されると、あとで集めるのが大変かもしれない。


 そう思った私はハンカチを取り出して、テーブルの上に広げた。


「この上にお願い」


「解りました」


 そう言って生み出されたのは、赤茶色っぽい種。


 結構な量を出してくれたから、実験栽培で足りなくなるなんてことは無いだろう。


「ミルフィーユ。私もぺスパの家で作ってみるけど、この城の近くでも栽培実験をしてもらえる?」


「はい、解りました」


 この辺りは魔素が濃いらしいけど、それがどんな効果をもたらすのか解らない。


 だから一般的な野菜が作られているぺスパと、この城の周りとでできたものを比較するのは多分意味があるんじゃないかな?


 含まれる糖分とかに違いが出るかもしれないし。


「それと、このビタービートから砂糖をとる実験もお願い。甜菜と同じならアクを取りながら煮たものをつぶして、それを搾った物を生成すればできるはずだから」


 この城には料理人だけじゃなく錬金術師もいるみたいだし、最悪砂糖になる部分だけ抽出するという方法もある。


 丸投げっぽい形にはなってしまうけど、中身がただのオタクな私がやるより優秀なこの子たちに任せた方がいい結果になるんじゃないかな?


 読んで頂いてありがとうございます。


 体を壊して休んでいたため、ストックがきれた……。


 それはそれとして・


 2月14日にアース・スター・エンターテイメント様から私のもう一つの作品である転生したけど0レベルの3巻が発売になります。


 そちらもどうぞよろしくお願いします。


3巻の表紙情報が解禁されたので初掲載です。

挿絵(By みてみん)


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スティナちゃんの回だ! 楽しみ
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