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35 シャルロット

「アイリス様、いくら付き従う眷属と言えど初対面の女性にそれはさすがに失礼かと」


「うん、反省してる」


 ミルフィーユに叱られてちょっとしょんぼり。


 でもすぐに気持ちを改めてシャルロットと向かい合うことにした。


「知っているとは思うけど、私はアイリス。いや、今はアイリス・フェアリーガーデンか。あなたの主人よ。これからよろしく」


「わたくしはあなたの同僚であるミルフィーユです。この城、キャッスル・オブ・フェアリーガーデンの管理を任されております。以後よしなに」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 挨拶が済んだということで、次の段階へ。


「これからやらないといけないのはシャルロットのジョブ決めと装備、あとはぺスパの家の使用人についてかなぁ」


「使用人に関してはシャルロット自身に確認させてからの方がよろしいかと」


 ミルフィーユの言う通り、漠然と部下の使用人を用意してと言われても困ってしまうだろう。


 だからそれは後回しにして、今はミルフィーユ本人の話をすることになった。


 因みに今の彼女だけど、ジョブは戦士で装備はメイド服にヘットドレス、レースの付いた肘まである手袋とローファーという姿だ。


 これは新たに作った女性NPC共通の初期状態で、これが男性キャラだと執事服になり、ヘットドレスが無い代わりに体の上下が別の装備になるの。


 因みに装備の防御力はすべて1で、特別な効果はなし。


 それだけに外へ連れ出そうと考えたら、何かしらの装備を与えないといけないのよね。


「ジョブはとりあえず精霊召喚士に変更かな」


 ドライアドを呼び出して甜菜なんかの話を聞かないといけないから、今のところはこれ一択だろう。


 ぺスパに連れて行く時は、状況次第で変えることになるだろうけど。


「後は装備だけど、この世界であまり浮かない感じのを私が作らないとダメかな」


 農業都市のはずれに住んでいるのに、物々しい装備を着ていたら流石におかしいでしょ。


 だから私の作れる最高レベルの布装備を、デザインだけ変えて作ろうかなぁと考えたのよ。


 でもそこで、ミルフィーユからこんな提案が。


「それでしたら、城の裁縫師に作らせてみてはいかがですか?」


「城のって、ここに裁縫師がいるの?」


「はい。こちらに来て初めて呼び出せるようになったもので、まだアイリス様の腕には遠く及びませんが」


 ちょっとびっくりしたんだけど、この城ってウィンザリアにあった全生産職の職人が揃っているそうな。


 ただ兵士や料理人同様、今はまだ初期状態である30レベル程度の腕前らしいけどね。


「ですが近くにある山脈以外にはそれほど強い魔物はいないようですから、その程度の腕で作る装備でも十分事足りるかと」


 生まれたばかりとはいえNPCたちの強さは私に紐付けされているから、シャルロットのレベルも現在の上限である135。


 それならば多少装備が弱くても、この辺りの魔物に傷付けられるなんてことは無いだろう。


 なにせ30レベル程度のビックボアやブレイヴシープでさえ、討伐難易度Aと言われているくらいなんだから。


「そうね。着替えが何着か必要になるだろうし、頼もうかしら」


「では、そのように伝えておきます」


 詳しいサイズを計らなくてもいいのかなと一瞬考えたけど、裁縫スキルがあるのなら作ったものには自動調整がつくだろうから気にしないことにした。


 それより今は他に気にしないといけないことがある。


「それじゃあ装備の話はまた後にするとして、とりあえずジョブの変更をやってしまおう」


 私はそう言うと、半透明のモニターからNPCのジョブ変更を選択。


 並んでいるNPCたちの名前からシャルロットを選ぶと、現在替えることのできるジョブの一覧が並んだ。


「精霊召喚士を選択っと」


 するとシャルロットの体が一瞬だけ光った。


 これでジョブ変更は終了なんだけど、あらかじめ設定しておけばこの瞬間に装備もそのジョブにあった物に入れ替わるのよね。


 まぁ、そのためにはすべての装備をNPCのストレージに入れて置かないといけないのだけれけど。


 作ったばかりなのだからシャルロットのストレージには当然そんなものが入っているはずもなく、その姿は先ほどまでのメイド服のままだ。


「どう? 精霊は問題なく呼び出せそう?」


「はい。大丈夫のようです」


 ちゃんとジョブチェンジができているようなので、早速精霊を召喚してもらうことにしよう。


 因みにだけど、精霊召喚士はレベルアップによって召喚できるものが増えていく。


 1レベルの時点では下位精霊しか呼び出せなくて、この時点での属性ごとの違いは色だけ。


 そのすべてが光の玉の姿をしているのよね。


 これが20レベルを超えるとシルフなどの中位精霊が順次呼び出せるようになり、50レベルでそのすべてが揃う。


 そして60レベルを超えると今度は上位精霊が加わり始め、90レベルで現在呼び出せるすべての精霊が出揃うの。


 でもこの時点での精霊の強さは下位が15、中位は50、上位は90がレベル上限なのよ。


 それだと100レベルを超えたあたりから他のジョブより弱くなってしまうということで、プレイヤーと同じくレベル限界を突破するクエストが実装されていた。


 今のところ二つのクエストが実装されているので、それをクリアしている私に紐付けられたNPCたちが呼びだせる上位精霊のレベルは125。


 この世界に来てしまった以上、新しい上限突破クエが実装されてももう受けることはできないからこれがNPCたちの呼び出せる最も強い精霊ってわけ。


 閑話休題。


「それじゃあ、ドライアドを召喚してもらえるかしら?」


「解りました」


 シャルロットは頷くと足を肩幅よりも少しだけ開き、手のひらを広げながら両腕を前に突き出した。


「上位精霊召喚、ドライアド」


 そしてそうつぶやくと目の前の床に青白く光る魔法陣が現れ、そこから吹き上がる風に緑色の長い髪をなびかせながら一人の女性が現れる。


 ウィンザリアでは何度も目にしたドライアドだ。


「画面越しと違って、実際にこの目で見る精霊召喚は本当に美しいわね」


 私がそんな感想を漏らしているうちに風はやみ、魔法陣の光も消て、そこには美しい女性の姿をしたドライアドだけが残されていた。

 読んで頂いてありがとうございます。


 2月14日にアース・スター・エンターテイメント様から私のもう一つの作品である転生したけど0レベルの3巻が発売になります。


 そちらもどうぞよろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)

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