34 7人目のNPC
謎の瞬間移動のからくりが解ったところで、本来の目的へ。
「先に作っちゃってもいいけど、とりあえずミルフィーユにだけは話を通しておくか」
城に帰って来た目的は大きく分けて二つ。
一つはぺスパに建てた家に同居するNPCを創造すること。
もう一つは、クラリッサさんにも頼まれている砂糖や樹液シロップの原料である植物を見つけることだ。
このうち、二つ目は精霊召喚士がいないとどうにもならないでしょ。
オランシェットが今そのジョブについてるから呼ぶという手もあるけど、さっき外で聞こえた音からすると多分エクレアと二人で絶賛整地作業中だと思うのよね。
その邪魔をするのも悪いし、どうせもう一人NPCを作るのだから、その子のジョブを精霊召喚士にしようかと思っている。
ただNPCを増やす以上、一人で勝手に作るわけにはいかないのよね。
ゲーム時代と違って、今はミルフィーユに色々と任せてしまっているのだから。
「ミルフィーユが今どこにいるか解る? やっぱり執務室かしら?」
「ミルフィーユさんですか? 少々お待ちください。今確認してみます」
玄関フロア担当のメイドさんはそう言うと、その場で少し黙ってしまった。
見た感じ、何やら考え事をしているようだけど……。
「アイリス様。ミルフィーユさんですが、連絡したところすぐにこちらに来るとのことです」
「連絡?」
「はい。クランチャットで確認を取りました」
ああ、そうか! すっかり忘れてた。
クランチャット、ゲームの頃は普通に日常使いしていたのに現実世界に来たことで頭からすっぽり抜け落ちてしまってたのよね。
しまった。城に帰ってくる前にクランチャットで連絡しておけば、こんな手間をかける必要はなかったのか。
それに気が付いて一人反省していると、
ガチャ
玄関のドアが開いてミルフィーユが入ってきた。
「あれ? 外出していたの?」
「いいえ。転移ポートを使った方が早いので、執務室前に置いたポートから玄関のポートに飛んだのです」
ああ、そう言えば出かける前に転移ポートをいくつかミルフィーユに渡してあったっけ。
実際に城で生活する者に渡しておいた方がうまく活用してくれると思っていたけど、早速設置したのね。
「お帰りなさいませ、アイリス様。出発からまだ一日も経っていませんが、もうお帰りですか?」
「ちょっと用事があってね」
私は手に入った土地が広かったため、当初の予定を変更してMサイズの家を建てたこと。
それに伴い、人手がいるから新たなNPCを創造すること。
そして砂糖の原材料である甜菜やメープルシロップの元となるサトウカエデの樹液に類似したものがないか、ドライアドにしらべてもらいたい旨を伝えた。
「新たなNPCですか? 人手がいるようでしたら、私が参りますが」
「いやいや、ミルフィーユはこの城の管理をしないとダメでしょ」
ミルフィーユはすでに、この城の統括のような仕事をしているもの。
それをぺスパに連れて行ってしまったら、こちらの方が困ってしまうのは目に見えている。
「仕事量から考えて、もしあなたが抜けたらパルミエが過労死するわよ」
「確かにそうですわね」
ミルフィーユが納得してくれたということで、早速新たなNPCの創造に入ることに。
入り口横のパネルを操作すると半透明のモニターが浮かんでメニューが表示されたので、そこからNPC作成を選択。
すると画面が切り替わると同時に、入力用のキーボードが浮かび上がった。
「どのような者を創造なさるのですか?」
「そうだなぁ。私と一緒に生活するのだから、女性であることは確定ね」
男性と同居なんてことになったら、NPCと知らない周りの人たちからどんな噂を立てられるか解らないもの。
この場合、特に男性側がね。
私の見た目って、この世界だと子供にしか見えないそうな。
でも、もう14歳だということはご近所さんにはちゃんと伝えるつもりだもの。
いわゆる合法ロリなんだから、そんなのと同居させられる方はたまったものじゃないだろう。
「身の回りのことを任せるのでしたら、そうした方が良いでしょうね」
私のそんな考えをよそに、ミルフィーユは生活面からその方がいいと賛成してくれた。
うん、そうだよね。こんなよこしまなこと、普通は考えないよね。
こっそり落ち込みながら、他の項目を決めていく。
「条件付けとしては農業都市のはずれという土地柄を考えて、美人タイプより瞳は大きく少し垂れ気味の親しみやすい顔がいいわね。スタイルは中肉中背で、身長は……165センチくらいが妥当かなぁ」
私がそうつぶやきながらキーボードを操っていると、横にいたミルフィユが驚いたような声をあげた。
「165センチ? 親しみやすい者を生み出そうとしておられるのに、そんな長身で大丈夫なのですか?」
「ああ、それにはちゃんとした理由があるのよ」
私はミルフィーユに、この世界の平均身長はウィンザリアよりも10センチほど高いことを伝えた。
「なるほど、それならば女性は165センチくらいが平均的な体形でしょうね」
「うん。私がこの身長だからね。同居する子はこの世界であまり目立たないようにした方がいいと思うのよ」
ゲーム時代は気に入っていたこの容姿だけど、この世界だと悪目立ちしそうだからね。
同居人が普通なら、それも多少は薄まることだろう。
「後は髪と瞳の色かぁ。これは名前しだいよね」
私のNPCたちは、その容姿を名前にちなんでいるものにしているの。
例えばミルフィーユは小麦色に近い金髪だし、ガレット・デロワは王冠をのせたお菓子だからきれいな金髪と言う具合にね。
「そうなると、先に名前を決めないといけないのか」
名前はフランス菓子縛りで考えると、パッと思いつくのはショコラかシャルロットかな。
ショコラだとチョコレートっぽい焦げ茶色の髪でエクレアとかぶるからなぁ。
その点シャルロットはフルーツケーキで、近所にあったお店のはイチゴがメインだったから連想されるのは鮮やかな赤。
これなら今のところ誰ともかぶっていないもの。
同じイチゴを使ったお菓子であるパルミエは、瞳こそ赤だけど髪色は明るい茶髪だからね。
「よし、名前はシャルロットにして、髪色は鮮やかな赤。瞳はパルミエとは逆で茶色にしましょう」
髪の長さはとりあえずロングで。切ることはできても伸ばすことはできないからね。
大体の概要が決まったということで、そのすべてを入力すると画面上に、設定によりモデリングされたNPCが映し出された。
後はこの画面を見ながら微調整すれば完成だ。
「顔はもうちょっと丸っぽい方がいいかな。胸はあまり大きいとじゃまだろうから初期設定のままでも……」
「いけません!」
私がデータをいじっていると、ミルフィーユに怒られてしまった。
「背が高く、スタイルがいいのに胸が小さいままでは可哀そうではありませんか」
「えっ? でも、大きいと肩が凝ったりして大変だよ」
現実の私は、それで結構苦労したのよね。
それに男の人に会うと何より先に視線が胸に行くし。
あれ、気付かないと思ってるのかしら?
そんな訳で私はこのほうがいいんじゃない? と言ったんだけどミルフィーユは許してくれない。
「わたくしはアイリス様に大きく作って頂いたのでいいのですが、エクレアなんて口には出しませんが大きなコンプレックスになっているんですよ!」
ミルフィーユとパルミエ、それにガレット・デロワは私が最初に作ったNPCだ。
だから顔や髪形、それにスタイルなんかをかなり凝って作ったのよね。
そのおかげでミルフィーユの胸部パーツは5人中最大を誇っている。
でもその反動からか単純に同じようなキャラを並べたくなかったからか、その後に作ったエクレアは少々つつましやかなお胸をしてるのよね。
そっか、コンプレックスになっちゃってるのか。
「貧乳はステータスっていう言葉もあるんだけどなぁ」
「何ですか、それは? とにかく、胸の大きさは大事ですから私が設定します」
ミルフィーユはそう言うと、キーボードを操作して胸の大きさや形を入力。
すると画面が変化して設定どおりの姿に変わったんだけど……。
「なによこれ。スイカ? それも大玉?」
「これくらいあれば、誰にもさげすまれることはありませんわ」
いやいや、ミルフィーユさん。これ、あなたよりも大きいじゃない。
「ちょっとやりすぎなんじゃ?」
「いえ、身長に比例すればサイズは私と同じくらいです」
言われてみると確かに、ミルフィーユは154センチだから全体のバランスを考えれば同じくらいなのかも?
ミルフィーユの言葉に納得した私は、これで創造することにした。
「それじゃあ創造するわよ」
作成ボタンを押すと再確認の画面が出て来たから、そこでもYesを選択。
すると私のすぐ横の床に六芒星が中に入った光り輝く魔法陣が現れ、そこから先ほどまでモニターに映っていたのとそっくりの女性が浮かび上がってきた。
そして全体が魔法陣から出た瞬間、光が消えてその女性がゆっくりと目を開ける。
「創造していただき、ありがとうございます。シャルロットと申します。以後よろしくお願いいたします」
にっこり微笑みながら挨拶をするシャルロット。
そしてそれを見た私はというと。
「でかっ!」
思わずどんな言葉が口から出てしまった。
だってしょうがないじゃないか。背もお胸も現物は思っていた以上に大きかったのだから。




