33 錬金術は薬を作るだけじゃない
地下の部屋割りは城を出る前にやっておいたんだけど、設備の設置はしていないのよね。
というのも、転移ポートは設置した場所に飛ぶように設定されるから。
「城の庭にこの家を出したとして、そこで設置してたらどけた後の地中に飛ぶのかしら?」
そしたらまるで某ゲームの『壁の中にいる』状態ね。
そんなたわいもないことを考えながら地下へと移動する。
階段を下りて一番近い場所にある扉は食糧庫。
でもここで使えないみたいだから、開かずの扉になるかも?
そう思いながら扉を開くと、中からひんやりとした空気が流れ出てきた。
「ああ、そうか。食材の自動補給はされないけど食糧庫は全体が大きな冷蔵庫だから、そういう使い方自体はできるのか」
城の食糧庫ほど大きくはないけど七畳半ほどの長方形の食糧庫には棚も設置してあるし、さらにその奥は二畳ほどの冷凍庫になっている。
転移ポートは同じ地下に置くのだから、城から直接ここに運び込んで使う分だけ一階の冷蔵庫に移すようにすれば毎日の食事に困ることは無さそうね。
「そうなると、隣の部屋に転移ポートを設置するのが一番効率がいいかな?」
間違って人が入り込まないようになるべく奥の方に設置しようかと思っていたけど、利便性を考えて食糧庫改め巨大冷蔵庫の隣の部屋に転移ポートを設置。
倉庫のつもりで部屋割りしたから棚以外何もない10畳ほどの広さがある空間、そのど真ん中にポツンと鎮座する転移ポート。
ちょっとシュールな見た目になったけど、そのうち物が増えていくだろうから今はこれでいいだろう。
「後は各種作業ユニットの設置部屋をどこにするかね」
Sサイズの家を使うつもりだったから簡易ユニットしか持ってきてないけど、Mサイズの家なら置く場所はいくらでもある。
ということで、城に戻ったら自販機から買うことにして今は設置する部屋を決めておくことに。
「とは言っても、全部置くわけじゃないからなぁ」
鍛冶に関しては調理器具なんかの修理はするだろうけど、その程度なら簡易ユニットで事足りる。
それに木工や魔道具もそんなに大層なものを作るなんてことは無いだろうから、わざわざ置かなくてもいいだろう。
「後は皮革、錬金、裁縫、料理かぁ」
錬金は当然置くとして、森に入る以上魔物を狩ることがあるだろうから皮革は必要かな?
それに裁縫もここに住むNPCたちの装備を作る可能性を考えるとあった方がいいかも。
「料理は……もう、あれを食べることは無いだろうから要らないね」
ゲーム時代は普通に使っていたバフ料理、その材料を知ってしまった今となっては食べようとはとても思えないもの。
普通の料理なら一階の台所で作れるから、簡易ユニットでさえ無用の長物だ。
「皮をなめしたりする皮革だけは別部屋にするとして、錬金と裁縫は同じ部屋でいいかな」
生産スキルで作るからにおいとかは出ないけど、魔物の皮は大きいからなぁ。
ストレージに入れるとじゃまだから、置く場所がいる皮革は別部屋で。
錬金術も金属の合成とかをすれば場所を取るけどしばらくはするつもりが無いから、裁縫と同じ部屋でいいだろう。
っと、話題が出たということで。
錬金術って各種ポーションを作るだけのゲームが多いけど、ウィンザリアは本来の設定に準じているのよね。
元々鉄などの金属から金を創り出そうという学問であり、薬はその過程で必要だから研究されたと言われているでしょ。
だからウィンザリアの錬金術は合金が作れるのよ。
というか鍛冶で作れるもののうち、高レベル帯の物のほどんどがサブ職にある程度の錬金術が無いと作れなかったりする。
だからこそ他のゲームでは魔法が使えればMPの回復ポーション意外はあまり必要なさそうな錬金術が、ウィンザリアでは独立した生産職に入っているってわけ。
閑話休題。
「作業部屋はこれでいいとして……う~ん、他にも空き部屋がいくつかあるけど、これは新しく来るNPCと話し合って決めるかな」
城と違ってNPCが統括する使用人たちの家を別に建てるわけにはいかないでしょ。
一緒に住むことになるだろうから、その辺りはちゃんと話し合って決めた方がいいだろう。
部屋に置くベッドや収納なんかの手配もしなければいけないしね。
「よし、それじゃあ一度城に帰るか」
帰還魔法で帰ることもできるけどせっかく設置したんだし、ちゃんと起動するかを確かめるために転移ポートで帰ることに。
「転移先は……城の入り口でいいか」
転移ポートに触れると飛べる先がいくつか表示されたので、その中から城の入口に置いた転移ポートを選択。
すると目の前の風景がゆら~とぼやけて行き、次の瞬間見慣れたキャッスル・オブ・フェアリーガーデンの入口へと変わっていた。
それと同時に、遠くから聞こえてくるメキメキメキという轟音。
一瞬何事が起きたのかと身構えたんだけど……。
「ああ、そう言えば城の周りの木をゴーレムで倒すと言っていたわね」
多分あの音は、その作業によるものだろう。
音の正体に思い至ったので気にするのはやめて、私は目の前のドアを開けて城の中へと入っていった。
「お帰りなさいませ、アイリス様」
「うぉっ!」
するといきなり声を掛けられてびっくり。
慌てて声のする方を見てみると、そこには一人のメイドさんの姿が。
「びっくりした。いつもここにいるの?」
「はい。私はこの玄関フロアを担当しております」
これ、私が城を出た後にミルフィーユが決めたことらしいんだけど、城の色々なところに担当のメイドさんたちを配置したそうなのよ。
というのも私が転移ポートをいろいろなところに設置したものだから、どこに現れてもすぐに対応できるようにと考えたかららしい。
「それじゃあ、あなたは一日中ここに立っているの?」
「いえ。普段はフロアの掃除などをしております。今もあちらのドアノブを磨いておりましたが、玄関のドアが開く気配がしたのでこちらへと参りました」
そう言って玄関フロアの隅にあるドアを指さすメイドさん。
それがちょっと離れた場所だったものだから、えっ、瞬間移動でもしたの? と思ったけど、すぐに間違いに気が付いた。
「ああ、そう言えばこの城の子たちって初めから30レベルくらいの設定だっけ」
離れていると言っても高々数メートル、その程度ならドアが開くまでの間に移動して私に挨拶するくらいはできるだろうね。




