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28 もしかしたら見つかるかも?

「なによ、これ? どちらも蜂蜜のようなつんときつい所がまるでない、すっきりとした甘味じゃない!」


「ああ、そう言えば蜂蜜は一種独特な癖があるものね」


 私は好きだけど、蜂蜜独特の風味があまり好きではないという人の話は聞いたことがある。


 そういう人がいる部署へのおみやげは、例え評判がいいお菓子でも買っていかないようにしていたのよねぇ。


 少々現実逃避気味にそんなことを考えていたんだけど、クラリッサさんによって無理やり現実に引き戻される。


「アイリスさんの国には、こんなものが作れる植物があるの? それって手に入る?」


「ちょっと無理かな」


 ウィンザリアには自分の庭に畑を設置して作物を育てるという遊びも実装されてはいた。


 でも流石にサトウキビや甜菜のような普通の料理に使わない植物の種は売っていなかったし、サトウカエデのような木の苗にいたっては存在すらしていない。


 だから手に入れられるかと問われれば、答えはNoだ。


「それじゃあ、この甘味を手に入れることはできないの?」


「できないこともないけど……」


 私がそう答えると、クラリッサさんはすごい勢いで身を乗り出してきた。


「入手する方法があるのね?」


「えっと、うちの城……じゃなかった、家の庭にサトウカエデの木が何本かあるし、砂糖もそれから作ることができたような?」


 むろん嘘である。


 自販機から買えるから、手に入るというのはホントだけどね。


「手に入るなら、是非とも取引をして欲しいわ。蜂蜜も巣がめったに見つからないからかなり高価だけど、この二つはそれ以上の甘味調味料ですもの」


 なんと、この世界では養蜂も行われていないらしい。


 それじゃあいくらお金持ちでも、お茶うけにと軽い気持ちで甘いお菓子を食べたりできない訳だ。


 う~ん、ますます戦国時代のような国ね。


 今に野に咲く花の蜜を吸ったり、甘い草の汁をお椀いっぱい集めて飲んでみたいとか言いだしそう。


 まぁそれは冗談として、取引かぁ。


 城に帰ればいくらでも自販機から買えはするけど、どうしたものか。


 原材料が提示できないものを大量に持ち込んだら、やっぱり怪しいと勘繰る人も出てくるよね。


「取引できるかどうかはちょっと解らないけど、そんなに欲しいならそれはあげるわよ」


 とりあえずそう言ってごまかしてみたんだけど、そしたら思った以上の効果を発揮した。


「えっ、いいの? 後で返せと言っても返さないわよ」


 もう誰にも渡さないとばかりに、砂糖とメイプルシロップが入った陶器のうつわを抱え込むクラリッサさん。


 私からすると、その何倍もの量がストレージに入ってるから返せなんて絶対言わないけどね。


 ただ、お金持ちであろうクラリッサさんでさえここまで執着するのだから、やはり砂糖などの甘味に関しては少々取り扱いに気を付けなければいけないだろう。


 場合によっては、砂糖欲しさに襲ってくるなんてバカが沸きそうだし。


 いや、まてよ。


 甜菜から砂糖が作れると解ったのも、確かドイツの科学者が飼料として使われていた根から砂糖を抽出できることを発見したからよね。


 甜菜って葉っぱは食べられていたけど、根の部分は食用と思われていなかったはず。


 ならそれと同じように、この国ではまずいからと誰も食べないものの中に砂糖を抽出できる植物があってもおかしくないんじゃないかな?


「もしかしたら、ここでも砂糖や樹液シロップが作れるようになるかも?」


「えっ、それってどういうこと?」


 考えていたことがつい声に出てしまったのか、即座に食いつくクラリッサさん。


 その勢いに苦笑しながら、私は思いついたことを話した。


「植物に詳しい人が知り合いにいるのよ。もしかするとその人に聞けば、この国に自生している植物の中にも砂糖がとれる野菜やシロップになる樹液がとれる木があるかどうか解るかもと思って」


「そんな人がいるの? それならぜひともお願いするわ。費用が必要なら私が出すから」


「ああ、お金は必要ないわよ。その人も改めて各地を回って文献を調べる訳じゃないだろうから。それにあるかどうかを聞くだけで、現物を探す費用が掛かるってわけでもないしね」


 実際、お金なんて必要が無いと言うか、あっても意味が無いんだよね。


 だって私が聞こうと思っている相手は精霊だもの。


 ゲーム時代と違って、現実であるこの世界では精霊に色々なことが頼めるようになっているの。


 私が城にいたころでも風の中位精霊シルフに広範囲の地形を調べて貰ったり、土の上位精霊ベヒモスに切り株の除去や整地をしてもらっていたわよね。


 それなら植物の上位精霊であるドライアドに聞けば、甜菜のような砂糖がとれる野菜やサトウカエデのようなシロップになる樹液が取れる木がこの近くに自生してないか聞けるんじゃないかな?


 幸い私のNPC、オランシェットが今精霊召喚士になってるでしょ。


 だからクランチャットで頼めば、すぐにドライアドを呼び出して聞いてもらえるんじゃないかって思ったのよ。


「家の者に連絡手段を持たされているから、聞いてもらえるように頼んでみるわ。でもあくまで聞くだけだから、見つからなかったからと言って怒らないでね」


「別にあなたのせいで見つからない訳じゃないから、さすがに怒らないわよ」


 できたら見つかって欲しいとは思っているけどねと、少々夢見がちな顔で笑みを浮かべるクラリッサさん。


 これに関しては、私もなるべく見つかって欲しいなぁと思っている。


 お菓子は友達とたわいもないおしゃべりをしながらの食べる方が絶対おいしいもの。


 私しか手に入れられないとなれば、いくら簡単に手に入ると言っても砂糖やメープルシロップを使ったお菓子を出されたら恐縮するでしょ。


 縮こまったり感謝されながら食べたっておいしくないから、ドライアドには何としても見つけてもらわないとね。


 読んで頂いてありがとうございます。


挿絵(By みてみん)


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