25 無難だと思ったものが実は特殊だったとは
少々強引ではあったものの、私は誘われるまま馬車へ乗り込み街を目指すことに。
正直フライングソードの方がはるかに速いけど旅は道連れともいうしね。
「自己紹介がまだだったわね。私の名はクラリッサ・ウォルトンよ」
薬屋のお嬢様改め、クラリッサさんはウォルトン商会というポーションを扱う商会の会頭の娘さんらしい。
16歳になって成人したということで、この先にある街、ガイゼルの支部長になるために向かっている途中だそうな。
「それで、あなたのお名前は?」
「私? 私はアイリス・フェアリーガーデン。さっきも話した通り錬金術師よ。まぁ、この国じゃそう名乗れないっぽいけど」
苦笑しながら答えると、クラリッサさんはちょっと驚くような質問をしてきたのよ。
「それで、種族は何なの? 耳は普通だからエルフじゃないだろうし、ハーフリングにしては体のバランスが人間ぽいからそのどちらでも無いんでしょ」
「はあ~?」
イヤイヤ、どう見ても人間でしょ。
何を言ってるのよって私はあきれ顔で答えたんだけど、クラリッサさんはあまり信じてくれていない様子。
だから、なぜそう思うのか聞いてみたのよ。
「私のどこが異種族に見えるのよ?」
「確かに人間に見えるわよ。でも、年齢と力量がどう考えても合わないもの」
銀狼を倒した力も錬金術師としての腕も、私の見た目通りの年齢ではありえないものらしい。
う~ん、確かに14歳でこれはちょっとおかしいよね。
私自身がそう思うくらいだからなぁと苦笑していると、クラリッサさんから特大の爆弾が落とされた。
「あなたの見た目、人間で言うと8歳くらいよ。そんな幼子が、あれほどの実力を持っているはずないもの」
「8歳っ!?」
あまりのことに言葉が出てこない私。
それをいいことに、言葉の爆弾はさらに投下された。
「それに、その髪色。エルフではよく見かけるけど、人間では見かけないもの。だから異種族だと考えたのよ」
「この髪も変なの!?」
言われて気が付いたけど、クラリッサさんの髪色はピンクだ。
この頃は日本でもよく見る色だったから、違和感なさ過ぎて気が付かなかった。
それに護衛の冒険者さんだって、私と話していたお姉さんは赤毛だったし、ケガをしていた人も明るいオレンジだったもの。
そのどちらも、外国では珍しくもない髪色なのよね。
でも改めて注目してみると、外を歩いている後ふたりの冒険者さんの髪色、水色と濃い緑だ。
なんと言うか流石異世界、まるでアニメの世界に迷い込んだよう。
「それで、本当はどんな種族なの? まさかドラゴンが人に化けているわけじゃないわよね?」
「そんな訳、無いでしょ。普通の人間です」
私は14歳で、この髪色も自分の国ではそれほど珍しいものではないと教えたのよ。
するとクラリッサさんは驚きの表情。
「14歳? 噓でしょ。だってその顔や身長……まさか、何かの病気で成長が止まったとか?」
「違うわ!」
クラリッサさんを始めて見た時、長身のお嬢様だなぁと思ったのよ。
でも話を聞いてみると、それでもこの国の女性の平均と比べて少し低いくらいらしい。
ぱっと見160センチを超えているクラリッサさんの背が低めなら、140センチしかない私が幼子と言われてもおかしくはないのかもしれない。
「それに、その顔。どう考えても14歳にしては幼すぎるわよ」
「顔かぁ。言われて見れば確かに、外国の人からは幼く見えるのかもなぁ」
アイリスの顔は私がやっていたゲーム、ウィンザリアのキャラメイクの中でも特にかわいく作ってあるのよ。
だから少々幼くは見えるけど、それでも14歳だと言われれば納得できる造りになっている。
でも、それはあくまで日本人から見ての話なのよね。
外国人からは日本のアニメキャラは設定年齢より幼く見えるという話を聞いたことがあるもの。
多分クラリッサさんからも、同じように見えているのだろう。
「私の国の人って、他の国の人からすると幼く見えるらしいの。でも、本当に14歳なのよ」
「本当なの? それはちょっと、うらやましいかも」
まだ少し疑っているような表情ではあるものの、とりあえずは納得してくれたみたい。
ただ、それでも私の実力はちょっとおかしいそうな。
「14歳であのポーションを作れるのは、ちょっと凄すぎない?」
「それは、先人の残してくれたレシピが偉大だっただけよ。きちんと材料をそろえて基本通りの手順で作れば、誰でも作れるようになるんじゃないかな?」
実際、粗悪な材料を使っても一応効果の出るポーションが作れているんだもの。
きちんと手順を踏めば、この世界の錬金術師でも同じものは作れるはず。
そう話すとクラリッサさんは、そんなものかなぁと一応納得してくれた。
それから馬車に揺られること3時間ほど経った頃、御者台側の小窓が開いた。
「お嬢様、ガイゼルが見えてまいりました」
どうやらあの小窓は、御者さんと話をするための物だったらしい。
その声を聞いて興味を引かれた私は、馬車の窓を開けて外を見てみたんだ。
するとそこは丘の上のようで、顔を少し出して前を見ると確かに集落らしきものが見えた。
でもあれってっ……。
「クラリッサさん、ガイゼルって農村なの?」
そこから見えたのは、麦畑や質素な家が並ぶ田園風景。
確かに建っている家は多いんだけど、畑も多くてとても街とは思えない景色が広がっていたのよ。
「いや、規模からしたら農業都市って言えるのなのかな? でも、私が思っていたのとはちょっと違うかも?」
でも家や畑はかなり広い範囲に広がっているようで、人口はかなりあるっぽい。
だから都市と言えないこともないのかなぁなんて思ってたら、クラリッサさんに呆れられてしまった。
「違うわよ。私たちが目指しているのはその先。御者もさっき、目的地が見えてきたと言っていたでしょ」
言われてみれば確かに、私の言う田園風景はこの丘を降りてすぐの場所にある。
ならば目的地が見えてきましたという表現はおかしいだろう。
「アイリスさんが勘違いしたのはガイゼルの手前にある街、農業都市ぺスパよ」
私が見ていたのはどうやら目的の街ではなく、その手前にある農業が盛んなところだったみたい。
因みにこのぺスパって街、横にかなり広いらしくて人口自体はガイゼルとあまり変わらないそうな。
「家が点在しているから、一見するとそうは見えないでしょうけどね。でも麦や各種野菜の生産、それに畜産までやっているとても大きな街なのよ」
「なるほど。あそこが近隣の街の食を支えているのね」
そんな話をしながら、もう一度馬車の窓から顔を出して先を見てみる。
なるほど、よく見てみるとその集落の先、大きな川を越えた向こうに街らしきものが見えた。
そうか、あっちが目的地のガイゼルなのね。




