23 材料が悪ければ、そりゃあ失敗作になるよ
私はバカか。
普通品質をハイクオリティー品と勘違いするような人たちに中級品を見せるなんて、どう考えても騒ぎになるに決まってるじゃない。
そんな絶賛後悔中の私に、さらなる追い打ちが。
「これ、軽度の部位欠損なら回復すると出ているわ」
「えっ、それじゃあハイポージョンのハイクオリティー品と同等ということですか?」
待て待て待て、流石にそれは無い。
そもそもノーマルポーションとハイポーションとでは、回復量が違う。
だからこの世界基準で私が作ったものが規格外だとしても、そのふたつを同じものというのは無理がありすぎるんだ。
そしてどうやらその認識はお嬢様も同じだったようで。
「いえ、回復量はノーマルポーションよりは多いですが、ハイポーションには届きません。ですが、これも指を飛ばした程度の部位欠損なら治ると出ているのよ」
うん、それなら解る気がする。
だって普通等級のポーションでも、ストーンバレットで撃たれた程度のケガなら治るもの。
当たった場所や状態にもよるだろうけど、体に当たって穴が開いた内臓をいくつか治すよりも指の欠損を修復する方が間違いなく簡単だろう。
そんなことを考えている私をよそに、お嬢様と護衛のお姉さんは中級品のビンを見ながら話を続けていた。
「それにしても、すごい効き目のポーションですね」
「ええ。私でもこれほどの品は初めて見るわ」
そう言って感心しているお嬢様。
それを見ていた私は、ちょっとした違和感を感じたのよ。
「あれ? ちょっとおかしくない?」
「おかしい? 何がですか」
「だってそれ、この近くで採れる薬草で作ったものよ。さっきそこのお姉さんが、仲間の血をとめるために譲って欲しいと言ったくらいだから、別に珍しい薬草というわけじゃないのよね?」
そう言ってお姉さんを見ると、黙ってうなずいている。
ってことは、特殊な薬草を使って作ったわけではないってことでしょ。
なら、このポーションが特殊というのはやっぱりおかしいと思う。
「私はさっきの薬草と水を使ってそのポーションを作ったの。特殊な材料を使ったわけじゃないんだから、特別なポーションができるなんて変じゃない」
「でも、実際に特別なものが私たちの前にあるのだから仕方が無いでしょう。いいわ。現物を見れば、あなたも納得するでしょう」
お嬢様はそう言うと、一人馬車の元へ。
そこにいたメイドさんに何か言うと、渡された箱を持って私たちの元へと帰って来た。
「はい。これは私たちがポーションと呼んでいるものよ。あなたのものと見比べてみるといいわ」
その箱の中身はノーマルポーションらしい。
お嬢様はそれを箱から取り出すと、私に渡してくれた。
「色からすると、確かにノーマルポーションみたいね」
色は青だから、ノーマルポーションに間違いないのだろう。
ただ、ちょっとくすんでいるように見えるのよね。
それが気になった私は、その薬品にしらべるをかけてみた。
ポーション:作製失敗品
劣化した薬草と不純物を多く含んだ水を使ったため、作製に失敗したポーション。
本来は作製時に破棄される。
「………」
まぢか。これをポーションといって売っているの?
あまりのことに頭が痛くなった私は、額に手を当てて天を仰ぐ。
「これって、失敗作じゃないの!」
「失敗って。さっきも言ったけど、これは私の店で扱っている、れっきとした正規品よ」
話を聞いてみると、どうやらこのお嬢様は薬屋を営んでいる商会の娘さんらしい。
このポーションはその商会お抱えの錬金術師が作ったもので、実際に店頭で売られているそうな。
「これ一本で、銀貨50枚はするのよ。それを失敗作って」
「価値がどれくらいなのかは知らないけど、ちゃんとした材料を使ってないから本来の性能が出せていないじゃない」
「ちゃんとした材料?」
私の主張を聞いて、首をかしげるお嬢様。
もしかして使った材料の品質が、できあがるポーションに大きな影響を与えることを知らないの?
「えっと……一つ聞くけど、このポーションってどんな材料で作っているの?」
「普通よ。冒険者ギルドに依頼した薬草を仕入れて、それと井戸水とを使って作っているわ」
これを聞いた瞬間、私はすべてを悟った。
なるほど、劣化した薬草と不純物を含んだ水と出るわけだ。
「それじゃあダメよ」
私のレシピだと使用するのは蒸留水、または湧水や清流からとれる清らかな水だ。
魔力から作られているうちの城の水道水でさえダメなのだから、多くの不純物を含み、長い間その場にとどまっている井戸水を使っていては成功するはずがない。
それに薬草にも大きな問題がある。
私の場合は時間経過での劣化が起こらないストレージに入れて持ち歩いているから、採取からいくら時間が経っても問題はない。
でも冒険者が森に入って採取し、それをギルドに納品。
そして一定数溜まってから錬金術師に下ろすという流れでは劣化するのも当然だろう。
「少なくとも自分で薬草を採りに行くか、採取したその日のうちに受け取った薬草を使わないと。それに井戸水を使うなんて問題外。湧水や森の中のきれいな水を使わないからこんな濁った色になるのよ」
「えっ? でも、そんな材料を使える錬金術師なんていないわよ」
「何を言ってるの? 目の前にいるじゃない」
右手の親指で自分を指さす私と、それを聞いてあっけにとられたような顔をするお嬢様。
「えっ、錬金術師?」
彼女はそう言うと、私と少し離れたところに転がっている銀狼を交互に見比べている。
それを見た私は、またこのくだり? って一瞬うんざりしたんだけど、次の瞬間納得してしまった。
「ああ、なるほど。さっきの会話、馬車の中にいたら聞こえるはずないよね」
ポーションについては、そこのお姉さんが大声で叫んだから聞こえたかもしれない。
でも私が言った通りすがりの錬金術師というのまでは、流石に聞こえなかったのだろう。
「私が狼を蹴飛ばしたところだけは見えてたってところかな?」
「ええ。だからあなたのことを、てっきり凄腕の冒険者だと思っていたのよ」
先ほどのポーションも、私がどこかしらで調達したものだと思っていたそうな。
しかし私が錬金術師であると名乗ったことにより、お嬢様の顔つきが変わる。
「では、先ほどのポーションはあなたが作ったものだというのね。それならばランクタグを見せてもらえないかしら」
「ランクタグ? なによそれ」
聞きなれない言葉に、私は首を傾げた。
するとそれを見たお嬢様も、同じように首をかしげる。
「錬金術師のランクを示すタグよ、当然持ち歩いているんでしょ」
「持ってないわよ、そんなの」
「ええっ~~~!」
森に響くお嬢様の声。
う~ん、ランクタグとやらはこの世界の錬金術師にとって、どうやら常識の範疇に入るものだったみたいね。