21 出発とお約束の展開
次の日、天気は快晴でまさに出発日よりだった。
「昨日も申し上げましたが、何かあればすぐにクランチャットで連絡をしてくださいね」
「解ってるわよ。それにこの城に帰るだけなら帰還魔法で一瞬なんだから、そんなに心配する必要はないでしょ」
自分で冒険に出ないのかなんて聞いてきたのに、ミルフィーユはまるでお母さんかのように心配している。
まぁ、それは解らないでもないんだけどね。
「アイリス様、やはり護衛として誰かを一緒に連れて行った方がよろしいのではないですか?」
「だから、大丈夫って。ミルフィーユは心配性だなぁ」
ウィンザリアでは、街の外に出る時は必ずNPCを連れて4人のパーティーで動いていたもの。
それなのに私一人で出かけるというのだから、ミルフィーユが心配するのは当たり前よね。
でもゲーム時代と違ってNPCたちにも意思があるでしょ。
私としては自由に動き回りたいから勝手な行動をするだろうし、そのたびに振り回されるのはちょっと可哀そうだもの。
だからある程度腰を落ち着けられる場所が見つかるまでは、私一人で行動しようと決めたの。
「ほら、ミルフィーユには仕事があるんでしょ。私の見送りはもういいから」
「そうはまいりません。無事出発を見届けるまでは、いつものようにこの場所でお見送りいたします」
そう言えばこの城がクランエリアにあったころは、この場所がミルフィーユの定位置だったものね。
「わかったわ。それじゃあ行ってきます」
「お気を付けて」
ぺこりと頭を下げるミルフィーユに軽く手を振ると、私はフライングソードを出して出発した。
「まさか、物見の塔にこんな利点があったなんてねぇ」
フライングソードって、走っているときは自動で障害物をよけてくれるでしょ。
出発してしばらくしたころ、私はそれをいいことにフライングソードを走らせたままステータスの地図を開いてあらかじめ頭に入れていた周辺地図と見比べようとしたのよ。
そしたらびっくり、なんと地図に記載されているエリアが大きく広がっていたのよね。
だから一度立ち止まって、なぜ急に地図の記載が広がったのかを考えたの。
そこで思い立ったのが、先日登った城の塔。
「湖方向と山脈方向だけが広がっているってことは、高い所から周りの景色を見ることでも地図の記載範囲は広がるってことなんでしょうね」
う~ん、こんなことならぐるっと全方位を見ておくべきだったわ。
森なんて見ても面白くないからと、正面の扉から出てそこから動かず湖と山脈の方だけしか見なかったのが間違いだったのよ。
だって湖はとても大きかったからその先はよく見えなかったし、山脈はそれそのものがじゃまだからその先は見えないもの。
せっかく地図が広がったのに、役に立ちそうな場所が一つもなく範囲もとても狭いのだからそりゃあがっかりするわよね。
「でもまぁ、この事実に気付けただけでも儲けものか」
目的の街に高い塔があれば、それを登ることで周辺の地図が手に入るってことですもの。
知らなければわざわざそんなことはしないだろうから、気付けたことがラッキーだったと考えることにした。
せっかく立ち止まったのだからと、ちょっと休憩。
周りにちらほら見える採取ポイントから薬草などを採取しつつ、羊皮紙とステータスの地図を見比べる。
「このままもうちょっと行くと、街道に近づくのか」
自分の目で見ていないからか、それとも人工的な道は記載されないのか。
ステータスの地図には街道の表記が無いんだけど、ミルフィーユがくれた地図にはこの近くに街道が走っていると描かれていた。
どうやらこのまままっすぐ進むと、その街道にもうすぐぶつかるみたいなのよ。
「フライングソードに乗って街道を行くのは流石にまずいわよね。通りがかった人に、あれは何だと騒がれても困るし。あっ、でも道の近くなら魔物も少ないだろうから並走するように進もうかな」
街道は多分目的地の街、ガイゼルに続いていると思う。
ならそれに沿っていくのもいいだろうと考え、羊皮紙をストレージにしまうとフライングソードに乗って出発した。
そうして進むこと数分、もうすぐ街道に近づくなぁと思ったところで地図に反応が。
「えっと、これもテンプレってやつ? 異世界転移したら襲われてる馬車に行きあたるっていう」
ストレージの地図についている便利機能で解ったんだけど、この先で小集団が魔物に襲われている模様。
その上襲っている魔物の数がちょっと多い。なんと20匹くらいいるのよ。
「流石に素通りって訳にはいかないわよね」
私が行かなくても、無事切り抜けられるかもしれない。
でも、行かなかったためにしばらくして地図を見たら誰もいなくなっていたなんてことになったら目も当てられないでしょ。
そんな訳で、そのままフライングソードを飛ばして現地へ急行。
「あそこね」
初めから気持ちを戦闘モードに切り替えていたからか、身体能力の引き上げが起こっていてかなり手前から戦っている姿が確認できた。
どうやらこの体、通常時と戦闘中ではスペックが大きく変わるみたい。
それも相手が強いほど、本来のレベル通りの力が引き出されるようなの。
通常時でも体力や防御力はあまり変わらないんだけど、戦闘モードになると視力や腕力、反応速度なんかが大きく上がり、模擬戦でNPCたちと戦った時なんか何と思考加速まで起こったのよ。
ホント、ゲームみたいな体よね。
閑話休題。
まだ木の間からチラチラとだけ見える戦場に目を向ける。
その様子からすると、かなり苦戦しているようね。
「やっぱり素通りしなくてよかったわ」
地図をちらっと見て一番強そうな魔物を確認、どうやら銀色の大きな狼型の魔物が群れを率いているみたいね。
それならばと、その銀色の狼に向けて突貫!
戦場の手前で大きくジャンプすると、空中でフライングソードを収納。
そのままエアウォークのように空中を翔けながら体勢を整え、銀色の狼の顔にキックをお見舞いする。
ズシャー。
そのままの勢いで地を滑りながら着地する私と、断末魔の鳴き声さえ発することなく吹っ飛ぶ銀狼。
その突然の登場に驚き戸惑う狼たちと護衛の冒険者らしき人たち。
あまりのことに思考が追い付いていないのか、皆こちらを見て固まっている。
なに、私に注目が集まっているだとっ!?
いくつもの視線を集めたことで、ついオタクのサガと出来心がムクムクと。
直立状態で右腕をあげながら親指で自分を指さした後、
「私、見参!」
そう叫んで軽く腰を落とし、そのまま手を広げてどこかで見たようなポーズを決める私。
さらに静まり返る戦場。
……これは、やってしまったかもしれない。