18 髪型や髪色って、結構簡単に変えられるのよね
スローライフは断念したけど、城でもやれることは多い。
生産系でもまだ作っていないものはいくつかあるし、スキルの検証もまだ済んでいないものが多いもの。
「よし、がんばるぞ!」
そう、この時は確かにそう思っていたのよ。
でもね、
「アイリス様、いつまで城にこもっているおつもりですか?」
数日間城の中でいろいろな検証を行っていたら、ミルフィーユからこんなことを言われてしまった。
「この城がクランエリアにあった頃は、数日お帰りにならないことも多かったではないですか。新たなエリアが発見されたときなどは特に」
そう言われてみると、こんなに長い間城にいたことなどゲーム時代はなかったよね。
そして何より新エリアが解放されたのに、そこに向かわないなんていうことはゲーム時代ではあり得なかった。
「よくよく考えてみると、確かに異世界の町並みには興味があるかも」
それにいつまでもダラダラしていたら、不健康だからとミルフィーユたちがやっている仕事を手伝わされかねないし。
ミルフィーユの机に積まれた書類を思い出し、身震いする私。
「そうだ。未知なる世界、それを探索せずして何が冒険者か!」
「それでこそ、アイリス様ですわ」
私は声高らかと宣言し、このぬるま湯のような城を出て冒険の旅に出ることにしたんだ。
でもここで一つ懸念が。
「私、フードのお爺ちゃんたちから逃げてる身なのよね」
最大の問題は、私をこの世界に顕現させたあのお爺ちゃんたちだ。
なんか数百年分の魔力を全部使ったとか言っていたから、逃げた私のことをあきらめるとは思えないのよね。
実力的には私の方がはるかに上だから、見つかっても捕まるなんてことは無いと思うよ。
でも、そうなったら戦わないといけなくなるわけで……。
「人との戦闘は、なるべく避けたいなぁ」
眠らせて逃げるという方法もあるけど、見つかるたびにそれでは対策されるかもしれない。
何より、そのたびに居場所を変えるのも面倒だ。
「流石に、このまま何も考えずに出かけるのはまずいか」
何かいい考えがないかと少しの間悩む私。
すると、不意に思い立ったんだ。
「そうだ! あのお爺ちゃんたちが自分の足で私を探すとは思えないし、見た目を変えるだけでも追っ手をごまかせるんじゃないかな」
あのお爺ちゃんたち、結構偉そうだったから私を探すとしても人を使うと思う。
ならば少し外見をいじるだけでも、見つかる可能性はぐっと下がるんじゃないかしら。
「うん。ここはあれの出番ね」
そう言いながら、私は自室の隅に置かれた三面鏡ドレッサーの元へ。
その前に置かれた円筒形の椅子に座ると、そのドレッサーに魔力を通して起動させたんだ。
そう、これって実は魔道具なのよ。
「とりあえず髪型と髪色、それに目の色を変えておけば大丈夫かな?」
この魔道具の名前は見た目の通りドレッサーと言って、ゲーム時代は気軽に自キャラの容姿を変えることができたアイテムなの。
とは言っても顔や背丈、体形なんかを変えることはできないよ。
できることといえば髪型や髪色の変更、それと目の色や唇の色を変えたりすることくらいね。
でも私の特徴を聞かされて探している人達からすれば、髪型や髪色だけならともかく、目の色まで変わっていたら探しようがないもの。
このドレッサーは今の私にとって、最高の魔道具と言えるんじゃないかな。
「さてさて、どんな感じにしようかなっと」
ちなみに今の私はというと薄めの蛍光グリーンの髪に濃い緑の瞳と、まさにゲームキャラっていう感じの見た目。
髪型は首のあたりまでの長さで毛先が外っ側にはねている、いわゆる外はねくびれショートってやつね。
だからストレートのロングとかにしたらかなり印象が変わるんじゃないかなぁ。
「でも、あんまり長いと手入れが大変なのよね」
ってことで、髪型は肩甲骨くらいまでのストレート、髪色はそうだなぁ。
「ピンクとかにしてみたいけど、流石に悪目立ちするかな?」
印象はかなり変わるけど、目立つというのはやはりリスクが大きいよね。
ってことで、無難に薄いプラチナブロンドにした。
これならきれいだし、それほど珍しい髪色でもないしね。
それに髪型もただストレートなだけじゃなく、前髪を作ったうえでその端から耳の前を通すように髪を数本、少し内巻きで顎のあたりまでの長さで一筋ずつ垂らした。
「あと変えられるのは瞳と唇だけど、唇はヘタにいじらない方がいいよね」
真っ赤とか紫がかってるのとか、ちょっと病的でいやだからなぁ。
ってことで唇は薄いピンクのまま、変えるのは瞳の色だけってことで。
「無難なところは茶色や青なんだろうけど、流石にそれは没個性すぎな気がするし」
ちょっと悩んだ結果、青っぽい紫にすることに。
これなら現実にいないこともないし、それほど違和感を持たれることもないだろう。
それに、アイリスの花といえばこの色だしね。
ということでこの状態で決定ボタンをクリックすると、ドレッサーから光があふれて来て私を包み込んだ。
「髪が伸びていくのが解る。そっか、現実に使うとこんな感じなのね」
魔力の光が消えると、鏡の向こうには先ほど設定した姿になった私が。
サラサラなプラチナブロンドの髪が可愛らしい顔と相まって、まるでハリウッド映画に出てくる美少女のよう。
「この中身が私っていうのが、ちょっと違和感があるわね」
見た目が素晴らしいだけに、現実の自分との違いがなんとも……。
でもさっきまでの私とはまるで違う見た目になることはできた。
これなら、特徴を聞かされただけの追手が私に気付くことはないでしょうね。
「これで懸念材料は潰せた。後は外出する準備をしなきゃ」
新しい髪色にした時、心が弾むのは現実の姿でも今の姿でも同じ。
私はウキウキした気分のまま、何を持って行こうかなぁと思案に暮れるのだった。