16 素材分解
「やってみたら簡単に狩れたけど、これどうしよう」
目の前に横たわる二匹&氷漬けのブレイヴシープ。
私は解体なんてできないけど、せっかく狩ったものを放置するのもなんだしなぁ。
「何より、おいしいって出てるんだよね、これ」
さっき調べてみたところ、ブレイヴシープは魔物だけどかなりおいしいらしい。
いや、もしかしたら普通の動物よりも魔物の方がおいしいのかも?
そういうラノベ、結構あるもんなぁ。
「とりあえず持って帰って、ミルフィーユに相談するかな」
城には料理人もいるみたいだし、案外簡単に解体してくれるかも? そう思ってストレージに入れたんだけど。
素材分解しますか? Yes/No
目の前に見慣れたスクリーンが現れて、そこにはこんな文字が浮かんでいた。
素材分解? またよく解らない言葉が出て来たよ。
例のごとく、素材分解という文字の色が違っていたからぽちっと。
すると説明文が出て来たからう読んでみたところ、倒した魔物を魔力に変換してウィンザリアの通貨であるGとドロップアイテムに分解できるらしい。
「ゲームか!」
いや、実際に現実をゲームの設定に当てはめた結果なんだろうなぁこれ。
ただ私の存在はともかく、ここは現実な訳で。
この素材分解とやらはゲームの設定通りのものだけでなく、この世界に沿ったやり方が選択できる機能まで備わったとても便利なスキルだった模様。
「オプションで、普通の解体も選べるのか」
ふむふむ、どうやらストレージに入れた魔物の素材を各部位ごとに自動で解体することもできるらしい。
てなわけで解体を選択して選択画面に戻ると、文字が素材分解しますか? から、解体しますか? に変わっていた。
「当然Yesっと」
選択するとすぐに魔物は解体され、各部位がストレージの項目に並ぶ。
ただ、ものがものだけに、その中には素材にならない部位も当然含まれている訳で。
不要部位を魔力に分解しますか? Yes/No
「生き物なんだから、当然そういう部位もあるよね」
そう思いながらYesを選択すると、
3Gを得た。
こんなログが。
「大きな魔物だったからなぁ。必要ないところもそれだけ多いのか」
ブレイヴシープは素材分解を選んだとしても、数個のアイテムと300Gちょっとのお金にしかならないみたいなのよ。
それなのに使える部位を素材として全部除いても、これだけもらえるというのは巨体だからこそだろう。
なんにしても、臨時収入には変わりないよね。
たった3Gで買えるものなど自販機の中には無いけど、そんな小銭が手に入っただけでちょっとした幸せを感じる私は小市民。
ほくほく顔で城に帰るのだった。
「骨とかはあまり使い道がなさそうだけど、流石は羊の魔物。羊毛が思った以上に高性能ね」
持ち帰ったブレイヴシープの素材なんだけど、角や歯、それに大腿骨は使えないことは無いものの私の装備にするにはちょっと柔らかすぎた。
でもその分、羊毛が素晴らしいのよ。
羊毛自体に耐寒と防刃が付いているし、色も薄いクリーム色だから染色も簡単。
それに体が大きかったから、一匹からだけでも装備がいくつか作れそうなほどとれたのよね。
「この城の周り、夜になるとちょっと冷えるからこれで服を作ってみるかな」
まだ来たばかりだからこの世界の気候は解らないけど、今の気温を日本に当てはめると春の初めか秋の終わりごろって感じかな。
森が近くて湿度が少し高いおかげで昼間は肌寒いって感じはないけど、夜になると流石に気温は落ちてくるわけで。
「これから夏に向かって行くならいいけど、冬になるようなら防寒具は必要だものね」
城の中は気温が安定しているけど、警備を担当する人たちは見回りなどで外に出ていかなければいけないもの。
ウィンザリアの装備には防寒のものは季節イベントのものしか無かったから、これを使って作るのもいいかもしれない。
「デロワが警備の人たちに狩りをさせると言っていたから、そのついでにとってきてもらった方が良さそうね」
そんなことを考えながら、ストレージから出した羊毛を早速加工してみることにする。
というわけで、まずは洗浄……といいたいところだけど、どうやら解体した際にそれは済んでいるみたい。
まぁ、なんて便利なんでしょう。
ちょっと感動しながら裁縫スキルを使って糸にして、それをさらに布にする。
この時、糸ではなく毛糸にするとニットとかが作れるのよね。
でも今はとりあえず普通の服を作ることにする。
だってもしこれから夏に向かうようなら、暑くて着れなくなりそうだからね。
そして実際に布にしてみて解ったことなんだけど、これって羊毛で耐寒まで付いているのに薄くて夏でも着られる生地ができるみたいなのよ。
「なに、この万能素材」
夏涼しく、冬は耐寒が付いてるから温かい。
その上防刃が付いているなんて、鎧下にもってこいの素材よね。
「よく、乱獲されずに残ってるなぁ」
現実世界なら、まず間違いなく乱獲されて絶滅危惧種一直線だ。
いや、もしかするとこの世界の魔物の素材ってみんな便利なものばかりなのかも?
それなら生き残っていてもおかしくないよね。
そんなたわいもないことを考えながら、ちくちく。
ゲームにあった装備を作るのなら自動作成で作れるけど、今作っているのは現実の私が持っていた簡単なデザインの女性もの7分丈トップスだから手作業。
でもそこは裁縫スキル60の私だから、その速さは手縫いにもかかわらずミシン並。
あっという間に一着縫い終わったのよ。
そして実際にやってみて解ったこと。
「一度作れば自動作成に追加されるのね」
高性能装備と違って、裁縫1レベルでも作れそうなものだと作っただけで条件がクリアされるみたい。
今作った7分丈のトップスが、裁縫のメニューに追加されてその横には自動作成可能の印が付いていた。
「これは女性用だけじゃなく、男性用も作っておいた方が良さそうね」
自動作成が使えれば量産は簡単だし、裁縫スキルで作ったものだからこれも装備扱い。
当然サイズ調整機能も付いているから、作って置いておけば誰でも着れるもの。
「寒くなった時用に、ある程度の数は作っておこうかな」
私はそうつぶやきながら、今度は男性用のトップスをちくちくと縫っていくのだった。