14 私にできること、この城の人たちにできること
お酒ショックから数日後。
なんとか立ち直った私は、この世界に来た時からやろうと思っていた現実世界とゲーム時代との違いを検証していたんだ。
するとおもしろいことが解ったのよね。
魔法の持続時間とか地図なんかのプレイヤー機能とか、違いはいろいろ見つかったんだけど、その中でも最たるものが生産系のスキル。
ゲームでは均一のデザインでしか作れなかった各装備が、材料や作る工程さえ大きく変えなければ好きなデザインで作れることが解ったのよ。
その中でも特に自由度が高いのが裁縫。
基準となる材料と込める魔力量さえ元の通りなら、例えTシャツにジーンズでも私の作れる最高装備と同等の防御力を持たせられるって解ったんだ。
そしてこれは他の生産系スキルにも言えることで、ゲーム時代の製品とかけ離れたデザインでも材料と手法さえ同じなら、なぜか同程度の防御力や着ているときだけ発動する強化とかを得ることができた。
そうなると面白くてたまらなくなるのがオタクのサガ。
元々は別々に置いてあったものを、自分で使うだけなら面倒だからと一部屋の中にずらっと並べた各作業用ユニットを前に思案する。
「女児向け魔女っ娘アニメっぽい見た目で、どれだけ強いのが作れるかなぁ」
そんなことを考えながら、裁縫でスーツを、木工や鍛冶でバトンを製作。
とは言っても私のメインは錬金術師だったから、職人レベル60程度の腕ではそれほど凶悪なものはできなかったよ。
でもウィッグ付きのティアラ型頭装備はつけるだけで髪色や髪形を変えられるし、バトンは振ると星のエフェクトが散る。
どこの女児アニメコスだっていう見た目な上に、私も小柄だから鏡に映った姿はどう考えても強そうには見えないのよね。
それなのに装備としては80レベル中盤用のものという、まさに見た目詐欺といえる程度には強いものができちゃったんだ。
「とりあえず、これは早着替えリングに登録しとくか」
この早着替えリングというのは正式名称フィッティングリングと言って、登録した装備の番号を指定することですぐにその装備に変更できるアイテムなの。
ゲーム時代はこれ、一日で複数のボスをはしごする時なんかにそれぞれの攻撃に対する耐性を持った防具に着替えるために使われるものだったのよ。
私はその手のコンテンツにあまり縁がなかったけど、週替わりのお金と経験値稼ぎボスだけは別。
ソロでも簡単にクリアできるものだったから、このリングにはとても助けられたわ。
でもこの世界にはそんなの居ないでしょ。
だから実用品から、趣味のコスプレ用着替え道具に成り下がってしまったのよね。
「これは悲しすぎる」
そう思い、いつものようにさめざめと涙を流そうと思っていたら、ミルフィーユから声を掛けられた。
「アイリス様、お時間は宜しいでしょうか?」
「いいけど、何かあった?」
「はい。実はお願いがありまして」
そんな改まって何事かと思ったんだけど、どうやらNPCたちをジョブチェンジしてもいいかという話らしい。
実は街やクランエリアにいる専用キャラに頼まないといけない私たちプレイヤーと違って、ソロ用パーティーメンバーとしての役割があるNPCたちは自由にジョブチェンジできるんだ。
「エクレアとオランシェット、この二人をそれぞれゴーレムマスターと精霊召喚士にジョブチェンジする許可が欲しいのです」
「別にいいけど、何をするの?」
「この城ですが、城壁のすぐ横まで樹木や草が生えております。それを除去しようかと思いまして」
どうやらゴーレムで木を切り倒し、残った切り株や生えてる草を地の上位精霊であるベヒモスを使って除去するとともに整地をしたいらしい。
なるほど、ゲームでは戦闘にしか使えなかったけど、現実世界ではそんなこともできるのか。
「いいわよ。それと必要と感じた時はわざわざ私に声をかけなくても、これからはミルフィーユの判断でジョブチェンジさせて頂戴。その方が仕事がはかどるだろうし」
「解りました。ありがとうございます」
そう言って頭を下げると、作業部屋を出ていくミルフィーユ。
そんな彼女に変わって、今度は私のNPCの中で唯一の男性キャラである執事のガレット・デロワが作業部屋に入ってきた。
「あら、珍しい。何か用?」
「はい。警備にあたる者たちについての話です」
この後ガレット・デロワの話を聞いて私はとても驚くこととなる。
なんと、この城の近くでデロワの下についている者たちを鍛えたいと言いだしたのよ。
「この城の周りにいる魔物ですが、どうやら警備にあたる者たちに近い強さを持っているようでして」
「だからパーティーを組んで、狩りをするってこと? えっと、狩りをすれば警備の人たちもレベルアップするっていうの?」
「はい」
何を当たり前なことをって顔をするガレット・デロワ。
でも、私からするとものすごく驚くべきことなのよ。
だって設定だけで今まで居なかったこの城の使用人たちが、私たちプレイヤーキャラクターと同じように狩りをすることでレベルアップできるっていうのだから。
「現在、この城にいる者たちの平均レベルは30。四人一組でパーティーを組めば十分対処は可能と考えます。どうでしょうか?」
パーティーを組めばっていうことは、逆に言うと組まないと危ないってことよね。
ここに住み続ける以上、警備する人たちにはせめてソロ活動ができる程度には強くなってもらわないと困る。
「いいよ、許可するわ。ただ、その時はデロワが付いて行って絶対に事故が起こらないようにすること。いいわね」
「畏まりました」
ガレット・デロワは執事ということで、ゲーム時代は居残り組の三人に入っていたの。
でもNPCのレベルは戦闘経験に関係なく、私の最高レベルに紐付けされているから現在はウィンザリアで実装されていた最高レベルの135。
その彼が付いて行けば、30レベルパーティーの適正狩場で事故なんて起こりようがないから安心よね。
「あと、装備はどうするの?」
「城にあるものを使おうかと」
ガレット・デロワの話によると最低限の装備はあるらしい。
でもどうやら本当に最低限で、そのほとんどが鋼装備なんだそうな。
「流石にそれじゃあ心許ないわ。ちょっと待ってて、チャチャっと作っちゃうから」
高レベルのものは無理だけど、30レベルのキャラが付ける程度の装備でいいのなら自動作成で作れるもの。
破損した時用の予備も含めて武器や防具をいくつか作り、デロワに渡した。
「こんなもんでいいかな?」
「ありがとうございます。この装備があれば、事故率を大きく下げることができます」
お礼を言うガレット・デロワに、念のためポーションもいくつか渡しておく。
「とにかく安全第一。いのちだいじにでお願いね」
「畏まりました」
ガレット・デロワはそう言うと、深々と頭を下げて作業場を出て行った。