12 ゲーム時代の料理、もう食べる気しないわね
お金と自販機があったということで、これからの生活に対する不安はなくなった。
ならば次はこの城の設備を調べることにしたんだ。
なにせこの家、大きすぎたからゲーム時代もそのほとんどの場所に行ったことが無いのよね。
という訳で、ミルフィーユをお供に探検を開始しようと思ったんだけど、その時目の端に働いているメイドの姿が映ったのよ。
「あれ、そう言えばあの子たちの食事ってどうしてるんだろう?」
いや、それ以前に私の食事もか。
それに気が付いた私は、早速横にいたミルフィーユに質問。
「ねぇ、あなたたちや使用人たちはここで生活していたのよね。その間の食事とかはどうしていたの?」
「どうと言われましても、普通に食堂を担当しているものが調理したものを食べていましたけど?」
私の質問に首をかしげながらそう答えるミルフィーユ。
うん、確かに今のは私の質問の仕方が悪かったね。
ということで、もう一度わかりやすく質問。
「いやそう意味ではなく、その食材はどうしていたの?」
「普通に食糧庫から出しておりましたけど」
聞いたことのない情報に、今度は私が首をかしげる番だ。
「食糧庫?」
「はい。調理場にある食糧庫には魔素から生み出された新しい食材がつねに補充されますから、それを調理しております」
「食材が魔素から生み出されてるの!?」
詳しくい話を聞いてみたところ、どうやらここの設備ってみんな周りの魔素を吸収することで動いているそうな。
そしてそれは食糧庫の食材や大浴場の石鹸やお湯など、消耗品にも適用されているみたい。
「新たな土地に移転したことで少々心配したのですが、クランエリアや住宅地に匹敵するほどの魔素がある場所を選んでいただいたようで安心しましたわ」
「ここって、そんなに魔素が濃いの?」
「はい。入口のコンソール横にある魔素計が黄緑色になっていましたから、この地には前にこのアイリスの家が建っていたクランエリアと同等かそれ以上の濃さがあると思われます」
そうか、なんとなく景色がいいから選んだけど、偶然とてもいい場所だったみたいね。
そう思い一人でうなずいていたんだけど……私はそこでふと、先ほどミルフィーユが言ったある言葉が引っ掛かったんだ。
「ん? アイリスの家?」
「はい。この家の名前は現在、アイリスの家で登録されております」
ミルフィーユに言われて思い出したけど、ゲーム時代は家に名前を付けることができたのよね。
でもそんなの、普通はつけないでしょ。だってほとんどの人は回復するために寝に来るだけだもの。
それは私も同じで、家の名前はデフォルトのまま。
「この城の名前がアイリスの家……ないわぁ」
巨大で堅固、それでいて美しく荘厳な城。
訪れた人が感嘆し、名を訊ねるとアイリスの家ですって答えが返ってくるのよ。
「間違いなく大恥をかくわね」
そう思った私は、大急ぎで入り口のドアの前へ。
パネルのスイッチを入れて、項目を見ていくと名前の設定というのがあったからそれを選択した。
「さて、名前はどうしよう?」
流石にアイリス城はないわよね。
かと言って有名なお城、例えばノイシュヴァンシュタイン城やウェストミンスター宮殿の名前をもじったものをつけるのもなぁ。
「ゲーム時代につけたのなら良かったけど、万が一ゲーム時代の知り合いが私みたいに召喚されてそれを知ったら、間違いなく大笑いされる」
かと言って、新たにかっこいい名前をつけろと言われても思いつかないし……。
設定画面の前で頭を悩ませる私。
「出てこないものを無理に考えていても仕方ないか。うん、ちょっと安直すぎな気もするけどこれにしよう」
そうやって決まった名前はキャッスル・オブ・フェアリーガーデン。
クラン名をそのまま城の名前にしちゃったってわけだ。
「元々がクランエリアのランドマークだったわけだし、この名前で正解よね」
安易ではあるけど、ある意味この城の名にふさわしいものをつけられた。
そう考えて満足した私は、話題を魔素による食料の話に戻す。
「ギルドで料理の納品をしていると1品作るだけでかなりの材料費がかかるんだけど、それをすべて周りにある魔素だけで賄えるなんてすごいね」
後ろに控えていたミルフィーユにそう話を振ると一瞬不思議そうな顔に。
その後、ちょっとあきれたような顔になってこう言われてしまった。
「それはもしや、バフ料理と混同なさっているのではありませんか?」
「バフ料理?」
「はい。調理ギルドで扱われている、食べるといろいろな効果がある料理のことです」
ミルフィーユが言うには、ゲーム内で私たちが食べていた料理と普段食べるものとは決定的な違いがあるらしい。
料理ギルドで作るバフ料理は使う材料の多くを魔力に変換しているから、普通の料理の何倍もの材料が必要になるそうな。
「アイリス様のストレージには食材も入っていますよね? 何か一つ出してみてください。そうすれば私の言っている意味が解りますから」
そう言われて、試しにエントランスのふちにあったテーブルの上に霜降り牛肉を出してみると、
「うわっ、なにこれ。デカっ!」
目の前には大きな葉っぱに包まれた、3キロ以上はあろう巨大な肉の塊が。
「ステーキって確か1枚150~200グラムよね? どう見てもこれ1個で20枚近く取れそうなんだけど……。料理ギルドのレシピだと、これを5個も使って5食分しか作れないわよ」
「はい。バフ料理を作るには、それだけ多くの材料を必要とするのです」
私はそんなミルフィーユの話を聞きながら、他の材料はどうなっているのかと気になってストレージから色々出してみた。
するとそれぞれ1個ずつ取り出しただけなのに塩と砂糖は1キロ袋、米は5キロ袋、そして卵は10個入りパックがテーブルの上に並ぶことに。
「確かクッキーを5枚作るのに砂糖が3個必要なはずなんだけど……1枚に600グラム分の砂糖が入ったクッキーか。食べたら歯が溶けそう」
ゲーム時代は狩りのたびに食べていた料理だけど、これを知った後ではもう食べようとは思わない。
いくらステータスがアップするとはいえ、どう考えても体にいいとは思えないからね。