11 稼ぐのが簡単でも使い続ければお金はたまらない
と、ここまで考えたところで、ふとあることに気が付いた。
「この家に置いてあった私のお金、ちゃんとこの世界にもあるわよね?」
家具や装備があるから当然お金もって思ってたけど、まだそのことを確かめていなかった私は慌てて自販機の横を確認。
するとゲーム時代同様、そこに豚さん貯金箱の形をした金庫が置いてあった。
「同期は……うん、ちゃんとされてるみたいね」
トレードボックスって便利な分、誰でも使えるというわけじゃないの。
加入しているクランエリアでしか買えないだけじゃなく、買った人でも自分の家に設置した後に金庫と同期して、その中に入っているお金を消費することでしか品物を買うことができないのよ。
だからこそ私の所持金のほとんどがストレージではなく、この豚さん貯金箱の中にあったってわけ。
その同期もちゃんとされていると確認できたということで、さっそく豚さん貯金箱を起動。
するとそこには私がゲーム時代にためたお金、26、384、265、943Gの文字が浮かんでいたんだ。
「よかった、ちゃんとある!」
流石に200億を超えているほどの金額だもの、もし消えてなくなっていたらショックだからね。
因みにこれ、数字は大きいけど別に私が凄くお金持ちだったという訳じゃないのよ。
多分生産系をまじめにやっていて、その上最新装備やエンドコンテンツに興味がない人だったらほとんどがこれくらい持ってるんじゃないかな?
というのもこのゲーム、全部の生産職業ギルドがのクエストが毎日更新されていて、そのすべてが受注できたからなのよ。
そしてそのクエストはそれぞれの職業レベルによって変わるから、面倒だという人は自分がメインにしている職業だけを、そうじゃない私のような人は生産ギルドを全部を回ってクリアしていけば結構なお金が稼げてしまうという仕様だったというわけ。
因みに私がここに召喚された時点でメインに選んでいた職業スキルのレベルキャップは120、その他の職業はその半分の60だったわ。
「全部回るのには1時間近くかかったけど、作っているときに最高級品ができればそれもバザーで高く売れたのよねぇ」
ただ私が選んでいた職業は錬金術師だったから、数は売れるけど武器や防具を作る職業に比べたら同じ最高品質でもはるかに安かったけどね。
でも、ちりも積もればなんとやら、10年ほど続けていればそこそこの金額になる訳で。
まともに生産系をやってさえいれば、誰でもこれくらいは持っていると思うよ。
すごい人はさらに一桁上の数字を、それも後半の数字で持っているって話だったし。
それに生産職ほどは稼げないけど、かなりの値段で売れるドロップアイテムを落とすレアな魔物が居たり、狩るだけでお金がもらえるクエストなんかも結構あったからなぁ。
正直、誰でも時間さえ掛ければ簡単にお金が稼げたんじゃないかな。
ただそのせいなのか最新装備が実装された直後の最高品質防具の価格は、5カ所必要なのにそのうちの1か所だけで1億越えは当たり前。
武器にいたっては種類によって3億近くするものもあったのよねぇ。
それにエンドコンテンツの中には、高価な消費アイテムを湯水のように使わないとクリアできないものもあったりしたんだ。
そんなのをポンポン買ってたら、お金なんてすぐに無くなってしまうでしょ?
だからこんなに稼ぎやすいゲームだというのに、クランメンバーやフレンドの中には定期的に高級素材を落とす魔物を狩りに行ってるのに、ストレージの中にはいつも2~3万しかないなんて人もいたっけ。
「でも私はコツコツためていた。そのおかげでこんな世界に飛ばされたのに慌てなくてもすんでるのよね」
ああ、余裕があるって素晴らしい。
私がそんな小さな幸せに包まれていると、
「アイリス様、そろそろよろしいですか?」
ミルフィーユにまじめな顔で突っ込まれてしまった。
「ああ、そうだった。使用人たちの家を買わないといけなかったわね」
「はい」
ミルフィーユに冷めた目で見られながら、私は自販機を起動。
「えっと家はっと、あった。サイズはMじゃないとダメよね?」
「はい。できれば二階建てを男性用に一棟、女性用に二棟お願いします」
それを聞いた私は、標準的な二階建てのMサイズの家を三軒購入。
と、そこで気が付いたのよ。
「ねぇ、これってここの庭に設置するのよね? 周りの塀は邪魔にならないの?」
「塀、ですか? わざわざつけなくても、家だけを設置すればよいではないですか」
「えっ、そんなことできるの?」
ゲーム時代では家を設置すると同時に、庭とその周りを囲む塀が設置されたのよ。
だからそれが当然だと思っていたんだけど、ミルフィーユが言うにはそうではないらしい。
「設置前にユニットの設定を変えれば、家だけで設置できますよ」
「……ほんとだ。変更できる」
言われてストレージの中のユニットを指定すると、本当に選択肢が出た。
というわけで家のみに変更。
「それではわたくしにトレードしてください。設置や住む者に合わせた内装の整備は、のちほどこちらでやっておきますので」
するとミルフィーユがそう言って私の手に振れてトレード画面を出してきた。
なるほど、大きすぎてその場に出せないものはゲーム時代同様、トレードでストレージを移動させるのね。
「はい。これでいい?」
「確かに受け取りました。アイリス様、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げるミルフィーユ。
そんな彼女に私は笑いながら、いいよいいよって軽く手を振っておいた。