9 ゲーム時代に気楽に設置したものの中には現実になって後悔するものもある
さて、次にこの家の間取り。
前に言った通り地上階はすべて1番上にあった標準的な間取りを選択してあるんだけど、実は地下だけはちょっと違うんだよね。
なぜかというと、そこを各種生産作業ができる場所にしようと考えたから。
生産って、本格的に自分の家でやろうと思ったらギルドごとに必要な設置ユニットを置かないといけないの。
例えば武器や防具のような鍛冶職で言うと溶鉱炉ユニットがいるし、錬金術なら魔法陣が書かれた錬金台ユニットがいるってな感じにね。
まぁ簡易で使える補助ユニット的なものもあるにはあるんだけど、作れるものに制限があるからそれはあくまで持ち運び用。
高額でバザーに出す新たな実装品なんかは、この設置型ユニットを使わないと作れないってわけ。
そのことから考えたんだけど、何度も説明している通り私の家はクランのランドマーク的な存在でしょ?
折角大きな家を建てるのだからクランメンバーがいつでも生産でもできる場所が欲しいなぁと思って、地下に各ユニットを置いた部屋をずらっと並べて作業スペースとして提供しようと考えたんだ。
まぁ実際はクランメンバーの誰も生産なんかやってなかったから、私専用の作業スペースになっていたけど。
ただ、元々がかなり広いフロアでしょ?
そんな所を各生産部屋だけで埋めるなんて当然できないよね。
と言うか、そんな生産スペースなんて地下フロアの5分の1ほどを職業ごとの部屋に分割して使っただけでさえ広すぎるほどだったのよ。
でも一部でも自分で間取りを設定してしまったら、もう既存の間取りは使えない。
考えた結果、家に設置するユニットの中で一番大きなもので残りを埋めることにしたんだ。
それは何かって言うと、お風呂だったりする。
このゲーム、なぜか家に設置するユニットには無駄に凝っているようで、お風呂だけでもバスタブだけのものやトイレとセットのユニットバス、果ては温泉施設かって言うほど大きなものまであったのよね。
その中から私が選んだのはLサイズの家の1フロアの4分の3以上を占めるほど大きなもので、これを設置して階段や通路、それに各作業部屋をを配置したら地下はパンパン。
それほど大きい施設なのよ。
そしてその大浴場ユニットはそれだけの広さだけあって、中にはいろいろな趣向を凝らしたお風呂やサウナとミストサウナ、それに岩盤浴場や疑似露天風呂まであるという豪華版。
その上脱衣場には大きな鏡が付いた何人か一度に使える洗面台があったり、ゲーム内では使えなかったけどマッサージ椅子まで5つくらいならんでいると言う、どこの高級温泉ホテルだ? って言うような造りなんだ。
そしてそれが現実になった今、その存在を確かめるために地下に降りてきた私の目の前に実際に広がっているわけで。
「これ、お風呂に入れるのはいいけど、どう考えても掃除が大変すぎじゃない?」
見た瞬間はとても嬉しかったけど、それに気が付いた今はそのあまりの広さに正直絶望感しかない。
と、そこで私の心に一つの光明が。
「待って。他のシステムがすべてゲームのままなら、あれも使えるのかも?」
そう思った私は、急いで1階に戻ってドア横のコンソールの前へと移動したんだ。
「どうか、使えますように……よかった、これも使える!」
わたしが思い出したのは、家を買うと同時に使えるようになる使用人ユニットシステム。
これはワンフロアーに付き最大3人ずつの使用人を置くことができるっていうもので、この使用人は冒険する際にNPCとしてパーティーメンバーにすることもできるんだ。
そして使うジョブはその時々によって好きなものに変更できるし、レベルも私が持っているジョブの中で一番高いものになるのよ。
「だから賢者基準で呼び出された私より、NPCたちの方が強いのよねぇ」
と言うのも私が寝落ちした時についていた賢者というジョブ、悲しいことに実はまだカンストしてなかったりする。
私がやっていたMMOネットゲーム「ウィンザリア」は、ジョブチェンジをして遊ぶタイプだったの。
だからいろいろな場面でジョブを切り替えて使っていたんだけど、そのレベル上げは日課と週課(週に一度だけ受けられるクエストと言えば解りやすいかな?)でどんどん上がっていく。
だからメインストーリーやエンドコンテンツに使う主要ジョブはすべて、現在のカンストレベルである135レベルまで上がってるんだよね。
それに対して賢者と言うジョブは上級ジョブではあるものの、器用貧乏キャラって言うイメージが強いんだよなぁ。
そりゃあ攻撃魔法と治癒魔法の両方が使えるし、バフやデバフに関して言うと全ジョブで最高の能力を持っているよ?
でも例えば魔法職のに限ったとしても同じ上級職のハイビショップよりも治癒能力や防御力が低いし、アークウィザードよりも魔法攻撃力が低い。
それに売りであるデバフだって、エンドコンテンツに出てくるような強敵にはほとんど効かないんだよね。
そんな訳でどうしても後回しになってしまうから、レベルキャプ135の今現在でもまだ120レベルにすら達していないって訳なんだ。
まぁ、だからこそ日課で得る経験値を無駄にしないために賢者のジョブにしてたんだけど。
どうせ召喚するのなら同じ上級職でも防御力が一番高くて死ににくいホーリーナイトか物理攻撃最強のバトルマイスター、または各魔法のエキスパートであるアークウィザードやハイビショップにして欲しかった。
これらなら全部カンストしてるからね。
閑話休題。
「でもまぁ護衛が私より強いのはただただ頼もしいから、その方がいいのか」
別に私はこの世界で最強になりたいとか英雄になりたいとか思っていないので、強さ自体はそれほど望んではいなかったりする。
まぁ死にたくはないから強いに越したことは無いけど、代わりにNPCが戦って守ってくれるというのであればやはりどうでもいいんだよね。
そんなわけで、私は早速ゲーム時代に作っておいたNPCを召喚することにした。
私が課金で購入した城は、地上3階プラスSサイズの家と同じ大きさの物見やぐら、そして地下1階の計5フロアある家なのよね。
だから最大15体までNPCを配置できたんだけど、実をいうと6体しか設定していなかったりする。
というのもこの使用人モード、NPCの装備は自分でそろえないといけない仕様になっていたからなのよ。
当然だけど、武器や防具をそろえようと思ったらお金がかかる。
まぁ、それえらを得ることができるコンテンツもあるにはあったんだけど、そこで手に入る物は二世代か三世代前のもので最新のものより弱かったのよね。
そしてこのゲームは4人パーティ制だったからワンフロアー分である3人だけNPCを置いて、その装備だけをそろえるというスタイルが一般的だったんだ。
けど、せっかくいっぱい置けるのにそれじゃあつまらないでしょ?
だから私は常にパーティメンバーとして使う3人と、デフォルトの使用人服を着た3人の6人分、NPCを置いていたってわけ。
そしてその使用人モードを起動したことで、その6人が私の前に姿を……。
「えっ!? なんで?」
いや、確かに見覚えのある6人のNPCは出て来たのよ。
でもその6人の後ろには、なぜか似たような使用人服を着たNPCたちが。
「お帰りなさいませ、アイリス様」
その光景に私は一人固まっていたんだけど、見知ったNPCの一人が私に話しかけてくれたおかげで再起動に成功した。
「えっと、あなたの名前は何だっけ?」
「お忘れですか? ミルフィーユです」
ああそうだ、そう言えばうちのNPCの名前って、みんな近くにあるフランス菓子の専門店に並んでいるものの名前を付けたんだっけ。
確かそれぞれの名前は、メイド長のミルフィーユとメイドのパルミエ、エクレア、オランシェット、クラフティ、そして執事のガレット・デロワ。
女性5人と男性1人の構成なんだよなぁ。でも。
私はあらためて、その六人の後ろに目を向ける。
するとそこには相も変わらず、大勢の使用人が並んでいたんだ。