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番外編2、とあるメイドと錬金術師の会話。

★62話あたりの話になりますので、それ以降に読むことをオススメします。



〜狩猟大会の早朝〜


「なぁ、お前マジで狩猟大会出るのか?」


 リーファの義足の最終調整をしながら、ノクスは淡々とした口調でそう尋ねる。


「もっちろん♪ だってお館様のご指名だし?」


 はぁ〜楽しみ過ぎるといつも通り軽口を叩くリーファに、


「あぁ、そう。楽しそうで何より」


 呆れの色を滲ませてノクスはため息を漏らすと黙々と作業をこなしていった。


「で? 足の具合は?」


「びっくりするくらい軽い!」


 早朝の鍛錬結果を満足気に報告するリーファ。


「だろうな。昨日も言ったがいつも使ってる寒冷地仕様とは違うんだ。軽いがその分強度が落ちる。暴れ回って壊すなよ」


 そんな彼女にノクスは注意事項を述べる。


「はーい、はい。ってか別に寒冷地仕様のままでもよかったのに」


「いつもの雪山じゃねぇんだ。アウェイ戦ならパフォーマンス上げた方がいいだろうが」


 "軽く"がお前の持ち味だろ? とノクスはリーファの紅玉の瞳を見ながら笑う。

 彼女がまだ戦乙女と呼ばれ戦場を生き場としていた現役時代。

 まるで羽でも生えているのではないかと言われるほどにふわりと軽く素早く敵の間を駆け抜けて、リーファは剣を振るっていた。


「んー全くのアウェイってわけでもないんだけどね。ほら、私一応近衞騎士まで上り詰めた女だし?」


 まぁ、もう何年も前の話だけど。と何気なくリーファが言ったセリフに、


「……大丈夫か?」


 と眼鏡越しに黄色の瞳が尋ねる。


「何が?」


「いや、だから」


 珍しくノクスが言い淀み、それ以上言葉を紡げず黙る。


「ああ。騎士団の連中に会うから、か。別に気にしてないわよ、今更足が生えてくるわけでもないし」


 ポンと手を叩くと、


「なーる。どうりでいつも以上に整備が丁寧な訳だ」


 ノクスはリーファ・ブランシェ(戦乙女)のファンだからなぁとニヤニヤと揶揄うように笑う。


「はぁ、私が北部入りした初日の出来事が昨日のことのように思い出されるわぁ〜。"俺がアンタの足になってやる"っだっけ? やぁーん、熱烈。秒でノクスのプライド潰したのも今ではいい思い出ね〜」


「……戦乙女の中身がこんなに残念だとは思ってなかったんだよ」


 ヒトの黒歴史を蒸し返すんじゃねぇとノクスがじとっとリーファを睨む。

 戦乙女といえば、戦場に咲く花と讃えられるほど美しく、凛としたその立ち振る舞いにファンも多かった。

 当時のポートレートはもはや市場に出回っておらず、プレミア価格がつくほどだ。


「天使だの花だの勝手なイメージ押し付けられても困るのよ。所詮、ただの人殺しなのにねぇ」


 女騎士、というだけで目立っていたかもしれないが、戦場にいるとはそういう事だ。

 そして、嫉妬と陰謀に巻き込まれリーファは足を失くした。


「お前はまた身も蓋もないことを……」


「いや、だって本当の事だし」


 カラカラと笑うリーファはそう言って肩を竦める。


「……なぁ。俺がいても足しにはならんだろうが、今回の任務ついて行ってやろうか?」


 足が壊れてもすぐ直せるし、とノクスはやや固い口調でそう尋ねる。


「なぁに? ノクスは私が負けるとでも思ってるわけ?」


「別に、んな事言ってねぇだろうが」


 ため息を吐いたノクスは、


「ただ、ダチとして心配してるだけだ」


 紅玉の瞳を真っ直ぐ見ながらそう言った。


「なんともない、なんて。そんな訳ないだろ」


 リーファは強い。メイドという肩書きになってもそれは変わらず、努力を怠らないからだ。

 だが、彼女が北部に来てから立ち上がるまで、傷つき泣いていた過去を知っている身としては心配せずにはいられない。

 今から、その原因と対面する羽目になるというなら尚更。


「……ふふ、ありがとう」


 紅玉の瞳でじっとノクスを見たリーファはふっと表情を緩めると、穏やかな口調で大丈夫とリーファはノクスの申し出を断った。


「私より、ノクスが首都の連中に見つかる方がヤバいでしょ」


 ノクスは逃亡者だ。

 特区であるバーレーではない場所にいるだけでも誰かに見つかるリスクがあるのに、私情に巻き込みノクスを危険に晒すわけにはいかない。


「私は、強い」


 リーファはノクスにそう宣言する。


「その上、ノクスの作った世界一の足をつけてるのよ? 負ける要素が見当たらない」


 それを今から証明してくるのだとリーファは不敵に笑う。


「全部蹴散らして、お館様の命令を遂行し、その上できっちり優勝してきてあげるわよ」


 接近戦も対人戦も私の得意分野なんだから、と言うリーファに無理をしている様子は見当たず、


「ああ、そうだな」


 杞憂だったか、とノクスは納得した。


「なぁ、やっぱ全部が終わったらリーファは首都に戻るのか?」


 さて、そろそろ時間かと立ち上がったリーファにノクスは世間話のように問いかける。


「へ?」


「いや、だって。騎士団の件が片付いたらお前もう北部にいる意味ないだろ」


 もう、リーファは故障した戦乙女ではない。義足ではあるが、それを使いこなす彼女はなんなら退役前より強い。


「戦乙女復帰もアリじゃねぇ?」


「……あ、そう」


 ノクスモテないでしょと低い声で言いながら近寄ってくるリーファに気圧され、ノクスは思わず後退る。

 が、すぐ壁際に追い詰められ身動きが取れなくなった。


「ちょ、なんだよ」


 どこでリーファの地雷を踏んだんだ、と焦るノクスの顔すぐ横でドンと音がしその腕に拘束される。

 紅玉の瞳に射ぬかれ瞬きすらできなくなったノクスをじっと見たリーファは、ふっと満足気に笑うと、ノクスの唇に自分のそれを重ねた。


「……鈍感」


 眼鏡邪魔と文句をつけながら、


「私が北部に留まる理由なんて、ひとつしかないでしょ」


 といつも通りの口調でそう言った。


「はっ!? はぁあぁ〜〜〜???////」


 混乱するノクスにクスッと笑ったリーファは、


「優勝してくるから、いい子で大人しく屋敷で待ってなさい」


 ビシッと指を立ててそう言った。


 上機嫌なリーファが宣言通り優勝してくるのも、すっかりペースを乱されたノクスがリーファに振り回されるのもそれから数時間後のお話。

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