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72.その歌姫は、リハビリ中につき。

ーー最北の地、要塞都市バーレーにて。


「……ッチ」


 不機嫌を前面に貼り付けたルヴァルが舌打ちと共に報告書を机に放り投げる。

 南部国境付近での決戦の夜から数週間が経った。

 元々ルヴァルが南部に赴いた時点で王妃を頂点とした第2王子派の企みも王妃や第2王子と手を組んだと見せかけたノルディア側が反逆者達を隠れ蓑にこの国への侵略およびカナリア略奪を目論んだ証拠は十分出揃っていた。

 そのため国民の命最優先、首謀者を含めた略奪者たちの処遇は生死問わずと通達が出ていた。

 とはいえ、


「生死不明っつーのが何より腹立つ」


 スッキリしねぇ、とルヴァルは眉間に皺を寄せる。


「カルマの遺体の損壊状態から考えても、あの悪女が生きている可能性は限りなくゼロに近いけどな」


 状況を報告したリオレートがそう言って肩を竦める。

 あの後すぐさま川に落ちた2人を捜索する網が張られたが、すぐに見つけることはできなかった。

 調査していくうちに地元の人間のごく一部だけが知っている川の水が流れ込む小さな洞窟の存在が判明し、その場所でカルマの遺体とマリナが履いていた靴が見つかった。

 だがそれ以上は何も出てこず今日に至る。


「マリナ・サザンドラが身体強化の魔法を使えたのは驚いたけど、おそらく彼女にはそれを長く維持できるほどの魔力はない。その上前日までの雨で川は増水、ルヴァルの魔力の影響で水温はかなり低い状態だった。あの状況下で逃げ果せるとはとても思えない」


 リオレートは淡々客観的事実を述べるが、ルヴァルは難しい表情を浮かべたまま黙り込む。


「……ゼロに近い、はゼロじゃねぇんだよ」


 ルヴァルの脳裏に浮かぶのは、最後にマリナが見せた表情。


『さようなら、大嫌いなお姉様』


 あの時、マリナは確かに笑っていたのだ。

 それも、酷く満足気に。


「確かに、あの女は殺しても死ななさそうではあるけどな」


 呪術と魅了でカルマに繋がれたリオレートはカルマに命令されマリナに情報を流していた。

 何度か接触したことのあるマリナの印象は、派手好きで美しい蝶を演じながら相手に手札を悟らせない底知れなさを感じた。


「自爆ではなく、洞窟の存在を知っていて生き延びる手段としてああした可能性もある」


 限りなく可能性の低い、だがゼロではない運に任せた無謀な手段。

 戦略的撤退と呼ぶにはあまりに稚拙ではあるけれど、それでも確かにマリナはこちらから逃げ切った。


「とはいえカルマはもういない。生きていたとしても、その先は悲惨だろうけどな」


 ノルディア側は今回の落とし所を巡り会談中。言い逃れのできない証拠を元に国際司法機関も味方につけたアーサーが徹底的に追及しているので、賠償はかなりのものになるだろう。

 両親はマリナの企みは知らなかったと主張しているが、調査中に脱税の証拠が出て来たため別件で勾留。父母共にそれぞれ悪事の証拠が出てきている最中で、実家であるサザンドラ子爵家は没落する見通しだ。

 婚約者であるエリオットは拘束中。第二王子は廃嫡の上王妃ともども幽閉。反逆者の拠点は全て解体し、ほぼ全員勾留済み。

 仮にマリナが生きていたとしても、この国にもノルディアにも彼女の逃亡先はなく、この国に影を落とせるほどの影響力はマリナにはない。

 そうだとしても。

 

「生死不明、っていうのは精神安定上良くないだろ」


 ルヴァルの気がかりはエレナの心。

 あんな別れ方をすれば、ずっとマリナの影に囚われて彼女が病んでしまわないかと心配になる。


「それについては、本人と話した方がいいんじゃないか?」


 ため息をついたルヴァルにリオレートがそう助言をしたところで、控えめなノックの音が響き、


「お話、終わったかしら?」


 ひょこっとエレナが顔を覗かせた。


「レナ、どうした?」


「バーレーに戻った後も2人ともずっと大変そうだから息抜きも必要かなって」


 リーファ達と一緒にお菓子を作ったの、とエレナは差し入れを持ってきたことを告げる。

 ルヴァルに断ってテーブルに広げたお菓子は色とりどりで、見た事のない種類のモノもある。


「随分作ったな」


「ふふ、美味しそうでしょ」


 温かいお茶を淹れたエレナは、


「ほら、リオも座って」


 驚いたような表情を浮かべるリオレートにそう笑う。

 食べてみて、と促されリオレートは焼き菓子を口にする。


「……久しぶりに、コレを食べました」


 それはリオレートの故郷フィリアでよく食べられていた卵白を使った焼き菓子で、口の中でホロリと溶けてなくなった。懐かしいその味にリオレートは表情を緩ませる。


「とっても美味しいわよね。一緒に作ったの」


 みんなすごく働き者なのよとエレナは嬉しそうに話す。

 ノルディア側に捉えられていたフィリアの生き残りはごく少数だった。ルヴァルは今回の褒賞に彼らの身柄の引き渡しを要求し、今は全員バーレーで療養中だ。


「改めてお礼を言わせてください」


 そう言って頭を下げようとしたリオレートを制し、


「お菓子、美味しかったならあとでみんなにありがとうを伝えてあげて」


 エレナはそう言ってふわりと笑う。

 リオレートからはもう何度も謝罪もお礼も言われているが、彼がこれから先もルヴァルを支えてくれるならこれ以上その言葉は必要ない。


「そうですね。あとでみんなのところに顔を出します」


 そう言って笑うリオレートからは、もう苦痛に満ちた歪んだ音は聞こえない。

 そしてリオレートと接するルヴァルからも悲しい音が消え、代わりに心地よく穏やかな音が聞こえる。エレナはそれが何より嬉しいと思う。


「足、は平気か?」


 一通り談笑した後で、ルヴァルがエレナにそう尋ねる。


「んーもう痛くはないかな」


 エレナは自分の足に視線を落とす。

 魔石を踏んで爆ぜさせたせいで、エレナは足に火傷を負った。あの後すぐソフィアが治療してくれたおかげで捻挫も火傷も回復傾向にあるのだが、下手に誤魔化すとルヴァルの過保護に拍車がかかりそうなので。


お医者様(ソフィア)からもたくさん歩いてリハビリしてねって言われてるから」


 城内ならひとりで歩いていいって許可が出たのとソフィア(城内専属医)の威光を借りる事にする。


「そうか、ならたまには城外に散歩にでも出るか?」


 お茶のお礼にとそう言ってルヴァルは立ち上がる。


「へ? 今から?」


 お仕事中だったんじゃと遠慮しそうなエレナに、


「むしろ付き合ってやってください。残務処理が多くてエレナ様になかなか会えず、ルヴァーの機嫌が悪くて仕方ない」


 揶揄うようにリオレートはそう言って、2人まとめて執務室から追い出した。

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