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71.その歌姫は、終戦を迎える。

「確かにフィリアの魔術を使うにはその研究記録とそこに描かれた魔法式が必要だが、私は遠隔操作が得意でね。手に触れなくとも魔法を発動できたりする。例えば、別のモノに植え付けたりして、な?」


「別の……物?」


「そう、例えばフィリアの奴隷とかな」


 王城での魔物との追いかけは楽しい余興だっただろう? とカルマは口角を上げる。


「……ま、さか」


 エレナの紫水晶の瞳が揺らぐ。


「奴らは実に純度の高い魔力のエネルギー体だったよ」


 そんなエレナを満足気に見ながらカルマは残酷な事実を突きつける。

 カリアの記憶通りなら魔物とは異なる魔力同士が混ざり合い、その地の気の流れが澱み綻ぶことで生まれる。そして、この男はその生贄にフィリアの人間(リオレートの同胞)を使ったのだ。

 

「ここだけではない。ここら一帯全て私の命令で動く魔物だらけだ。お前達が沢山魔力エネルギー(魔力持ちの人間)を連れて来てくれたからなぁ。喰わせればいくらでも奴らは沸いてくる」


 カルマがそう告げた途端、地面から異形の魔物がさらに姿を現した。襲いかかってきたそれをルヴァルが薙ぎ払うが、まるで宙を斬ったように手応えがなく、それはあっという間に元に戻った。

 魔核ごと消し飛ばしたはずなのに、消滅しないそれはコチラを見てニヤッと笑う。


「どうだ。可愛いだろう? 人も魔物も全てが私に傅く。フィリアはかつて最も栄えた魔法国家だったかも知れない! だが、奴らができなかった事を私は成し得た!! 私こそが至高の魔術師。全ての理の頂きに立つ存在だ!!」


「聞くに耐えんな」


 ルヴァルはカルマの言葉を遮り、カルマに斬りかかる。その刃はカルマの側にいた魔物をいくつか消滅させるが、それでもまだカルマ本体には届かない。

 だが、沢山の魔物の目に留まりながらルヴァルは口角を上げる。この程度、取るに足らないと言わんばかりに。


「お前がやった事はヒトの研究成果の上澄みを掠め取り、ただ己が欲を満たしてふんぞり返っているだけだろうが」


 こんな私利私欲の塊のような人間の策略に巻き込まれ、回帰前の人生で大事な人達を踏み躙られたのかと思うと腹立たしさしかない。

 ルヴァルは静かに青灰の瞳をカルマに向ける。その目はどこまでも冷たく、一縷の慈悲すら与える気のない冷酷な圧を放つ。


「本物の魔術師を俺は知ってる。お前が魔術師を語るな」


 純度の高い魔力がルヴァルから滲み出たせいで南部だというのに空気が凍り、雪が舞う。


「レナを返せ。全員、斬り刻む」


「できるものならやってみるといい」


 カルマの一声で一斉にルヴァルに魔物達が襲いかかる。

 魔物達はケモノの姿を形取り鋭い牙と爪で連続的に斬りつけてくるが、ルヴァルはそれを的確に躱しつつ、魔法を纏った剣で斬り裂く。だが、魔物達は倒れるどころか増えて行くばかりで攻撃が効いている様子はない。

 ルヴァルがいた場所は地面が抉れ亀裂が入り、木々はまるで棒切れのように軽々と薙ぎ倒されていく。それほどの威力をもし一撃でもくらったならきっとタダでは済まない。


「……ルルっ」


 カナリアの力(歌の魔法)なら魔物相手なら倒せなくても弱体化させる事ができるかもしれない。

 そう思ったエレナが歌を紡ぎ出すより早く、エレナの口元は魔物に覆われ声を封じられた。


「〜〜んんっ!!」


「今、良いところだ。大人しくしていてもらおうか」


 ウチの国では存分に歌ってもらうがとカルマは楽しげにそう告げる。


「そこでお前の夫が無惨に喰い千切られ敗北する様を見ているといい」


 カルマの言葉にキッと睨みつけたエレナ。その顔はカルマの加虐性を刺激する。


「ふふ、そんな顔をするな。存分に可愛いがって泣かせたくなる」


 恍惚とした目でエレナに近づき、エレナの頬に触れたところでカルマの足に電流が流れたような痛みが走った。

 エレナはルヴァルと合流した際に渡された魔石をカルマの足と共に踏みつけ近距離で爆ぜさせたのだ。素足のエレナの方が当然ダメージは大きい。だが、少しでもこの男の機動力を削ってやりたかった。それは、今のエレナにできる全力抵抗だった。

 バシッとカルマはエレナの顔面を叩く。それでもエレナは悲鳴の一つも上げずむしろ笑っていた。


「〜っち、大人しくしていればいいものを」


 何度も殴られながら、それでもエレナの目は懇願一つしない。それどころか可哀想な人とでも言わんばかりの憐れみの色さえ浮かんでいる。

 それは急速にカルマを苛立たせ、一瞬意思がルヴァルから逸れた。

 その隙をルヴァルは見逃さなかった。

 ルヴァルは手を止めることなく、無駄のない動作で剣を振りながら詠唱し魔法を展開。辺り一帯を全て凍らせ、魔物の動きを封じ込めた。

 絶対零度の氷に閉ざされ無数の魔物は完全に動きを止める。


「なん、だと」


「暴れ足りねぇな。ウチの連中の方がずっと骨がある」


 圧倒的多数を相手にしていたとは思えないほどルヴァルには疲労の色は見られず、息一つ乱れていない。


「そんな、馬鹿な」


 術者が怯んだ事でエレナを捕らえていた魔物が消える。解放されたエレナにカルマが手を伸ばすより早く距離を詰めたルヴァルが抱き上げ助け出す。


「さぁ、覚悟はできてんだろうな」


 大地は凍結し続けカルマのすぐ足元まで氷塊が伸びてくる。


「やめ……」


「止めるわけねぇだろうが」


 ルヴァルは片手でカルマに剣を向け、一気に振り翳した。

 ガキーンっと硬質な音が辺りに響く。

 ルヴァルの青灰の瞳が驚きで見開かれる。


「はぁ〜さっすがはバーレー産の短刀。護身用とはいえ、お姉様には勿体無い逸品ですわぁ〜」


 ルヴァルの剣を止めたのは、カルマではなくマリナだった。短剣を携え鮮やかなグリーンのドレスを纏ったマリナは形のいい唇で弧を描くと、


「あら、冷酷無慈悲な悪名高い辺境伯様は随分表情豊かな上に生温いのですね」


 飛び出してきた人間のために剣の勢いを殺すなんて、と楽しげに短刀を振り回す。


「……マリナ?」


 ルヴァルの一振りがカルマを捕えるためのモノで、その上に急に飛び出てきた相手を前に勢いを殺していたとはいえそれを受け止めたという事に驚きエレナはじっとエメラルドの瞳を見返す。


「あら、お姉様ってばまさかご自分だけが魔力適性があるとでも思っていたんですの? 私だって、お父様の血を引いているというのに」


 2人の父親は魔力の強いグローザ伯爵家の出身。マリナが魔力適性があっても不思議ではない。だが、エレナは今までマリナが魔法を使っている所を一度足りとも見た事がない。


「ふふ、だって"身体強化"なんて、野蛮な能力、可憐で美しい私には似合わないじゃない?」


 そんなエレナの疑問を見透かしたようにマリナが告げる。


「……私から何かを奪うなんて、絶対に許さない」


「ああ、私の可愛いマリナ! あいつらを」


 マリナが来たことに勝機を見出したのかそう言いかけたカルマの方に微笑んだマリナは、


「愛おしい人、魅了などかけなくても私はあなたのモノであったのに……」


 困った人ねと囁くと誰もがあっと思う間もなくマリナは身体に宿る全ての魔力を注ぎ込み短刀を地面に突き立てた。


「ダメっ!!」


 地面に亀裂が入り崩壊する音を聞き取ったエレナがそう叫ぶ。


「アンタに慈悲をかけられるなんて死んでもゴメンだわ」


 エレナの紫水晶の瞳を見返して、


「さようなら、大嫌いなお姉様」


 マリナがそう言った瞬間、地面は崩れカルマとマリナを巻き込んで川底に向かって一直線に落ちて行った。


「マリナーーーー!!」


 大きな音を立て落ちて来たものも、エレナの叫び声も激流が全て飲み込んで、そして静寂が訪れたーー。

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