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67.その歌姫は、捜索する。

 連れて来られたその日以降、エレナは幾度となく訪ねて来るマリナから実家にいた頃と同様の仕打ちを受けた。

 ここに連れて来られた時に身に付けていたルヴァルからの贈り物である宝飾品は全てマリナに取り上げられたし、メリッサが仕立ててくれたドレスも剥ぎ取られ代わりに簡素な服を渡された。

 

「ふふ、お姉様ったら惨めねぇ。やっぱりお姉様にはボロな布切れがお似合いよ」


 そう言って満足気に見下してくるマリナ。今日はそんなマリナの姿が見えず、代わりに見知らぬ侍女がやってきた。

 侍女から渡され着替えさせられた翡翠色のドレスは一目でマシール王国のデザインではないと分かる。

 夜会で不敵な笑みを浮かべていたこのドレスの送り主を思い浮かべたエレナは、


「あなたの主のところまで連れて行ってもらえるかしら?」


 覚悟を決めたように凛と背筋を伸ばしたエレナは彼女をそう促した。


「ふふっ、そのドレスなかなか似合っているじゃないか」


 ドアを開けた先で不躾な視線がエレナを捉える。


「建国祭の最中、このような騒ぎを起こしてどうなさるおつもりですか? カルマ・イーリス・ノルディア王太子殿下」


 やや非難めいた声音でそう返すエレナに、


「安心したまえ。建国祭は無事閉幕した」


 一切気に留めることなくカルマはそう返す。

 カルマが王都を離れここにいるという事は、建国祭が閉幕したというのはきっと本当なのだろう。

 ということは、連れ去られたあの日から既に1週間は経過していることになる。


「私に手を出せば、アルヴィン辺境伯(国の番犬)が黙っていませんよ?」


「はは、その番犬は君を攫った男の亡骸を検めるのに忙しいようだ」


 亡骸、という言葉にエレナは一瞬呼吸を忘れる。あの時自分を誘い出したのは、間違いなくエリオットだった。

 エリオットが、死んだ?


「非常に残念だが、マシール王が身罷られたしなぁ。地固めの終わっていない年若い王の即位。悲しみと混乱に乗じて支配者の首を挿げ替えたい反逆者は果たしてどんな行動に出るだろうか?」


 エレナを嘲笑うようにカルマは言葉を続ける。


「陛下……が?」


「妻の命と国の守護。冷酷無慈悲な番犬がどちらを取るかは明白だ」


 動揺を浮かべたエレナの紫水晶の瞳に、意地悪く口角を上げた悪魔が映り、


「可哀想に。誰もお前を助けになど来ない」


 希望を打ち砕くような現実を囁く。

 だが。


『レナ。何かあれば俺を呼べ。どこにいても必ず駆けつける』


 ルヴァルの言葉を思い出し、エレナはゆっくり息を吐く。


「……という事は、あなたもその混乱に乗じて今から私をノルディアにでも連れて行くおつもりですか?」


 次の瞬間には冷静さを取り戻したエレナに、


「思ったより冷静じゃないか」


 なおカルマはニヤニヤと笑う。絶対的に自分の優位性を信じるこの男からは嫌な音がすると、思わずエレナは眉を顰める。


「賢い女は嫌いじゃない。たった今から、お前は私のものだ、エレナ・サザンドラ」


 その声は支配的なのに、脳を直接揺さぶられるような甘い響きを孕んでいて。


「カナリアよ、私のために尽くして歌え!」


 その言葉に従いたくなるような強制力を発揮する。

 だが、誘惑する音を聞き、それを打ち消すようにエレナは首を振ると、


「お断りよ!」


 明確な意思を持って、魅了の魔法を跳ね返す。


「……なぜ、お前には効かない」


 近い距離で、夜会のときより強くかけた魅了が効かない事にカルマは怪訝そうな顔をする。


「言ったはずです。私はもうサザンドラ家のカナリアなどではなく、エレナ・アルヴィンである私は"彼のためにしか歌わない"と」


 強い意志と信念を掲げ、全力で運命に抗おうとするエレナ。

 そんなエレナの姿はカルマの加虐心を掻き立てた。


「そうか。では私のために歌いたくなるように仕向けてみるのも一興だな」


 口角を上げ優雅に笑うカルマは、エレナの紫水晶の瞳を見ながら、


「時間はたっぷりとある。いつまで抗えるかお手並み拝見といこうか」


 まるで新しいおもちゃでも見つけたかのように楽しげにそう言った。


 カルマとのやり取りを終え、退出したエレナは廊下を歩きながら外を眺める。


『これで魔力回路回復のための再生医療魔法の施術は終わりました』


 ソフィアにそう告げられた時の事を思い出す。


『ただし、身体が回復しきるまで時間がかかります。次の満月までは、決して魔法を使わないでください』

 

 生憎と雲が空にかかっているため、今日が満月なのかは分からない。

 攫われた日数や今まで窓から見えた月の形からその日に近いことは間違いない。

 日を違えていて、再度魔力回路の故障を起こしたら次はない。

 だとしても。


「……やるなら、今日ね」


 この国を混沌に落とす首謀者であるカルマが王都を後にした。という事は彼が自国に帰還するのは目に見えている。

 このままおとなしくノルディアに連れて行かれる気はない。


『必ず、ヤツが隠し持っているはずです』


「探さなきゃ」


 リオレートを縛りつけ苦しめた。

 そして、何人もの人間を魅了で従わせ支配者らしく綺麗な場所からほくそ笑んでいるカルマ。

 その彼の最大の武器。


「ノーラの研究記録。必ず取り返すわ」


 拳を握りしめたエレナは耳を澄ませたまま、押し込められている部屋とは違う方に走り出した。


 ヒトの気配を感じ、エレナは息を殺し身を潜める。鬼ごっこは得意だ。何せバーレーであのルヴァルから逃げ回っていたのだから。

 誰とも遭遇せずにエレナは目的の部屋の前に足を止める。


「……ここ、ね」


 ここに連れて来られて以降、エレナは実家の納屋のような部屋に閉じ込められた以外にもマリナから雑用を押し付けられ使用人のようにこき使われた。

 そのおかげで屋敷内のおおよその見取り図と出入りする人間の配置は把握できている。

 そして、それらの足音とは違う人物がこの屋敷に足を踏み入れ一番に立ち寄った場所。それがこの書斎だった。

 エレナは鬼ごっこの最中こっそり拝借した鍵を使って忍び込む。


「絶対、ここにあるはずよ」


 カルマほどの人間なら常に護衛がついているか、必要な書類は使用人にとって来させればいい。

 だが、彼はそうせず一人でここに立ち寄った。

 ならば、そうするだけの理由があったはずだ。


『研究記録に使われている紙には特殊な魔法がかけてあり、フィリアの人間以外が長時間所持することはできないのです』


 魅了を解く実験でリオレートが一時的に自由になった時まず語ったのが研究記録の存在だった。これがリオレートに誓約をかけ縛る媒体でもあるのだという。

 魔法を自分のモノにするには触れなければならない。

 だが、肌身離さず懐に忍ばせ持ち運ぶことはできない。

 だから、きっとこの屋敷のどこかに隠していると思っていた。


「どこ? どこにあるの?」


 足音を聞き取ったおかげで部屋までは分かったが、それがどこにあるのかまでは流石のエレナも聞き取れなかった。書棚にならぶ本の山に素早く視線を走らせる。だが、それらしいモノは見当たらない。

 気だけが急いて、早くなった自分の心音が耳奥でこだまする。

 もし、見つからなかったら?

 回帰前に向けられたカルマの嗜虐性を思い出しぞくっと背筋に悪寒が走る。


「……ルルっ」


 思わずエレナがそう呟いたとき、


『落ち着け』


 と耳元でルヴァルの声が聞こえた気がした。

 それはルヴァルに何度も何度も言われた言葉。


『落ち着いてやれば大丈夫だ』


 戦う術どころか身を守る方法すら全く知らなかった。初めの頃は教えてもらったことも上手くできなくて、失敗を繰り返していた。だけどその度にルヴァルは叱ることなくいうのだ。


『レナならできる』と。


「落ち着か、ないと」


 私なら? とエレナは考えて壁を叩き耳を澄ませる。もし隠すための場所があるなら空間があるそこは音が違うはずだ。


「ここ!」


 異音を見つけた場所をそっと押す。するとカチッと音が聞こえ壁に現れた小さな扉が開く。

 中には古いノートが入っていた。エレナはそれに手を伸ばす。

 そこに書かれた文字には見覚えがあった。

 それは間違いなくエレナが保有する"カリアの記憶"で見たノーラの筆跡だった。

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