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63.その歌姫は、失踪する。

「そろそろ時間です」


 そう言って懐中時計を手にしたリオレートが姿を現わし、ルヴァルに声をかける。


「ああ、そうだな」


 いつも通りの口調でそう応じたルヴァルは、


「首尾は?」


 と短くリオレートに確認する。


「滞りなく」


 何の問題もないとルヴァルに告げたリオレートは、


「エレナ様もそろそろご準備願います」


 茶会の時間だと促す。


「そうね、そろそろ行かなくちゃ」


 ありがとう、とリオレートに礼を言ったエレナは、


「私も"辺境伯夫人"を頑張ってくるね」


と淑女らしくカーテシーを行い背筋を伸ばす。


「面倒になったら、うちのテントでサボっていてもいいぞ」


 揶揄うような口調でそういうルヴァルに、


「そういうわけにはいかないでしょ? それに私だって、ルルやみんなの役に立ちたいの」


 エレナは笑う。


「ルルもお仕事頑張って」


 エレナはそう言って別れを告げ、行きましょうとリオレートを促す。


「……リオ。エレナを頼んだ」


「ええ、勿論」


 真剣な顔で頷いたリオレートは、


「エレナ様を会場までキチンとご案内いたします」


 そう言って恭しく礼をすると踵を返して歩き始めた。



******


 リオレートの案内に従って、エレナは歩みを進める。

 狩猟大会中、貴族の令嬢や夫人達は各々の家門が準備しているテント付近でお茶会を開いて交流をしつつ過ごすのが慣例らしい。

 今回エレナ自身はお茶会を開かなかったが、偽造通貨防止のための判別機器製作に寄与したことでエレナ自身が注目を浴びたこととアルヴィン辺境伯と近づくチャンスと捉えた貴族達から数多くの招待を受けていた。

 エレナが大変な時には手を差し伸べなかったくせに、現金なものだとルヴァルが顔を顰めたのを嗜めたのはほんの数日前の事で。

 こんな事態も想定して屋外でも動きやすくお茶会に参加できるドレスを作ってくれたんだなとバーレーにいるメリッサに感謝した。

 お茶会会場に続く道をリオレートに案内されていたエレナはぴたりと足を止める。


「どうされました、エレナ様?」


 エレナの耳が拾えるヒトの気配が少な過ぎるのだ。

 ここは確かに貴族の令嬢や夫人達が集う休憩エリアとは少し離れているけれど、自分以外にも狩りに出向く夫や婚約者、意中の相手の見送りにいく人は沢山いたはずなのに。

 風が木々の間を吹き抜け、エレナの黒髪をはためかせる。

 "エレナ"と自分を呼ぶ小さな声と共にふわりと、まるで蛍のような淡い光が現れてエレナの周りに浮かんで消えた。

 小さな光は再び現れ、エレナの周りを舞う。まるで、エレナを誘っているかのように。


「そう、あなたは……」


 エレナは悲しげに目を伏せる。


『エリオットが失踪した』


 その話はルヴァルからもジルハルトからも聞いていた。


「踏み止まれなかったん……ですね」


 この淡い光が大好きだった。

 でも、それはもう過去の話だ。

 エレナはゆっくりと呼吸を落ち着けて、顔を上げるとふわりと離れていく光の方に足を向ける。


「……エレナ様っ」


 お茶会会場とは違う方向へ歩み始めたエレナを引き留めるようにリオレートは声を上げる。

 リオレートの黒い瞳が、エレナをそちらに行かせたくないと訴える。

 強い命令に背こうとするなんて痛いだろうにリオレートは本当に優しいなとエレナはリオレートの体内で淀み爆ぜる苦しい音を聞きながらそう思う。


「大丈夫よ、リオ」


 だからこそ、自分は行かねばならない。

 エレナはリオレートの手を取り笑う。


「言ったでしょう? "辺境伯夫人、頑張る"って」


 みんなで、一緒にバーレーに帰りましょう。

 そういってエレナはそっと手を離し、ゆっくりリオレートに背を向ける。

 招待されたのなら、応じなくては。

 何故なら売られた喧嘩は高値で買うのがバーレー流なのだから。


「私は、もう二度と」


 回帰前の人生の最期が脳裏をよぎる。本当は怖くてたまらない。

 だが。


「大事なモノを奪わせない」


 そう言って自分を奮い立たせたエレナは、静かに森の中に消えていった。

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