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60.その歌姫は、画策される。

*****


 役者はそろい、舞台は整った。

 後は狩り取るだけだ。

 貴人向けに作られた豪奢な椅子に腰掛け、真っ赤なワインを口にして、カルマは楽しげに口角を上げる。


「で、"破滅の魔女"はいつ頃回復するんだ?」


「……医師の……記述に、よれ……ば。エレナ様への、施術自体は済んでおり……あとは魔力回路への正常な魔力の流れの確認、と魔力負荷に耐えられる……だけ、のリハビリがっ」


 顔を伏せ床を眺めながら、息も絶え絶えにそう話す男の前に音もなく立ったカルマは、


「私が聞きたいのは、経過ではない。私がこの国を出るまでに魔女を回収できるのか、ということだ」


「……っ」


 容赦なく靴で報告していた男の手を踏みつける。


「建国祭が終わるまでの2週間では、難しい……かっ」


 ギリギリと踏み混じられる手の痛みに小さく呻き声を漏らしただけで淡々と報告を続ける男の反応に、やや興が削がれたような顔をしたカルマは、床に跪く男の頭を蹴り飛ばす。

 無抵抗の所に容赦ない蹴りが入った事で、床に倒れ込んだ男の顔から仮面が外れ、口内には血の味が広がった。


「私は"難しい"だとか言って誤魔化す言葉が嫌いなんだ。勿論"できない"なんて無能なセリフも」


 男が被っていた黒いフードを乱暴に引き剥がしたカルマは、


「知っているだろう? リオール・ルディ・ファリアーノ」


 髪を鷲掴みにして男の顔を覗き込み、その名を呼び、


「ああ、今は"リオレート・グランデ"だったか」


 嘲笑するように言い直す。

 リオール・ルディ・ファリアーノ。今はもう存在しない小さな魔術国家フィリアの正統な継承者、だった男の名。

 国自体が滅んでしまえば、最早王族であった事実もファリアーノという姓にも意味はない。

 だが、リオレートという名は特別だ。


『過去を背負ったまま、新しい名前で生きればいい』


 真実を告白した時にバーレーの前当主はそう言って迎えてくれた。


『リオ』


 ルヴァルの声が耳の奥で反響する。

 バーレーで暮らし始めてすぐ、年の近いルヴァルから側近に指名された。


『俺より先に死ぬ事は許さない』


そう言って差し伸べられた手は暖かかった。その大切な名を、この男には軽々しく呼ばれたくないとリオレートは奥歯を噛み締める。


「……存じ上げております」


 それでもリオレートにできるのは、嗜虐性の浮かぶカルマの瞳を無抵抗のまま見返すことだけで。


「そして、私があなたを裏切れない事は……誰よりもあなた自身が、よくお分かりのはずです」


 締め付けられ身を捻じ切られるような苦痛に耐えながら、リオレートは淡々と答える。

 救ってくれた前当主の恩に報いるためにもこの命がある限り、バーレーのために尽くすと決めた。

 ルヴァルには詳しい事情は話さなかった。それでと構わないと言ってくれたルヴァルを主とし、リオレート・グランデとしてバーレーの発展に尽力する。

 その誓いは今も胸にあるのに。

 もう幾度となくそれを裏切り、情報をカルマの手駒であるマリナに流した。

 偽造通貨をばら撒く前に、アルヴィン辺境伯領では完全に領地通貨に切り替えたことも、エレナの様子も、この男の欲しがる情報全て。


「そうだ。お前は決して私から逃れられない」


 カルマの翡翠色の瞳が妖しげに光り、リオレートに心臓を直接鷲掴みにされたような痛みが走る。

 フィリアの王族。その呪われた血がこの身体を流れる限り、どんなに逃げても鎖のように纏わりついてこの男の支配からは逃れられない。


「お前は私の人形だ」


 リオレートの身体から自由が消え、硬く強張ったタイミングでカルマは手を離し、リオレートは床に叩きつけられる。

 その状態のリオレートの頭部をカルマは靴のまま容赦なく踏み躙った。


「まぁ、同胞にお前が味わった以上の苦痛を与えたいのなら、別に死んでも構わないが」


 自分だけで済むのなら、リオレートは迷わず命を絶っただろう。

 だが、フィリアの生き残りがこの男の手にある以上、それすらできない。

 リオレートは無力な自分を恨むように拳を握りしめる。


「命令だ。魔女を使える状態にし、奪え」


 あれは私のモノだ。そんなリオレートを嘲笑いながら、カルマは命令をする。

 この男の手にエレナが渡れば、どんな扱いを受けるのか簡単に想像できる。

 嫌だ、と抗いたかった。

 だが、魅了の呪いで繋がれたこの身体はいうことをきいてくれない。


『大丈夫よ、リオ』


 リオレートはエレナの姿を思い浮かべる。紫水晶の瞳からポロポロと涙を流しながら、


『ルルの憂いは私が全部払うから」


 だから、大丈夫と彼女は笑った。


『絶対、生きて帰りましょう。みんな一緒に、バーレーに』


 そう、できたらどれだけ良かっただろう。

 リオレートにとってそこは人生の大半を過ごした、故郷とも呼べる大事な場所で。

 親友であり、主であり、家族と呼べるルヴァル・アルヴィン辺境伯の領地。


「……カルマ様の、仰せのままに」


 ルヴァルの大事にしているモノを土足で踏み躙る。

 それはリオレートにとって、死より辛い事だった。

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