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37.その歌姫は、風習に倣う。

「金でレナの事買った俺が言うな、って話なんだが。お前の周りの男、前世から含めて全員もれなく最悪だからな」


 気を取り直したルヴァルはエレナにキッパリとそう言い切る。


「……お父様から私をお金で買ったの?」


 驚いたようにルヴァルに尋ねるエレナを前に、


「ああ、そうだ」


 と淡々とした口調でルヴァルは肯定する。ヒトとして最低な事をした自覚はあるので、エレナから責められようが、避けられようが甘んじて受け入れるつもりだったのだが。


「そっかぁ、お金。私、自分の買取額に見合うくらいこれから一生懸命働くね!」


 ルルに損させないとエレナはキラキラと瞳を輝かせ意気込む。


「いい子か! 話が通じねぇ」


 なんだろうか、この可愛い生き物は。

 一度懐いたら離れず裏切らないドラゴンの親戚かと、毒づきながらルヴァルはエレナの柔らかく白い頬にそっと触れる。

 ルヴァルの長い指が自分に優しく触れたのを見たエレナはそっと目を閉じてコテンと身を寄せる。

 だからこう言うのが無防備過ぎると言っているんだがと思いつつ、エレナにこうされるのは嫌いじゃないとルヴァルは少し困ったように笑って、指でそっとエレナの形をなぞった。


「レナ、大事な事を教えておく。男の厚意は9割下心。ハイ、復唱」


 これ以上流されまいと仕切り直したルヴァルがエレナにそう諭す。


「それは、流石に偏見が過ぎないかしら?」


「残念ながら事実だ」


 エレナはルヴァルの偏見塗れの教えに異を唱えるも、秒で否定される。


「……じゃあ、ルルは?」


 と静かに紫水晶の瞳が尋ねる。


「ルルの事も警戒しなくてはダメなの? ルルは今、私の旦那様なのに?」


 真っ直ぐに自分の方を見て問うエレナにルヴァルはたじろぎそうになる。

 初めの頃と違って、そらされる事のなくなった感情を写す紫水晶の瞳。

 自分の側で楽しげに歌を紡ぎ、自分に寄り添って信頼を向けてくれるエレナを傷つけるような事はしたくないとルヴァルは強く思う。


「……俺も男だからな」


 例外はない、とルヴァルは苦笑気味に申告する。


「けどまぁ、何もしないから安心していい」


 説得力がないかもしれないが、というルヴァルの声を聞きながら、


(見る目、あると思うけど。だって私が好きになった人はこんなに優しい)


 エレナは内心でそう反論した。


 不服そうなエレナの表情をみて、絶対話半分にしか聞いてないなとルヴァルは髪をぐしゃぐしゃと撫でる。そのままクルクルとエレナの髪に指を絡めて弄ぶが、


「ふふ、髪ぐしゃぐしゃ。また整えないと」


 エレナに警戒心が戻るどころか、むしろ嬉しそうな声でお好きにどうぞと笑う。

 そんなエレナを見ながら、元婚約者の前でも彼女はこうだったのだろうか、と想像して急に焼けつくような嫌な感情が沸いた。


「もう、おしまい?」


 手が止まったルヴァルに少し残念そうな声でエレナが尋ねる。


「何、撫でられたいの?」


 ルヴァルが少し意地悪げに口角を上げてそう尋ねると、


「ルルに撫でられるのは好きだから」


 エレナはあっさりそう肯定した。紫水晶の瞳は真っ直ぐに自分を映して笑う。そんなエレナを見ながら、ルヴァルは戸惑う。

 こんなに素直で無防備な人間は今まで自分の周りにはいなかった。正直彼女をどう取り扱うのが正解なのかが分からない。


「……真面目な話、フィリアの魔術師に付いて行っていたら、お前確実に囲い込まれて嫁にされてたからな?」


 こんなに無防備では、あっという間に悪い人間の餌食になってしまう。

 エレナが可愛いと思う一方で、ここで彼女が生きていくにはあまりに危いと危機感を持ちつつ、ルヴァルは言葉を続ける。


「ノーラはそんな事しないと思うけど。魔術師見習いにするって言ったし」


 平民が王子様に嫁ぐなんて許されるのは物語の中だけよ? とエレナはそう言って笑うが、ルヴァルにはそうは思えない。賭けてもいいが100%下心があったに違いない。


「あのなぁ、レナ。そもそもノルディアに目をつけられた原因フィリアの魔術師のせいだからな!?」


 研究記録の保管くらい徹底しておけよとルヴァルは突っ込まずにはいられない。


「ノーラを悪く言わないで欲しい。初めてできた友達、なの」


「"何があっても守る"なんて、できもしない約束する奴は信用するに値しない。国の中央にいる人間がそんなだから国が滅ぶんだ」


「滅ん……だの?」


 あの後ノーラが助かっていたとしても、年代的に生きていないのは分かっていた。

 それでも彼が大事そうに語っていた国がもうないのだというのは、エレナにとっては衝撃的な事実だった。


「戦があれば滅びもする。フィリアの民で生き残っている者などほとんどいない」


 事もなげにルヴァルがそう言った言葉にエレナは小さくそうとだけ答え目を伏せる。

 私のせい? と言葉にせず内心でつぶやいたエレナの心情を見透かしたように、


「勘違いするな。ノルディアとフィリアの争いに"カナリア"は関係ない」


 ルヴァルは淡々とした口調でそう告げる。

 なお蒼白いエレナの横顔を見たルヴァルは、何の足しにもならない慰めの言葉の代わりに、爪が食い込むほどぎゅっと固く拳を握っているエレナの手を取り、それを解きながら言葉を続ける。


「そして、このままだとうち(マシール王国)はフィリアの二の舞だ」


 ルヴァルの真剣な声に共鳴し、エレナは息を呑む。


「……ルルは、その未来を生きたのね」


 ここは国の防衛最前線だ。

 争いがあったのなら真っ先に舞台に引き上げられるのは、間違いなく彼だろう。

 そして、ルヴァルは1回目の人生を終えたのだとエレナは悟った。


「あの時足らなかったピースはここにある。戦えるか、レナ」


 青灰の瞳がエレナに覚悟を問う。

 あの時の自分には、守りたいものなど何もなく。

 ただ流されるまま、自分の立ち位置も分からず、全てを奪われた。

 だけど、どんな巡り合わせなのか、自分は今確かにここにいる。


「今度は何も奪わせないし、誰にも傷ついて欲しくない」


 答えなんて、とっくに決まっている。

 ここは要塞都市バーレー。

 売られた喧嘩は高値で買うのが礼儀だろう。


「さぁ、反撃を始めましょうか。アルヴィン辺境伯(お館様)


 すっかりここの風習に染まった紫水晶の瞳は、臆する事なく反撃の狼煙を上げた。

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