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34.その歌姫は、約束を交わす。

 ヒトの中で生きていく。

 そんな事を考えてみたこともなかったカリアは、できるわけがないと否定しようと何度も何度も自分自身に首を振る。

 だがその度にノーラの誘いとそれに付随する出来事を思い出し、ドキドキと音を立てる胸の高鳴りを無視できず、苦しくなった。


『どうした、カリア』


 そんなカリアの変化に気づき、神獣が声をかける。 

 いつも通りの優しげな音にカリアはホッとしながら、その羽に顔を埋める。

 ノーラについて行くということは、彼女を裏切るということだ。

 彼女には、今まで守り育ててもらった恩がある。ただでさえ近づいてはいけないと言われた人間と内緒で関わっているのだ。

 これ以上、彼女を裏切るなんて。

 そう思っていたカリアの心に語りかけるように声が聞こえる。


『大事な、大事な、私のカリア。私はお前に幸せに生きて欲しい。自由でなければ、歌姫とは心のままに歌うことができない。我々はカリアが祈りを込めて歌ってくれれば、どこからであったってその歌の魔法を聴くことができる』


 だから、お前は好きに生きて良いんだよと神獣は歌うように言葉を紡ぐ。

 神に名を連ねる母には全てお見通しらしいと悟り、カリアは大好きな彼女に抱きつく。


「私、本当は」


 ヒトの中で生きてみたい。

 受け入れてくれるというのなら、ノーラの手を取ってみたい。

 そう言ったカリアを神獣は責めることなく優しい包む。


『だけどね、カリア。忘れないで。人間はとても欲深い生き物で、ほんの僅かな利益のために平気で裏切り常に争っている種族なんだという事を』


 我々の中で育ったお前は少し素直過ぎるから。

 カリアが旅立つ事を引き留めることはしなかったが、カリアにそう忠告した。

 

 ノーラと一緒に行きたい。そう返事をするとノーラは顔を綻ばさせ、すぐに準備をすると返事をくれた。

 カリアが生まれ育った国、この『ノルディア王国』では全ての国民は王の所有物とされ、勝手に国を出る事は許されない。

 移民として国を出るためには、多額の『身請け金』と『許可証』が必要だった。

 どちらも簡単に手配できるからと難なくいったノーラは、


「フィリアは小さな国だけど、魔法の文化で溢れていて、人も優しいのどかなところだからきっとカリアも気にいる」


 と嬉しそうにそう言った。


 程なくして、黒髪が目立たないように深くフードを被ったカリアは、ノーラに連れられて王城に出向くことになった。

 ノーラが言った通り、あっという間に許可証が発行されたらしい。

 初めて見る身分証にドキドキしながらカリアはお礼を言って受け取る。

 わぁと感嘆の声を上げたカリアの黒髪を優しく撫でながら、


「実は私はフィリアの宮廷魔術師であると同時に第3王子なんだ。君を連れて行くにあたり、ノルディアの陛下に謁見しなくてはならなくて」


 と申し訳なさそうにノーラは告げる。


「えっ? 陛下……って、王様?」


「大丈夫。君をフィリアの魔術師見習いとして貰い受ける形で、ノルディアにはすでに話を通してあるし、形式的なモノだから」


 ほんの数分、我慢してくれる? とノーラは尋ねる。

 カリアの脳裏に幼少期の記憶が浮かぶ。

 目の見えないカリアに『黒髪』『忌み子』『不吉』『破滅の魔女』と口々に罵りながら石を投げてきたこの国の人達。

 その代表の前に、数分とはいえ姿を晒すのは正直怖い。


「大丈夫。カリアの事は何があっても私が守るから」


 不安そうに俯くカリアに、


「フィリアに着いたら、カリアに見せたいものが沢山あるんだ。一緒に国に帰ろう」


 ノーラはそう言って優しく笑う。

 不安はあるけれど、その先のノーラとの生活を想像して、カリアは静かに頷いた。


 王の間での謁見。

 それは形式的なモノで、ほんの数分で終わるハズのものだった。


「これは、どういう事だ! 私をフィリアの第3王子と知っての狼藉か!!」


 腕を取られ捻じ上げられ、床に押し付けられたカリアは、冷たく硬いその床から僅かに視線を向け、捉えられカリアを離せと叫ぶノーラの姿を目に映す。


「それは、罪人だ」


 罪人、という言葉にカリアは驚き目を見開く。


「カリアが何をしたというのだ」


「黒髪で生まれただけでも大罪だが、さすが破滅の魔女。文献通り"黒い沼"を呼び出し、魔物を生み出し、それを操って我が兵を殺戮した」


「言いがかりだ!! 彼女は何もしていない。ただその場に居合わせ、私の命を救ってくれただけだ」


「それすらもフィリアの王子を味方につけようとする魔女の策略。それに落ちたノーラ殿下、あなたも同罪であり、我が国への裏切りだ」


 言われている意味が分からなかった。

 どう見ても言いがかりでしかないそれが、罷り通るこの国が、ただ怖かった。


「罪人は等しく裁かれなくてはならない。本来なら即刻処刑すべきだ」


 無理矢理顔を向けさせられたカリアは、淡々とした口調で恐ろしい言葉を放つ、玉座に座るその男を瞳に映す。


「が、そこの魔女は面白い魔法を使うそうじゃないか。償いとして、我が国の発展のために使ってやる」


「……私の研究記録、何故貴様が持っている!」


 ノーラの叫び声がカリアの耳に届く。


「敵国で、不用心が過ぎる。口は災いの元、生意気な口は要らぬ争いを呼ぶ」


 王がパチンと指を鳴らすとノルディアの兵はノーラの腕に全ての魔術を組めなくさせる腕輪を嵌める。


「敵……国。同盟を反故にする気か!」


「これだけ有用なコマがあれば、貴国の魔法技術は不要だ。全面戦争と行こうじゃないか」


 ニヤリと笑う欲深いその姿にカリアは寒気を覚える。

 

「……嫌な……音」


 カリアには交わされる言葉のほとんどが理解できなかったし、何故こんな状況に陥っているのかもよく分からなかった。

 だが、今自分の耳に聞こえる"音"は全部怖い響きを持っていて、ただただ不快でしかない。


「まずは"魔女の力"を見せてもらおうか。おい、お前! この王子が殺されたくなければ我が国のために歌え」


 カリアの目の前に、喉元にナイフを突きつけられたノーラとゾロゾロと連れて来られた廃人のようになっている人間が並べられた。


「これを治して見せろ。その後は乏しく植物が育たない区域の改革。やる事は山積みだ」


「カリア、こんな奴の言う事を聞いてはいけない」


 そう叫んだノーラの首に当てられたナイフが引かれ、血が滲む。


「あまりうるさいと手元が狂うぞ」


 ノーラから流れる血を見てカリアは悲鳴をあげる。

 ノーラの首から流れる血が床を赤く染める。


「さぁ、王子が死ぬぞ。さっさと歌え」


「なんて……事を」


 カリアの歌は"不調の綻び"を直すものであって、全ての怪我や病を治すものではない。

 万能の力ではないというのに、この男はそれも知らず自分に治させるためにノーラを傷つけたのかとカリアは目の前が真っ暗になる。


「……カリア、ダメ……だ」


 息も絶え絶えに、ノーラはカリアを止める。


「カ、リア」


 ノーラの声を聞きながらカリアはゆっくり目を閉じ、呼吸を整えて耳を澄ませる。


『我々はカリアが祈りを込めて歌ってくれれば、どこからであったってその歌の魔法を聴くことができる』


 そう言って送り出してくれた神々しく美しい鳥を思い浮かべたカリアは、


「人間とは、なんて……欲深いのかしら?」


 お母様の言った通りだったと嘆き、ゆっくり息を吸うと静かに音を紡ぎ出す。


「〜〜〜♪----♪」


「なんと、美しい」


 カリアが歌を紡ぎ始めると先程までの不快な音は全て消え、この空間にはカリアの歌声だけが響く。

 カリアの歌に聴き惚れた人達の動きが止まる。


「……ごめんなさい、ノーラ。私、やっぱり"破滅の魔女"みたい」


 歌を紡ぎ終わったカリアがそうつぶやくと、ガラスが割れて一羽の神々しく輝く鳥が舞い込んで来た。


 それからノルディアの王城や城下は大混乱だった。

 ノルディアの兵達は大きな鳥を討伐しようと一斉にカリア達に襲いかかった。

 逃げなくては。

 神獣の背でカリアは懸命に歌を紡いだ。

 カリアが応急処置を施したノーラは混乱に乗じてフィリアにそっと返し、言葉も交わせぬままに別れを告げた。

 全てから逃げ切って神獣が力を使い切りその身を地面に置いた時、カリアはようやく歌う事をやめた。

 逃げて、逃げて、逃げて、行き着いたその先は、ノルディアの王城や神獣の領域から遠く離れたマシール王国の南部の土地だった。


「お母様っ!!」


 魔法と武器を駆使した人間からの総攻撃。

 カリアの事を守りながら戦ったカリアの"母"である神獣は、逃げる最中いくつもその身に弓矢が刺さり深傷を負っていた。


「嫌、死なないで」


 一人にしないでと泣くカリアを羽で優しく包んだ神獣は、


『何事にも終わりはある。変化を恐れてはいけない』


 と優しい口調で嗜める。


『カリア、最期にお前に神獣の力を譲り渡そう』


 そんなものいらないから生きて欲しいと嫌がるカリアに優しく笑う神獣は、


『私はこの世界に存在する"全ての音"を司る。この力はきっとお前の助けになる』


 そう言って言葉を紡ぐ。


『荒れ狂う神獣や魔獣に正気を取り戻させるのも、身体を食い荒らす魔力を鎮める事ができるのも、全ては"音"の力なんだ』


 世界で一番優しいその音は、大丈夫とカリアを安心させる。


「音の魔法」


 カリアはその魔法を本能で理解する。まるでずっと昔からその役目を知っていたかのように。


『私の代わりにこの力でこれから先も我らが同胞たちを癒して欲しい』


 いつか、カリアがこの力を必要としなくなるその日まで。

 その神獣の最期の頼みをカリアは泣きながら受け入れた。

 生きなさい。

 そう言い残して、神獣は光と共に消えた。

 こうしてカリアの中には"神獣の力"が宿ったのだった。

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