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31.その歌姫は、打ち明ける。

 静かにドアを開ければ微かに歌声が流れて来た。ルヴァルはそれを邪魔しないように足音を消してそっと近づく。


「……〜〜♪ーー〜〜♪〜〜♪」


 月明かりだけが頼りの薄暗い部屋の中、窓辺に置かれた椅子に座り、エレナは静かに旋律を紡ぐ。

 エレナの声で紡がれるそれは、綺麗な音だけを並べた歌詞のない優しい歌。

 開けた窓から風が入り、カーテンをはためかせる。

 その光景はどこか幻想的で、一枚の絵画の様だった。


「……起きてたんだな」


 エレナが歌い終わったタイミングでルヴァルが声をかける。


「眠れ……なくて」


 それに、今晩はなんとなくルヴァルが部屋を訪ねてくるのではないかと思っていたとエレナは心の中で付け足す。

 宙でゆっくりと紫水晶の瞳と青灰色の瞳が絡み、部屋に沈黙が落ちる。


「私は……ルルの、役に……立てた、かしら?」


 それを破ったのはエレナで、彼女は静かにそう尋ねた。


「ああ、すごく」


 エレナの言葉に頷いてそう答えたルヴァルは優しく笑うと、


「どうせ眠れないなら、夜の散歩に出ないか?」


 今夜は空気が澄んでいて月も星もよく見えるからとエレナを誘う。


「素敵……ね」


 エレナは差し出されたルヴァルの手を取って、よろしくお願いしますと微笑んだ。



『キュー、キュキュー』


 ルヴァルに手を引かれてやって来たのはドラゴン達の小屋で、エレナに気づいたドラゴンが甘えたような声を上げる。


「ふふ、こん……ばんは、セレスト」


 エレナは答えるように小さく囁き、優しい手つきでそっと撫でる。

 このドラゴンは初めてエレナがここに連れて来られた時に乗った子で、まだ正式な主人がおらずルヴァル預かりになっていた個体だったが、今ではすっかりエレナに懐いてしまいルヴァルとエレナ以外を乗せたがらないのでそのままルヴァルのドラゴンになってしまった。


「夜間飛行、レナは初めてだな」


 そう言ってルヴァルは羽織をエレナの肩にかける。


「着ておけ」


 夏とはいえこのバーレーでは夜も冷える。特に上空は。

 そう言ったルヴァルに素直に従ったエレナ

はその羽織の軽さに驚く。


「可愛い、デザイン。それに暖かい。これも……魔法?」


「ではないが、うちは部外秘だらけなんだ」


 そう言ったルヴァルの誇らしげな顔を見ながら、


「ルル、も……秘密、いっぱい?」


 とエレナは尋ねる。


「……ああ、そうだな」


 少しトーンの低くなったその声音を聞いて、


「そう」


 とだけエレナは返すとそれ以上追求する事はせず、


「私、と一緒、ね」


 と小さく笑った。


 上空は冷たい風が吹いていたけれど、空気はとても澄んでいて心地よく、大きな月と煌めく星々が近くてとても幻想的な光景だった。

 自分とルヴァル以外存在しないのではないかと思うくらい静かな夜に、エレナは耳を澄ます。

 聞こえてくる音は、まるで音楽を奏でているかのようで、世界は優しい音で溢れている。

 何かを打ち明けるなら、きっとこんな夜が良いのだろう、とエレナはそっと目を開ける。


「ルルに聞いて欲しい話があるの」


 いつものように喉に言葉がつっかえる事はなく、するりとエレナの口から声が出る。


「カナリアはね、その能力に目覚めた時一つの歌物語を継承するの」


 本当は、カナリア以外には話しても歌ってもいけないことなんだけどと母から聞かされたその話を思い出すようにエレナは言葉を紡ぐ。


「いいのか、そんな話を俺にして」


「ルル、だから聞いて欲しい。それに、カナリアとしての能力を失くし、理から外れた今の私にはその制約は効かないし」


 だから、自由を手にした"今"しかないのだ。

 運命を変えるチャンスは。

 変えたい。

 そう決意したエレナは、自分を落ち着けるように大きく一呼吸をすると、


「ルルは、神様っていると思う?」


 静かにそう尋ねる。


「私、神様に会った事があるの」


 エレナの言葉にルヴァルは静かに耳を傾ける。そんなルヴァルの雰囲気を感じ取ったエレナはトンっとルヴァルに信頼と身体を寄せる。


「正確に言うなら、神様とその約束をしたのは"今の私"になるより遥か昔の"誰かだった私"。私の中に音と共に受け継がれている"最初のカナリア様"の記憶の話」


 どうして、コレを思い出したのか私にも分からないんだけど、と前置きをしたエレナは歌を紡ぐように、静かに物語を紡ぎ出す。


『昔、昔、或る所に"歌姫"と呼ばれる一人の歌い手と金色の羽を持つ、鳥の形をした神獣がおりました』


 それはかつて起こってしまった、悲劇の物語。

 だが、その物語は時を経て、いくら代替わりを果たしても結末を迎える事ができずに、運命の鎖に繋がれたまま、ずっと受け継がれているのだ。

 "カナリア"という名称で。

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