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26.その歌姫は、声を上げる。

 今の時間は絶対大丈夫ですから、と言われ訪れたルヴァルの執務室の前でエレナはピタリと足を止める。

 閉じられたドアの向こうで、どう聞いても怒鳴り声がする。


(ノクスとルルの声)


「どうしました、エレナ様?」


 側に控えていたリーファがエレナに尋ねる。


「……今、は」


 取り込み中みたいだから出直しましょうとエレナが言うより早く、


「え、大丈夫ですよー中にいるのノクスですし」


 ぐっと親指を立てたリーファがノックもせずドアを勢いよくバンっと開けた。


「だーかーらー! 無理なもんは無理だって言ってんだろがぁぁぁあ!!!! 錬金術師は便利屋か!?」


 ドアを開ければはっきりとノクスの怒鳴り声が廊下に響く。


「その難題を解き明かすのが錬金術師の矜持じゃないのか?」


 しれっとルヴァルはそう言うが、


「だからってあるかどうかも分からないモノ求めて全数魔法で成分分析!? しかもコレは王国通貨だぞ!? 故意に傷つけて改竄と見なされたらどうなるか分かってんのか!?」


 一切引く気のないノクスはバンっと机を勢いよく叩く。

 力一杯叩いたのか机が凹む音とコインの跳ねる音がした。


「まぁ、偽造の疑いがかかれば首は飛ぶな。反逆罪で」


 知ってると当たり前のように言ったルヴァルは静かに頷いて、


「まぁ、バレなきゃ問題ない。というわけでやれ」


 と命令を下す。


「"やれ"じゃねぇーわ! できるかぁーーーー!!!!」

 

 ノクスの一際大きな声に驚いて、エレナは手に持っていたバスケットを落とす。

 どう見たって修羅場じゃないかと目をグルグル回しながら助けを求めるようにエレナはリーファに視線を送る。


「私にお任せください」


 エレナが落としたバスケットを拾い、リーファは一切動じる事なく満面の笑みでそう言い切る。


「で、2人はどうした?」


 叫びきって肩で息をするノクスをスルーして、ルヴァルはドアの前で立ち尽くすエレナと平常運転のリーファに声をかける。


「お館様、お茶しません? エレナ様の手作りお菓子付きですよー」


 すぐさま出て行こうと回れ右をしそうなエレナを捕まえると全面に押し出したリーファがそう誘う。


「そうか、ちょうど話もついたところだしもらおうか」


 いや。

 いやいやいやいやいや。

 どう見ても話ついてないよね!? とルヴァルの言葉にエレナは驚き目を大きく見開くが、


「はーい。じゃ、すぐ用意しまーす♪」


 そんなエレナの心情と嘆きの言葉をつぶやくノクスは置き去りで、ルヴァルの態度をさも当然と受け取ったリーファ。


「ね? エレナ様、大丈夫だったでしょ」


 とリーファは部屋の惨状などなかったかのようにそう笑う。

 そうか、大丈夫か。

 エレナはふふっと綺麗な笑みを浮かべて考える。

 先程机の上だけでなくルヴァルの後ろにある袋からも確かにコインが跳ねる音が聞こえたけれど。

 音と袋の大きさから見て結構な金額のコインだと推察されるけど。

 偽造を防止する為保護魔法がかかっている王国通貨に許可なく魔法の類をかけるのはそもそも違法行為だけれども。

 いかに特区であっても、犯罪行為は特別自治法の適応外だけれども。

 大丈夫。

 そうか、下手したら反逆罪の疑いをかけられて首が刎ねられるけれど大丈夫、か。

 ふむふむ、と状況を一つずつ整理したエレナは、

 

「だい、じょーぶ。って、どこが!?」


 人生で初めて盛大にツッコミを入れた。


 犯罪行為、ダメ絶対とダメ出しをしたエレナにお菓子を取り上げられたルヴァルはやや不服そうに、


「レナ、それ俺に差し入れに来てくれたんじゃないのか?」


 と、エレナの作ったフロランタンを所望する。


「ダ、メ! ちゃん……と、お話……終わるまであ、げな……い」


 だが、エレナは確固たる意志でバスケットを渡さない。

 そんなエレナを見守る2人はそれぞれ異なる反応を示す。

 エレナの成長ぶりに保護者目線で感動のあまり口元を覆い嬉し泣きしそうなリーファと嫁に意見されて困り顔のルヴァルを見てざまぁと指さして爆笑するノクス。


「ルル、犯罪……行為の、隠蔽は反逆罪。特区……でも、容認……はされ……ない」

 

「常識人! この城に俺とリオさん以外の常識人がいるっ!!」


 長かった、マジで長かったとつぶやくノクスは、戦況がひっくり返りそうな予感にノクスは上機嫌にエレナを応援する。


「ほら〜お館様! 嫁からの全力のダメ出し。聞き入れなよー」


 ニヤニヤしながらそう言うノクスにちょっとイラッとしたルヴァルは、


「お前はこんな小柄なレナの後ろに隠れて恥ずかしくないのか」


 と淡々とした口調で暗に離れろと圧をかける。


「ない! 俺は我が身が一番可愛い!!」


 だが、ノクスは恥ずかしげもなく堂々とそう言い切ると、


「ひーさん、この分からず屋にもっと言ってやって!!」


 エレナの後ろからルヴァルを指さしエレナを応援する。


「……なんだよ、ひーさんって」


 一文字も掠ってないが、と問いただすルヴァルに、


「"お館様のお姫さん"略して"ひーさん"」


 俺とひーさんは渾名で呼び合う仲なんですーとノクスは全力でエレナを盾にする。


「私、ノクス……を渾名、で呼んでない。……愛称、はルル……だけしか、呼んだことない」


 ふるふると首を振ってエレナは律儀に否定した。


「……だそうだ。とりあえずレナを返せ。そしてさっさとコレ分析にかけとけ」


 愛称呼びは自分だけ。

 そんなエレナの言葉に思いの外驚き、その"特別"にルヴァルは少し照れたようにそっぽを向いて表情が崩れないように眉根を寄せた。


「だから、嫌だって言ってんだろーが。そもそも、リオさんは知ってんの? あの人いたらこんなオーボーで、アホみたいなこと、絶対止めるだろーが」


 と姿の見えないリオレートについてノクスは尋ねる。


「リオなら建国祭の準備で王都にやっている」


 だから今なんだ、とルヴァルは内心で付け足す。


「安心しろ、犯罪歴ついても俺は気にしない」


 雇用形態変わらないし、王都に連れて行かれたら弁護士立ててやると真顔で話すルヴァルに、


「普通に嫌だわ! 安心要素ミリもねぇーー!!」


 ノクスがそうルヴァルに言い返す。エレナを味方につけたためノクスは強気な姿勢を崩さない。

 チッとルヴァルがため息をつくのを見たリーファは、


「あのぉ、お館様。ノクスを擁護する気は全くないんですけど」


 と発言する。


「いや、しろよ! あ、いやしてください」


 強めに抗議の声をあげたノクスを視線だけで黙らせたリーファは、


「何故、王国通貨を分析するのです? うちの領地ではほぼ出回っていないというのに」


 と疑問をルヴァルに投げかけた。

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