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25.その歌姫は、夢をみる。

 あ、まただ。と、エレナは夢の中で、"これは夢だ"と自覚する。

 バーレーに来てから、正確に言えばルヴァルに好意を持ち始めてから、見るようになったまるで実体験のようなとてもとてもリアルで"怖い夢"。


『どう……して?』


 真っ暗で湿った牢の中、エレナは鎖の音を聞きながら、マリナとその横にいる黒ずくめの男に問う。


『どうして? ふふ、可笑しな事を聞くのね。ヒトがヒトを嫌いになるのに、理由が必要?』


 マリナはいつも通りの口調でとても無邪気に笑う。ポンポンと手で扇子を弄んでいたマリナは、


『お姉様たら、盗み聞きなんてはしたないですわぁー』


 そう言ってピシャリと扇子でエレナの頬を叩く。その感覚が妙にリアルでエレナは身を竦める。

 

『……ふふ。それにしてもまさか、お姉様にこんな才能があったなんて、驚きだわ』


 一緒に暮らしていたのに、地味過ぎて気づかなかった、と楽しそうに笑ったマリナは、


『その能力、私が有効に使ってあげる』


 鈴の転がるような声でそう囁く。

 いや、やめてとエレナは叫ぶが、目は覚めない。


『使うだけ使ったらボロ雑巾らしく捨ててあげるから、逃げられるなんて思わないでね、お姉様』


 押さえつけられたエレナの事を見下ろすマリナは、


『この世のどこにも、あなたの居場所なんて存在しない。誰もあなたを助けたりしない』


 とても満足気に言葉を紡ぎ、


『ねぇ、沢山遊んだその後は、私のために死んでくれる? 大っ嫌いなお姉様♡』


 ヒールを鳴らして去って行く。

 真っ赤なドレスを見に纏い、優雅な所作で出て行く後ろ姿を見ながらエレナは思う。

 一緒に暮らしていたマリナ・サザンドラは果たしてこんな子であっただろうか、と。


******


「……様! エレナ様!!」


 ゆっくりと目を開けたエレナの紫水晶の瞳が少しずつ焦点を結ぶ。

 その目に映ったのは酷く心配そうな紅玉の瞳。


「リー……」


 リーファと呼ぼうとして、酷く喉が渇いている事に気づきエレナは咳き込む。

 水を差し出したリーファは、


「最近、うなされることが増えましたね」


 大丈夫ですか? とエレナの背をさする。ヒトの気配とリーファの手の温かさにホッとしたエレナはゆっくり頷き、


「だい……じょ、ぶ。ありがとう」


 と小さな声で礼を述べた。


「まだ、夜明けまでありますが眠れそうですか?」


 エレナは少し考えて、大丈夫と頷いた。


「リーファ、変なこと……きい、て……い?」


 大人しくベッドに戻りながらエレナは尋ねる。


「どうしました?」


「今、は……い……つ?」


「本日の日付でございますか? マシール王歴260年水月の7の日ですが」


「そ……よね、ありが、とう」


 エレナはホッとしたような顔を浮かべ、そしてゆっくり眠りに落ちていく。


(やはり"ただの夢"ね。私が知っているわけがないのだもの)


 たとえそれが本物のような感覚を伴った過去の記憶のように心に刻まれているものだとしても。

 まだ来ていない未来の出来事なんて、私が知るはずがないと何度も何度も見続けている様々な"怖い夢"の内容をエレナは考えない事にした。

 そうでなければ"今の幸せ"が壊れてしまいそうな気がしたから。



「……エレナ様、流石に作り過ぎではないでしょうか?」


 リーファに声をかけられてエレナがはっと手元を見れば、無意識のうちに大量の菓子が生産されていた。


「そしてお館様の好物ばかり」


 妬けちゃいますねぇと揶揄うようにクスクスと笑うリーファを前にエレナはううっと言葉に詰まる。

 ルヴァルが最近非常に忙しそうで、あまり会う時間もなく、自室にもピアノの部屋にも来てくれない。

 何か手伝える事でもあればいいのだが、仕事に関してできることなどおそらく自分にはないだろうとエレナは城内で大人しく過ごしていた。


(読み書きは一応できるし、書類の整理くらいならお手伝いできそうなのだけど)


 きっと特区であるバーレーには外に出せない部外秘の内容も多いだろうし、それはお飾り妻(部外者)が見ていい内容ではないんだろうな、とエレナは少し寂しくなる。

 とは言え、いくら手持ち無沙汰でもこの菓子の量は流石に多すぎるなとエレナは苦笑する。


「リーファ……も、食べて……くれ、る?」


「ええ、頂きます。後は城内みんなに配りましょうか?」


「じゃあ、メッセージ、カード」


「もう、筆談は必要ないかと」


 ペンを取ろうとしたエレナを止めて、リーファは笑う。


「で、も、まだ……」


 随分話せるようになったとは言え、まだ途切れ途切れになりがちで、聞き取りづらいだろうと言いかけたエレナに、


「ゆっくりで大丈夫です」


 紅玉の瞳は優しく話しかける。


「エレナ様の声が聞けたら、みんな嬉しいと思うので」


 少なくとも私は嬉しいですと微笑むリーファを見てエレナは静かに頷く。

 彼女はいつも前向きな言葉をくれる。その言葉にエレナは沢山背中を押してもらってきた。


「リーファ、はお……ねい、さんみたい……ね」


 エレナは出来立ての手作りお菓子を一つ手に取り、


「いつも……ありが、と」


 と綺麗に笑った。

 エレナを見て感動したように目頭を押さえたリーファは、うちのお嬢様尊いと叫ぶ。

 そんなリーファはお菓子を受け取ると、

 

「エレナ様、お館様の執務室にお茶のお誘いに行き(カチコミ)ましょう!」


 ぐっと拳を握りしめ力強くそう言った。


「いや、そ……れは」


 流石に迷惑では? とエレナは思ったのだが、


「そうと決まれば、レッツゴー!」


 リーファの中で決定事項らしく、聞き入れてはもらえなかった。

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