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19.その歌姫は、見守られる。

 ルヴァルはため息をつき、乱暴な動作で自身の頭を掻くと、


「リーファ。何で俺が城を空けていたたった2週間の間にエレナが野生に還ったリスみたいになってるのか説明しろ」

 

 ここ最近のエレナを取り巻く現状についてリーファに説明を求める。


「そうですねぇ……リスは確かに可愛いですが、私としてはレア度的に白梟を推したいです。警戒心強めですし」


 やや悩んだように言葉を濁したリーファは、にこやかに笑ってそう答える。

 何を言ってるんだと怪訝そうに眉根を寄せたルヴァルを無視して、


「リーファ様、私としては白梟より管狐を推したいです。もふっとふわっと可愛いところがエレナ様に似ていると思います!!」


「えー可愛さ的にフクロモモンガですよ! 逃げ足早いですし」


「いやいやーハリネズミですよ! 愛らしさも警戒心の高さも花丸満点だと思います」


 などと他の侍女達も口々にエレナを小動物に喩え出す。


「いや、別に喩える動物は何でもいいんだが」


 呆れた口調でそう言ったルヴァルに、


「良くありません! お館様。エレナ様のイメージに関わる重要案件ですよ!!」


「そうですよ! あんなに愛らしい方のイメージに関わるのに"なんでもいい"とは何事ですか!?」


 もっと奥方に関心を持ってくださいと食い気味に怒られた。


「領主の威厳台無しだな、ルヴァー」


 そんなルヴァルに笑いを噛み締め肩を震わせながらリオレートが声をかける。


「顔を合わせそうになるたびに全力疾走で逃げ出す妻。俺としては子ウサギを推したいな」


 脱兎という言葉がピッタリじゃないか、とさっきのエレナの様子を思い出し、リオレートは一票を投じる。


「リオ。お前まで言うか」


 ここ数日のエレナとの鬼ごっこを思い出し、意外と足速いなとルヴァルは苦笑する。

 そして彼女の逃走に対して何故か城の人間、とくに侍女達はやたらと協力的で、びっくりするほど捕まらない。


「何はともあれ、ルヴァー不在の間に城の者とエレナ様が随分親しくなったみたいで良かったじゃないか」


 リーファをはじめとした侍女達の髪や腕、メイド服などに付けられているエレナの手作りだという飾りを見ながらリオレートはそう言った。


 また逃げてしまった、とエレナはクローゼットの中でシーツを被り膝を抱え反省していた。


 ルヴァルが魔物の討伐に出ている間、エレナはずっと彼の事を考えていた。

 ただ信じて待てばいいとリーファは言ったけれど、きっと大変な思いをして帰ってくるだろうルヴァルと彼と一緒に行った兵士のために何かがしたい、とエレナはそう思った。

 本当はカナリアとして"癒しの歌"を歌を歌えればよかったのだろうけれど、今のエレナにそれはできない。

 悩んだ結果、頭に思い浮かんだのは隙あらば自分に餌付けをしようとするルヴァルの姿で、エレナは自分がしてもらって嬉しかった事を返したいと思い、ごはんを作る事にした。

 この城で出されるごはんはとても美味しい。自分が作る必要はないし、むしろ足手纏いになりかねない。

 それでも、エレナは温かいごはんを作ってルヴァル達を出迎えたかった。

 サザンドラ子爵家では散々侍女たちに混ざって働かされていたので、一通り料理はできる。ダメ元で頼みに行ったエレナに厨房の料理人達は驚いたようだったが、リーファの口添えのおかげで了承が取れた。

 ルヴァル達がいつ戻るか分からずアレコレ試作しているうちにあっという間に日は過ぎていき、その間エレナは色んな人に試食してもらい、感想とルヴァルの事を熱心に聞いてまわっていた。

 エレナ本人は至って真面目に素直に取り組むそれは、周りから見れば旦那様のために健気に尽くす若奥様の姿に見えたらしい。

 城内の使用人一同に微笑ましく見守られているなんて気づいていなかったエレナの前にルヴァルが現れたのは一昨日の昼の事だった。


(上手くできたわ。みんなの話をまとめるとやっぱりガッツリした手軽に食べられるメニューがいいみたいだし、リーファも揚げたての唐揚げは絶対外せないって言ってたわね。あとはルヴァル様達がお戻りになってから厨房をお借りして)


 などと考えていたエレナは、目の前の事に集中し過ぎていて、ルヴァルが近づいてきていたことに全く気づいていなかった。


「好きに過ごせとは言ったが、そんなに大量の唐揚げをどうする気なんだ?」


 勝手に消化に悪いものを食べたらソフィアに怒られるぞと呆れた口調でルヴァルはそう言った。


「あ……ル……ルさま」


 咄嗟に出そうとした声はほとんど言葉にならず、ルヴァルの名前を呼ぶ事すらできず消える。

 料理中だったエレナは筆記用具の類を持っておらず、リーファを探して視線を彷徨わせる。が、なぜかいつもそばに控えていた彼女の姿が忽然と消えていた。

 おかえりなさいも唐揚げの言い訳もできずただただルヴァルを見つめ返すエレナ。


「それにしても、そんな格好が好みだったのか?」


 そんな彼女にルヴァルはそう尋ねた。

 エレナは自身の格好をまじまじと見る。今着用しているのはフリルとレースとリボンのついたエレナにしては若干チャレンジ精神を感じる新妻風エプロン。

 ちなみにエレナの趣味ではなく、メイド服を借りたいといったエレナに侍女一同から絶対着て欲しいと懇願され渡されたものである。

 青灰の瞳が揶揄うような色でじぃーと自分の方を見たかと思うと、


「悪くはないな。次から贈るドレスの参考にする」


 ルヴァルに耳元でそう囁かれた。低い声が脳に直接響いたような感覚に、エレナは自分でも訳も分からず叫びそうになる。

 固まったエレナを見ながら意地悪げな笑みを浮かべたルヴァルは、エレナが揚げ具合を確認するためにフォークに刺して持っていた唐揚げをそのまま食べる。

 エレナは突然の事に驚いてただただ見ている事しかできない。


「うまいな。とりあえず、この唐揚げ貰っても」


 いいかとルヴァルが聞き終わる前にルヴァルに皿を押し付けたエレナは一も二もなく逃走した。


 聞き覚えのある足音がピタリとクローゼットの前で止まり、エレナはそろりと顔を上げる。一呼吸おいて軽くノックの音が響き、


「エレナ様、お館様は行ってしまわれましたよ」


 とそっと声がかかる。

 エレナはシーツを被ったままそっとクローゼットの戸を開ける。

 そこにはにこやかに笑うリーファが立っていた。


『ごめんなさい、匿ってくれてありがとう』


 しゅんとした様子でスケッチブックを掲げるエレナを見ながら、


「いいえー個人的にはトキメキときゅんでいっぱいなので」


 いいですねぇ、青春って感じでとリーファはそう言って笑う。

 リーファの言うことが分からずきょとんと首を傾げるエレナに対し、


「あ、そうだ。お館様帰っちゃいましたけど、お茶はしっかり飲んで行かれましたよ。エレナ様がお作りになったお菓子もしっかり完食されて」


 フロランタンが特にお気に召したようですよとリーファはさりげなく伝える。


「さて、シーツ回収しますね」


 そう言ってエレナが被っていたシーツをリーファは回収しつつ、あー今日もエレナ様が可愛いと満足気に微笑む。

 チラッと主人を盗み見た紅玉の瞳には、スケッチブックを握りしめたエレナが耳まで赤く染めて嬉しそうに微笑む姿が写っていた。

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