episode1.6
一部第六話
『戦後処理と恋心と噂好きのピエロ』
「で、何故君がここに?」
あれから二日後の朝。珍しく余裕を持って起きたアメリアは、自宅の椅子に腰掛けて眠気覚ましのコーヒーを啜っていた───思わぬ客を迎えつつ、ではあるが。
アメリアの眼前には、血と砂埃だらけの所々破けた服を鬱陶しげにするあの男が───アルマ・エヴァンズが、佇んでいた。リボルバーは腰に仕舞ってある。
「いやァ、色々あって…ゲロすんならケーサツよりアンタだと思って、さ。」
アメリアは眉を顰める。
「何故そうまでして私に媚びる?」
その不可解が何より腹立たしいのだろう、彼女は表情で”結論から言え”と命じた。
アルマは、溜息をついて───
「───惚れたンだよ、文句あッか!?あァ!?!?」
アルマの背後で、天井の隠し穴から警戒していたクリスがナイフを握ったまま驚きで落っこちて床に叩き付けられた。
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「つまり、あなたは本当に他意無くお嬢に従う気になったと……そう言うことですね?」
いつになく張り詰めた様相のリビングでは、クリスとアルマが向かい合っていた。アメリアはついさっき学校に出掛けたばかりだ。
「おうよ、そう言ってんだろォが。」
「嫌です。」
「あァ!?」
クリスからして見れば、アルマは愛しのお嬢に纏わりつく悪い虫。幼い顔をひっきりなしに顰めて、全表情筋で以て不快感を表現する。
「私はまだあなたを信用していませんし、お嬢を蹴った事、撃った事も許してません。お嬢が魅力的なのは認めますが、惚れたと言うのも急すぎる。怪しいですよ、はっきり言って。」
「ンだよ、てめェも惚れてンのか。
……で、だッたら何だよ、俺は今度こそ死刑だッてのか?」
惚れてんのか、との指摘にはクリスは答えない。
「そうなら良かった。ですが───」
クリスは心底不快、とでも言いたげに吐き捨てる。
「お嬢から伝言です。”人形は沢山集めるに限る”───と。」
操り人形と言う名のアメリアの兵隊、それならば王の兵隊に相応しく頭数は多くあるべきだ。
詰まる所、OKサインである。アルマは溜息を吐いた。
「……ッたく、アメリアちゃんも可愛くないねェ。入ってくださいッて素直に言えばイイのに。」
「殺しますよ?」
「おうよ、かかってこいやァ!」
蹴っ倒される二つの椅子、喧騒。
険悪ながら、それは新しい変化の予兆。良くか悪くか、”風が吹いてきた”とクリスは思った。
「……とかやってるんだろうなぁ。」
アメリアはと言うと、家で行われているであろう取り合いの様相を想像して辟易しながら教室の扉を開けた。
「ねぇねぇ、アメリアちゃんが昨日の事件解決したってほんと!?!?」
開幕、いきなり駆け寄って問い詰めてきたのはエステラであった。
しかも、好奇心に満ちた瞳をした取り巻きを背後にぞろぞろと連れて。
「蹴り一発で倒しちゃったんだって?」
「マフィアが相手だったってマジなの?」
背後で扉が締まる音がする。
流石のアメリアも、帰路につく頃には虚ろな目をしていた。