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サイコ・ゴッドマザー  作者: 月面兎
一部 ~至高の悪~
25/32

episode1.19



一部第十九話


 『想定外』



Shit(くそっ)…!」


 アメリアに襲い来る”想定外”が、着々と彼女の理性を奪う。間違いなくJOKERの刺客による攻撃、しかし二人の兄まで標的にしたのは何故──?二人からアメリアに伝わったら不味い情報があるのか、或いは元から三人きょうだい全員が標的であったか…考えても考えても、そこに納得はなかった。この状況で刺客、それも恐らく複数人の相手と戦うのは得策ではない──何より、どう足掻いても兄たちに”無垢なはずの妹が銃を撃ちナイフを振る異様な光景”を見られることになる。アメリアはまだ、無償の愛をただ受けて育っただけの、闇を知らない末娘で居なければならないのだ。

 その為には、先ず何が何でもクリスを呼ばなければ。この場にアメリアが呼んでも違和感が無く、尚且つ優秀なクリスを。

 近くの高級店らしい洋服屋に入ると、店員の元へ真っ直ぐ歩き声をかける。


「失礼、電話を貸して頂けるかな?」


「あ、はい…」


 単刀直入に、かつ下手に出ない。相手にいいえを言わせる暇を与えないのがコツだ。

 黒髪の女性店員は若干の戸惑いを見せつつも、受話器の元へアメリアを案内した。


Cheers(感謝するよ)。」


 ダイヤルを回し受話器を手に取る。流石なもので、ワンコールでクリスが応えた。


「如何しましたか、お嬢。何か問題が?」


「Thats right。今すぐ来て、刺客に襲われた。私は無事だけど兄様たちが危ない。」


「了解しました──って、ちょっと!」


 電話越しにクリスが首肯するのが分かった──と、クリスの慌ただしい声が聞こえ、受話器から聞こえる声音が変わる。


「よォ嬢ちゃん、俺は行かんでイイのかい?」


 アルマの声だ。相手はヒットマン、彼をこそ是非呼びたいものだが──しかし、兄に見られたら何と言われるか。クリスはアメリアのお目付け役としてアムールで顔が知れているが、アルマは違う。


「…うん、今回は大丈夫。」


 短く告げると、"あ~ィ"なんて腑抜けた声と共に電話は切れた。

 対応の第一段階は完了。僅かながら安心したアメリアの背後に、ふと人の気配がした。彼女の警戒心が振り向けと囁いた、その直感に従って素早く背後を確認する──


「──アメリアちゃん、何してるの?」


 其処に居たのは、愛想の良い笑みを浮かべながら洋服片手に上機嫌のエステラだった。



────────────────────────────────



「わぁ、アメリアちゃんのお友達ってちっちゃいんだね?歳いくつ?クリスくんって言うんだっけ?」


 考えうる限りで最悪の状況が訪れてしまった。


 三人が居るのは先程の洋服店の前。現場に急行して来たクリスはアメリアに着いてきたエステラの餌食。ろくに状況説明も出来ないままご挨拶ムードだ。取り敢えずはクリスが先程から痛い程”助けて”の視線を此方へ投げ掛けてくるのが身に沁みるが、ここは自分で解決してもらうとして。


 今は火急の状況。どうにかしてエステラに疑いを抱かれないプロットを作成せねば──なんて思惑を打ち払うかのように、刹那、殺気。エステラを抱いて飛び退くと、銃弾がガラスを木っ端微塵に砕き高らかな破壊音が響いた。


「ひわぁ!?」


 悲鳴を上げるエステラ、次弾がアメリアの頬を掠めた。敵の姿が見えない、一体何処に──?銃弾は拳銃弾だった、その上で姿を目視出来ないような遠隔狙撃を行っている相手…恐らくアルマに匹敵する腕すら持つ刺客が居る。

 兄たちを助けるだけのつもりが話が拗れた。否、そもそも兄たちはまだ生きているのか──?自分たちにターゲットが移ったと言う事実は、最低でも兄たちの片方は戦闘不能であることを示している。


 形振り構ってられなくなって来た──!懐の拳銃に手を伸ばしかけた時、洋服店の中から叫ぶような声がした。


「早く逃げて!裏口があります!」


 先程の黒髪の女性店員が、カウンターから身を乗り出している。

 幸運、或いは運命か。エステラを担ぎ上げたまま店に入ると、クリスを従えて駆ける。


「この出逢いに感謝を!」


 短く、しかし心からの謝辞を述べると裏口から通りへ。エステラは抱えっぱなしだ。


「だっだだ大丈夫!?重くない!?」


「重くないからちょっと黙ってて!良いって言うまで目も瞑っててくれると嬉しいな!」


 鍛えているアメリアにはエステラの体重ぐらい大したことはない。西日の射し始めた通りをひたすらに駆ける。兄たちが居た場所を今すぐ確認しなければならない。


「お嬢、追ってきていません。先回りされているかも……ッ、あれは…」


 クリスの声に気を取られつつひた走る刹那、逆光に包まれるすらりと長い人影が。あの長身、間違いない──そこに居たのは、血だらけの全身を引き摺る兄、オーウェンだった。


「──エメ……」


 掠れた呟き、血だらけの肢体。血に濡れた髪が陽光で金色と深紅のグラデーションに染まる。肩にルイの体を抱えて、自分の体ごと引き摺るような足取りでオーウェンは歩いていた。


「はやく、手当を──!」


 ルイの体に覗く無数の弾痕、赤黒い塊が傷口から吹き出す。柄にも無く焦るオーウェンの叫びに、クリスが即座に駆け出した。


「え!?えっ!?」



 驚愕の表情で自分とオーウェンを交互に見回すエステラも他所に、アメリアは茫然と二人の影を見詰めていた。

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