episode1.12
一部第十二話
『今日の敵、明日の友』
「ご苦労さん、確認取れたよ。」
ヴィレッタの事務所にて、アルマとクリスは二人揃って依頼達成の報告に来ていた。とは言ってもセントラル・ホールなんかは爆破でボロボロだが、ヒューゴの所持品に恐らく使う予定だったであろうもっと威力のある───それこそビッグ・ベンなんて一発で吹っ飛ばすような高威力の爆弾が見付かったので、結果論的にはだいぶ被害を抑えたとのことで晴れて任務は成功だ。
アルマとクリスは安堵の表情を浮かべる。
「もう二度とごめんですよ、こんなのとタッグなんて…」
「奇遇だなァ、俺も同じだぜこン畜生!誰が倒したと思ってンだ、あァ!?」
「あなたはとどめを搔っ攫っただけでは?」
「殺す!!」
傷を負っても(二人とも骨にヒビ入ったり鼓膜破れたりしてるのだが)元気なもので、取っ組み合いを始めるクリスとアルマからヴィレッタは興味無さげに視線を外すと、くるりと椅子を回転させ二人に背中を向けては言い放つ。結んだ髪の毛がふわりと揺れた。
「さ、帰った帰った。アタシは忙しいんだからね。机の上の”それ”、報酬の情報だからアメリアに渡しといてよ。」
カウンターに置かれている紙の封筒に二人は視線をやった。
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「───ん、お帰り。」
少しばかり時間が経って、アメリアの自宅。トレーニングルームでアメリアは運動をしていた所、クリスとアルマが帰って来た。サンドバッグや武器の並べられた簡素な部屋、アメリアはいつに無く薄着で、打ち込みでもしていたのかサンドバッグの前で僅かに肩で息をして、汗もかいている。
舐め回すようにジロジロ視線を注ぐアルマの脛をクリスが蹴とばした。
「お嬢、これが例の報酬です。」
クリスが差し出す封筒をアメリアは破いて、中身を確かめる───
「───ふむ。」
アメリアの短い呟きからは、二人は一切の情報を読み取れなかった。
一枚の紙切れを手にしつつ、まるで本でも読んでいるかのような静かな様相に、クリスはふと思い当たった。
或いは、彼女は驚いている時間さえ勿体無い程の超”重要機密”に直面したのでは───と。
「誰なンだい、結局……」
答えを急ぐアルマの問い掛けは最も過ぎるほど最もだ。しかし、アメリアは微動だにしない。切れ長の瞳から覗く眼球が、手に握った紙切れを射抜いて宙を見詰めている。
一分程の静寂が過ぎた頃、アメリアがふと顔を上げた。
「次にやるべきことが決まった。」
彼女の体がふわりと回転して、空中で綺麗な弧を描いて舞いすらりと長いその足を背後のサンドバッグに叩き込む。サンドバッグが衝撃で横に大きく揺れた。
「内部潜入だ。潜り込むよ───父様の懐、組織の中へ。私の調べたことは無駄にはならなかったようだね───」
アメリアは紙切れを二人に向ける、
アルマとクリスは、二人して目を見開いた。
「「……!?」」
”暗殺を依頼します。目標はロンドン市街───番地の一番大きな家に住んでいます。確実に息の根を止めてください。目標の名前はアメリア・ジャックハート。相応のお礼はします。
アムールUnderBOSS JOKERより”
「マジかよ、これ…」
「これが真実だとするなら…」
アメリアの様には行かず狼狽える二人。そこにアメリアが声をかける。
「二人とも、落ち着いて───」
ゆっくりと歩み寄ると、アメリアは二人の間に。
「頑張ったね。今日は何も考えずに休んで良いよ、二人とも。」
腕を持ち上げると、クリスとアルマの頭をぽんぽんと撫でた。
ちらりと映る横顔は酷く魔性的で、それなのに掌は聖母のように優しく───アルマとクリスは同時に、同じことを思った。
一生着いて行きたい───と。
「さて、ご飯の支度しなくっちゃね。」




