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サイコ・ゴッドマザー  作者: 月面兎
一部 ~至高の悪~
13/32

episode1.9



一部第九話


 『爆ぜるアーティストと冷徹な悪意』



 粉塵の中で、クリスとアルマは視界の回復を待った。

 鼓膜に居座る高音──爆発の威力は耳の奥の三半規管の揺らぎが教えてくれる。視界が晴れた時、あの男は既に何処かに消え、アルマは片耳から血を流していた。瓦礫が飛散したからか、クリスからは見えないが背中も傷だらけだ。

 アルマは鼻をつまむと、ぷしッと音を立てて片耳から血が噴き出す。鼓膜が破裂したらしい。


「……ッお、鼓膜片っぽやられてらァな。いッてェ…とか言ってる場合じゃねェよ、アイツどこ行った!?」


「逃げられましたかね…」


 アルマは立ち上がり、追ってクリスも立つ。民衆はもう皆逃げ出したようで、僅かな遠くでざわめきと大勢の足音が聞こえる。

 片手首は奪った、しかしその程度ではテロを止めるには足りない。クリスは若干焦燥に駆られた。


「何故急所を狙わなかったんですか?貴方なら出来たでしょう。」


「あァ??よく聞こえねーな。先ずは生け捕り狙うだろォがフツー。今度はちゃんとブッ殺してやンよ。」


 アルマは一発、弾丸を補充すると、くるくると掌で銃を弄びながら凄絶に笑う。

 クリスはと言うと、今だけアルマの狂気に頼るしかない事実に溜息を溢しては、頼れるヒットマンの袖を引いて歩き出した。


「──私が大人にならないといけませんかね、お嬢。」


 空に向かって呟いた溜息は、立ち上る黒煙に紛れて消えた。


 信頼するしかないのだ、この狂人の射撃の腕を。



────────────────────────────────



 クリスは一人、ウェストミンスター宮殿の敷地内を歩いていた。

 既に人気はなく、”仕事のお早い”警察官どもはまだ到着する様子はない。まぁ、今来られたって困るので構わないのだが。

 あのテロリストはまだ目標を変えていないだろう。手首を奪われようとも、ああ言う輩は自分の計画に支障が出ることを何より嫌う───アメリアが教えてくれたことだ。狂人の心には絶対的な優先順位があり、命より重い目的も彼らには珍しいものでは無いのだと。

 ”それはお嬢のことでもあるでしょう──”なんてクリスは笑って返したものだ。あの爆弾魔と違って、アメリアの狂気は美しい。


「さて……早く出てきて貰いたいものですね。」


 眼前に見据えるのは宮殿のセントラル・ホール。

 ヴィレッタを通じて渡されたあの依頼の手紙はとある地図と同封で送られて来ていた。宮殿の敷地内の爆破予想地点───ビッグ・ベンに最も近い爆破予想地点は此処、中央に位置するホールだ。

 テロリズムは無作為な破壊ではない。英国の象徴を徹底的に破壊し尽くす為には、計画性と大胆さが寛容なのだろう。要するに、面倒な敵だ。

 クリスは軽い体を宙に舞わせて外壁を登り、窓から内側の様子を伺う──ふと、窓の向こうに特徴的な影がチラついた。それも、窓に向かってくる──手榴弾(グレネード)


「ッ!!」


 咄嗟に飛び、窓の横の外壁に張り付く。

 破裂音と共に窓ガラスが木っ端微塵に砕け散り、寸刻前にクリスが居た場所は黒煙とガラス片に覆われた。背筋が凍るような、間近に迫る死の感覚。

 しかし──


「──慣れてますよ、このぐらい。」


 煙の止まぬうちに、クリスは窓からホールへ飛び込んだ。

 宙を舞うクリスの体が地に足着けるまでの寸秒、その瞬間にすらつんざく殺気。咄嗟に腰からナイフを抜き左に構えると、そこに居たのは大振りのナイフを振りかぶる爆弾魔。既に振りかぶったナイフの刃がクリスを狙う──その刃を辛うじてナイフで弾くとそのまま反動で飛び退いて距離を取った。

 爆弾魔は舌打ちする。


「邪魔すんなよォ、俺の創作活動に水差してんじゃねェよォ…!」


 血走った眼球は真っ直ぐクリスを射抜く。クリスは片手に握ったナイフを前に構えると、まるで誰かの真似をするようにへらりと笑った。


「私は唯物主義なので。」


 或いは神がいるとするならば、それはお嬢のことなのだ。クリスは本気でそう思う。


「縁も恨みも有りませんが、お嬢の為に死んでください。」



 お嬢の敵であるならば、それが芸術の情熱だろうとぶっ壊してやるのだ。

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