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17.猫、不審な気配を察知する

 その日、ぼくは母屋――――つまりぼくとマシロが本格的に居住するためのお家を造る作業をしていた。ガワはもう大体出来上がっていて、あとは屋根を張れば完成ってかんじ。

 今回屋根は素焼き瓦じゃなく、スレート瓦――――平たい石材を使った瓦――――にするんだ。それで今、【粘板岩】を薄く剥がして加工しているところ。


 粘板岩はマシロと一緒に侍山の麓で採ってきたんだけど、案の定ハヤブサどころか鳥っ子一匹現れなかったよ。

 まあマシロが怖いっていうのもあるだろうし、ハチノジに懲りたっていうのもあるかもね。情けない奴等だなあ!


 粘板岩はね、作業台の上で、タガネを金槌で打ち込んで剥がしていくの。

 作業台のレシピ機能で一気に瓦加工することもできるんだけど、手作業加えたほうが均一でない、自然な味わいがでるんだよね。それで最終的に形を整えるのは作業台さんにお願いすることにして、石割作業だけ自分でやることにしている。


 もっともマシロツールのアシストパワーが加わってるから、全然簡単なんだけど。剥がしたい箇所にタガネを当てて、金槌でこーんって叩くだけの簡単なお仕事です。

 薄い石材が沢山積み上がっていくの、楽しいなあ。


 けれどぼくはふと、作業する手を止めた。ヒゲをぴんと張って、耳を澄ます。

 お山の下方から、声がする……?

 マシロのものでもない、イッパチ夫妻のものでもない、シジマのものでもない、全然知らない声だ。しかも複数。


 不審に思ったぼくは猫の姿に変じて山を下りていった。茂みに身を隠しながら、慎重に声のするほうへ近付いていく。

 そして目にした異様な集団に、ぼくは首を傾げた。


 それは全員白装束の、人間――――といってもどうせ変化した幻獣だろうけど――――の隊列だった。彼等は揃って真白い袴姿の男で、皆黒髪短髪塩顔という似たような風貌をしている。

 そして、先頭のほうに一つと、後方に一つ、形の違う籠を担いでいた。


 先頭の籠は、“駕籠”ってやつ。

 時代劇とかにでてくる人が乗る用のもので、作りも飾りも繊細で煌びやかだ。きっと偉いひとが乗っているに違いない。

 対照的に後方の籠は竹を編んだすかすか簡易な作りで、っていうか普通に乗ってるひとも丸見え。

 で、中に誰がいるかというと、巨大な黄色いヒヨコがいた。


 頭でっかちで、胴体もまるっとしてて、どこが首なのか分かりやしないフォルムは、ちょっとマシロに似ていると言えなくもない。

 ヒヨコのサイズは、背丈が人化したぼくより頭一つ大きいくらい。

 体重もかなりありそうだから、運んでる人、四人態勢とはいえなかなか大変そう。このお山、舗装された道なんかないし、斜面も急なところ多いからね。


 そこまでデカくて“ヒヨコ”とはいかに? って思う人もいるかもだけど、でもあの見た目はやっぱりヒヨコなんだよなあ。ちまっとしたクチバシとか、発達してなさそうなちっちゃい翼とか。


 ぼくは存在感の強いヒヨコに目を取られながらも、男達がひそひそと交わす会話に耳を澄ませた。中心になって喋っているのは、豪華なほうの籠に乗っている誰かさんのようだ。


「御屋形様。件の巣窟が見えてきました。あのユメクイのねぐらにしては随分几帳面で頑強そうな造りをしている」

「鷹が騒いでいたのは本当だったか。食べることと寝ることにしか興味のなさそうなデカブツが、よくこんなものを造れたものだ。ホッカイ、知っているか。あれは人間界で言う王城というやつだ。奴はこの地に城を建てだしたというわけだ」

「なぜそんなことを」

「城とはつまり、国の中枢に建つもの。奴は自らの優位性、縄張りを主張しているのだろう。我々を支配下に置こうという魂胆だ。聞けば静寂の森にも似たような城ができているというじゃないか。あれはいわば旗――――征服完了の印なのさ」


 どうやら連中はぼくの建てた倉庫と、造りかけのお家について話しているらしい。彼等にはあれが王様の住むようなお城に見えているようだ。

 そんなに褒めてもらっちゃ困るなあ、えへへ。


「落ちぶれたフクロウどもめ。誇り高き一族はどこへいってしまったというのか。信じられません。……御屋形様、あのような品のないケモノに、果たして我々高貴なる一族が媚びへつらう必要などあるでしょうか。今一度、考え直されては」

「ホッカイ、これはただの友好の印さ。媚びているわけではない。それに、奴の王獣としての力は本物なのだ。下手に不興を買うよりは、機嫌を取って飼い慣らしたほうがずっといい」

「ほう。『飼い慣らす』、とな……?」

「アレに力があることは認めるが、とても知性のある生き物には見えないからね。であればこちらで有効利用させてもらおうじゃないか。今回の訪問は、そのための心づけを渡すだけに過ぎない」


 彼等の話はぼくには難しくてよく分からなかったけど、あいつら性格悪そうだな、ってことくらいはぼくにも分かった。駕籠に乗ってる御屋形様とやらもなんか鼻につく話し方だし、むかつくなあ。

 と、ひとりでイライラしているところで、ぼくは視線に気付いた。


「ぴよ……」


 げ。


 ヒヨコと、目が合ってしまった。いつの間にか気付かれていたようだ。

 じっとぼくを見つめるヒヨコの視線には、何か訴えるようなものが感じられる。ヒヨコはぽろぽろと涙を零していた。

 堪らずぼくは目を逸らした。そのつぶらな瞳から、何かこう、抗えない圧力を感じたのだ。


 ぼくはさっと身を翻し、拠点に舞い戻った。そして作業場の隅で溶けかかっているマシュマロを踏み踏みする。


「マシロ、マシロ」

「う~~~~ん……。なにい、ネムちゃん……。もうちょっと寝かせてよお……」


 微動だにしないマシュマロにめげずに肉球パンチを食らわせていると、彼はようやくくぐもった返答を寄越した。


「寝てる場合じゃないよ。なんか変なの来た」

「『変なの』……?」

「白い奴等がいっぱい。あとでっかいヒヨコも」

「なんだネムちゃんもまだ夢の中か……」

「違うってば!」


 頑なに現実逃避に走るマシロをなんとか叩き起こしたところで、外から声が響いた。


「ご免つかまつる!」


 マシロを引っ張って出て行くと、案の定さっきの白い男達が綺麗に隊列を組んだまま待っていた。彼等はマシロを見て少したじろいだけれど、次いでぼくを見て不思議そうな顔をする。

 しかしそれも一瞬のこと。男達はすぐに片膝を付いて頭を垂れた。

 そして下ろされた駕籠から、白髪の男が現れる。


 彼もやはり白い袴姿で、けれどうっすら透かし模様の入った羽織を着ていたり、金の帯を巻いていたりと、他の男達よりも煌びやかな格好をしていた。

 整った容貌と垂れ気味の一見柔和そうな(まなじり)は、優男風イケメンと言って差し支えない。

 けどぼくは好きなタイプじゃないな。さっきの印象もあるだろうけれど、仕草が嫌味ったらしいもの。


「お初にお目にかかります、ユメクイ殿。私はアワユキレイカクと申します。鶴の一族を纏める者にございます」


 アワユキとやらは芝居がかった流麗な動作で、一礼する。その際ぼくに目を留めてやはり怪訝そうな顔をしたが、そんな表情はすぐに胡散臭い笑みで消した辺りさすがと言えた。


 マシロはといえば、特に動揺した素振りも見せず、ぼけーーっとした表情でいつものつぶらな瞳を彼等に向けている。

 けどぼくには分かった。

 その黒い瞳はなんだか虚ろで、あからさまに“興味なし”と書いてあることに。ちょっと冷ややかにさえ見える。

 マシロにもこいつらが性格悪そうってこと、分かるのかな。

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