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姫様の計画

 突然の提案に驚いてしまった。まさか異世界に来てまで元の世界と同じ事をするとは思わなかったからだ。驚いた顔で固まっていると彼女が話し始めた。


「ごめんなさい、急にこんなこと言っても驚くわよね。まずは自己紹介。ワタシの名前は第8王女デッドアイ。デッドアイ・ベルライト・ノーヴィランよ。」


 どうやら彼女、姫様だったらしい。確かに端正な顔立ちにスタイル抜群のプロポーション。艶のある黒髪からは立派な角が生えている。どこか気品のあるオーラは王族のそれなのだろう。


「ワタシはね、お父様が次に人間を召喚するって言った時から楽しみにしてたの!魔王城に人間が来るの初めてなのよ」


 姫様である以上あまり失礼な態度はとれないのだが、自分はただの一般人。貴族的な振る舞いなんぞアニメや映画でしか見たことはない。


「姫様、私は平民の出です。礼儀作法が分かりません。失礼な態度をとってしまうかもしれません」

「大丈夫大丈夫、別にワタシの下僕になれって事じゃないの。あのね、ここって人間はワタシだけなの。正確には人間と魔族のハーフだけど」


 彼女はとてもフランクに話しかけてくる。少しだけ緊張が解れた気がする。


「それでね、同じ価値観を持ってる人が欲しかったの」

「同じ価値観…ですか」

「そうなの、あのねワタシ達って人間のような生活様式とは違うのね。だからその…なんというか…」


 彼女は少しだけ顔をしかめながら言った


「不衛生なのよね、この城…」


 確かにここはキレイとは言い難い。私は清掃業なのでガラス掃除だけでなくハウスクリーニングもやるし、床やカーペット清掃、トイレ清掃、エアコンクリーニング等々、基本的にはお客様に言われれば何でもやる。なので普通の人よりは臭い耐性もあるし多少不衛生でも慣れたものだが、おそらくこの魔王城内には掃除という概念は無いに等しいと思った。


「確かにそうですね、魔王城には召使いとかメイドとかいないんですか?」

「使い魔に物を運ばせたりとかはあるけど、掃除は見たことないわね」

「これは中々…大変だなぁ」

「まずはね、この付近のエリアを何とかしてほしいの。ここはワタシの部屋が近いの」

「できれば地図か図面みたいのがあると助かるのですが」

「持ってないわよ、そんなもの。でも…そうね。とりあえず空き部屋があるからそこで待ってて。」


 姫に案内され空き部屋とやらに来たが…


(椅子と机はあるけど、ほぼ倉庫だな…)


「ここで待ってて。あ、今日からここはアナタの部屋として使っていいから」


 そう言うと彼女はドアをバタンと閉めてどこかへ行ってしまった。


(とりあえずヘルメットとハーネスと腰袋を外そう)


 この世界に召喚される前の格好だったので、ロープ作業の装備一式を外して近くの椅子に腰掛ける。


(なんか一息ついたら、どっと疲れた…)


 窓から外をぼんやりと眺める。暗雲が垂れ込んでいる景色に異世界っぽさを感じながら今後の事を考えようとするが、あまりにも考えることが多すぎて頭が痛くなり考える事をやめた。


(なるようにしかならないか…)



 廊下から足音が聞こえてくる。バンッ!とドアを乱暴に開けながら彼女が入ってきた。手には大きな筒状の紙のようなものを持っていた。


「ジャーン!紙とペンを借りてきたわ」

 

 満面の笑みで鼻歌を歌いながら彼女は机に向かった。まるで戦争映画の司令部よろしく、机の上のものを薙ぎ払って紙を広げた。そしてペン…というか羽ペンなのだが、一体何の羽なんだろうか、とても禍々しい。


「ここがこの部屋ね、それで――」


 彼女は紙にこの辺りの地図を書き込んでいった。

 (てか、この羽ペン凄っ!インクに浸してないのに書けてる)

 

「――で、ここがワタシの部屋ね。ここは立ち入り禁止!絶対!わかった!?」


 顔をグイッと近づけて警告してきた彼女に思わず体を退け反らせてしまった。首を縦に振って了解の意を示す。これでこの辺りの大体の間取りが把握できた。


「まずはワタシの部屋の前から廊下を掃除してちょうだい。この辺りはスライム達とかスケルトン達が徘徊してるの、それでね問題はスライム。彼らの通った跡があちこちにあるでしょ、それにすこし臭うのよ」


 ここに来るまでの廊下にナメクジの通った跡のようなものが、そこかしこにあったのはスライムの通った跡だったらしい。


「姫様、掃除するのは構わないのですが…掃除道具とかってあります?」

「無いわね。あ、箒なら人間の街に行けば買えると思うけど」

「そうですか…しかしこの世界のお金持ってな――」

「行く!?なら一緒に行きましょ!お金なら心配ないわ!あぁ…誰かと街に行くなんて初めてだわ!ちょっとワタシ準備して――」


 言い終わる前に部屋から飛び出して行ってしまった。テンション高いなあの人。とはいえ魔族の姫が人間の街に行って大丈夫なのだろうか。私は机から落とされた小物を片付けながら待つ事にした。


「さあ!出発よー!」


 開けっ放しの扉の先に、仁王立ちで1人の美女が立っていた。姫なのだが角が無い。服装もお嬢様という感じの服に着替えていた。誰がどう見ても人間に見えるだろう。


「早く!ミシオンのところに行くわよ!」


 彼女は僕の手を引いて駆け出した。


(めっちゃイイ匂い…)


 彼女の残り香を楽しみながら走る…はずだったのだが、人間と魔族の性能の違いを思い知らされた。


「ひ、姫!は…速すぎる!」


 風に揺られる鯉のぼりのように、僕は姫の後ろを泳いでいた。

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