宇宙の終わりまで、アリとキリギリス。
──暑い夏がやってきました。
アリ達が長い行列を作って、巣に食べ物を次々と運んでいます。
その傍らで、キリギリスがバイオリンを弾いていました。
「やあ! キミ達はそんなに働いてどうするんだい?」
「冬が来る前に、蓄えてるんだ」
キリギリスはそれを聞いて笑いました。
「ハッハッハー! 大丈夫大丈夫。今から働かなくても何とかなるさ!」
キリギリスはバイオリンを弾き続けました。アリは餌を運び続け増しました。
──冬がやってきました。かなり寒いです。シベリア寒気団がメッチャ元気です。
「ヤバいヤバいヤバいヤバい……凍え死ぬ!」
キリギリスは凍り付いたバイオリンを抱え、食べ物を探し猛吹雪の中、ひたすらに彷徨っておりました。
「灯りだ!」
それはアリの巣から漏れる灯りでした。
キリギリスは慌ててアリの巣のチャイムを鳴らしました。
「誰です? こんな吹雪の中……」
アリがインターフォンの画面を覗くと、今にも死にそうなキリギリスが映りました。
「私が間違っていた……どうかお願いだ。助けてもらえませんか?」
「……ふぅ、仕方ない」
アリは、巣の前でのたれ死なれても困ると思い、キリギリスを巣の中へと迎え入れました。
「ありがとうございます、ありがとうございます。これからは真面目に働きます」
キリギリスは何度も頭を下げ、深く反省しました。
冬が終わるまで、キリギリスはアリの巣でバイオリンを弾いてアリ達を楽しませました。
──暑い夏がやってきました。
アリ達が長い行列を作って、巣に食べ物を次々と運んでいます。
その傍らで、キリギリスがバイオリンを弾いていました。
「やあ! キミ達はそんなに働いてどうするんだい?」
「見れば分かるだろ? 冬が来る前に、蓄えてるんだよ」
キリギリスはそれを聞いて笑いました。
「ハッハッハー! 大丈夫大丈夫。今から働かなくても何とかなるさ!」
キリギリスはバイオリンを弾き続けました。アリは餌を運び続け増しました。
──冬がやってきました。かなり寒いです。十年に一度の大寒波です。
「ヤバいヤバいヤバいヤバい……凍え死ぬ!」
キリギリスは凍り付いたバイオリンを抱え、食べ物を探し猛吹雪の中、ひたすらに彷徨っておりました。
「灯りだ!」
それはアリの巣から漏れる灯りでした。
キリギリスは慌ててアリの巣のチャイムを鳴らしました。
「誰です? こんな吹雪の中……」
アリがインターフォンの画面を覗くと、今にも死にそうなぶんず色のキリギリスが映りました。
「私が間違っていた……どうかお願いだ。助けてもらえませんか?」
「……ったく、仕方ない」
アリは、巣の前でのたれ死なれても困ると思い、キリギリスを巣の中へと迎え入れました。
「ありがとうございます、ありがとうございます。これからは真面目に働きます」
キリギリスは何度も何とも頭を下げ、深く反省しました。
──暑い夏がやってきました。
アリ達が長い行列を作って、巣に食べ物を次々と運んでいます。
その傍らで、キリギリスがバイオリンを弾いていました。
「やあ! キミ達はそんなに働いてどうするんだい?」
「おいおい、冬が来る前に蓄えてるんだってば」
キリギリスはそれを聞いて笑いました。
「ハッハッハー! 大丈夫大丈夫。今から働かなくても何とかなるさ! 多分ね」
キリギリスはバイオリンを弾き続けました。アリは餌を運び続け増しました。
──冬がやってきました。かなり寒いです。今年の風邪はノドにくるタイプです。
「ヤバいヤバいヤバいヤバい……流石に凍え死ぬ!」
キリギリスは凍り付いたバイオリンを抱え、食べ物を探し猛吹雪の中、ひたすらに彷徨っておりました。
「灯りだ!」
それはアリの巣から漏れる灯りでした。
キリギリスは慌ててアリの巣のチャイムを鳴らしました。
「誰だこんな吹雪の中……奴か」
アリがインターフォンの画面を覗くと、バイタル停止寸前のキリギリスが映りました。
「私が間違っていた……どうかお願いだ。助けてもらえませんか?」
「…………」
アリは、巣の前でのたれ死なれても困ると思い、キリギリスを巣の中へと迎え入れました。
「ありがとうございます、ありがとうございます。これからは絶対真面目に働きます」
キリギリスは何度も頭を下げ、深く反省しました。
冬が終わるまで、キリギリスはアリの巣でバイオリンを弾いてアリ達を楽しませました。アリにもバイオリンを教えたりもしました。
──暑い夏がやってきました。
アリ達が長い行列を作って、巣に食べ物を次々と運んでいます。
その傍らで、キリギリスがバイオリンを弾いていました。
「やあ! キミ達はそんなに働いてどうするんだい?」
「冬、蓄え、以上」
キリギリスはそれを聞いて笑いました。
「ハッハッハー! 大丈夫大丈夫。今から働かなくても何とかなるさ!」
キリギリスはバイオリンを弾き続けました。アリは餌を運び続け増しました。
──冬がやってきました。かなり寒いです。百年に一度の異常気象です。
「ヤバいヤバいヤバいヤバい……凍え死ぬ!」
キリギリスは凍り付いたバイオリンを抱え、食べ物を探し猛吹雪の中、歩いておりました。
「灯りだ!」
それはアリの巣から漏れる灯りでした。
キリギリスはゆっくりとアリの巣のチャイムを鳴らしました。
「…………」
アリがインターフォンの画面を覗くと、今にも死にそうなキリギリスが映りました。
「私が間違っていた……どうかお願いだ。助けてもらえませんか?」
「…………」
アリは無視しました。
「頼む! お願いだ! 開けてくれないか!?」
「バイオリンをくれ」
「分かった! あげるから開けてくれ!」
アリの巣の扉が開きました。
三日分の食料が飛んできました。
代わりにバイオリンを取られました。
アリ達は教わったバイオリンで、楽しい冬を過ごしました。
キリギリスはアリの巣の前でかまくらを作り、寒さの中パンを囓り、そして翌朝には凍えて死んでしまいました。
──暑い夏がやってきました。
アリ達が長い行列を作って、巣に食べ物を次々と運んでいます。
その中にはキリギリスの体もありました。
彼はようやく巣の中へと入ることが許されたのです。